急性喉頭蓋炎 acute epiglottitis
急性喉頭蓋炎とその疫学
・急性喉頭蓋炎(acute epiglottitis)は喉頭蓋とその周辺組織の蜂巣炎を指し、声帯直上で炎症性の浮腫が生じるため、気道閉塞のリスクが高い疾患である。
・全年齢で発症し得る。
・以前はインフルエンザ菌(H.influenzae)が起因菌の多くを占めていたが、Hibワクチンの導入により、A群β溶連菌が占める割合が多くなった。
・成人における急性喉頭蓋炎の発症率は10万人あたり1~3人程度で、死亡率は約7%という報告もある。
・通常は感染性の病態であるが、非感染性の喉頭蓋炎の原因としては異物誤飲による外傷性、熱傷性などが挙げられる。熱傷や腐食性障害の後に、嚥下困難、流涎、吸気性喘鳴が認められた場合は気道閉塞のリスクが高い状況にあると考えられる。
臨床症状/身体所見
・急性喉頭蓋炎では典型的には急性経過で高熱、激しい咽頭痛が生じる。激しい咽頭痛がみられる割には中咽頭の視診所見に乏しい点が特徴ということは有名である。
・また気道の通りを少しでも改善させるために、前傾姿勢をとることも多く、tripod position(三脚位)とも呼ばれる。
・そのほか、くぐもった声(hot potato voice)、嗄声、嚥下時痛、嚥下困難、流涎などがみられることがある。また、急性喉頭蓋炎では咳嗽は一般的に伴わない。
・なお、小児の急性喉頭蓋炎では呼吸困難、吸気性喘鳴がみられることが一般的であるが、成人の急性喉頭蓋炎ではその頻度は比較的低い。成人例ではほぼ全例で認められる症状として嚥下困難が挙げられ、嗄声(75%)が次ぐ。
・またTripod position、喘鳴、頻脈、頻呼吸、斜頸、急速な臨床経過、頸部側面X線撮影でのThumb sign(約80%)は上気道閉塞のハイリスク所見という報告がある。
・身体診察では頸部の圧痛がみられることがある。
臨床検査
・頸部側面X線撮影ではThumb sign(喉頭蓋の腫脹)やVallecula sign(喉頭蓋谷の消失)がみられることがある。これらの所見の診断学的特性は文献により様々であり、所見がないことをもって安易に否定しないことが重要かもしれない。また、側面撮影での喉頭蓋の幅(epiglottis width)が最も診断精度が高いという報告もあり、カットオフ値を6.3mmとすると感度75.8%、特異度97.8%、AUC:0.867と示された。
・頸部の超音波検査では舌骨に対して垂直にプローベを当てて、喉頭蓋腫脹を反映する”アルファベットPサイン”を確認できる場合がある。
・急性喉頭蓋炎の診断のゴールドスタンダードは喉頭ファイバーで喉頭蓋の腫脹を確認することとされている。また、CT撮像も参考所見として行われることがある。
起因菌
・A群β溶連菌、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、緑色連鎖球菌、カンジダ・アルビカンスの頻度が比較的高い。
・Hibワクチンの導入以降はインフルエンザ菌による急性喉頭蓋炎は減少傾向にあるが、高齢者や免疫不全者では比較的多いとされる。
マネジメント
・上気道閉塞の徴候がみられるケースでは画像検査などよりも気道確保を優先するべきである。ただし、急性喉頭蓋炎の気管挿管は困難なことも少なくなく、状況によっては輪状甲状靱帯切開/穿刺を考慮するケースもある。
・臥位にさせることで気道狭窄が悪化することがあるため、原則として座位を維持させる。
・喉頭浮腫の改善を目的に、ネブライザーの使用やデキサメタゾンの投与が行われる場合がある。また、副腎皮質ステロイドの使用がICUおよび全入院期間の短縮と関連するという報告もある。
・抗菌薬はMRSAをカバーすることもときに検討する。CTRX+VCMやABPC/SBT+VCMなども検討される。
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<参考文献>
・Abdallah C. Acute epiglottitis: Trends, diagnosis and management. Saudi J Anaesth. 2012 Jul;6(3):279-81. doi: 10.4103/1658-354X.101222. PMID: 23162404; PMCID: PMC3498669.
・Lee SH, Yun SJ, Kim DH, Jo HH, Ryu S. Do we need a change in ED diagnostic strategy for adult acute epiglottitis? Am J Emerg Med. 2017 Oct;35(10):1519-1524. doi: 10.1016/j.ajem.2017.04.039. Epub 2017 Apr 20. PMID: 28460811.