身体症状症 somatic symptom disorder
身体症状症とその疫学
・2013年のDSM-Ⅴ(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)の発表に伴い、以前は身体表現性障害と呼ばれていた概念が「身体症状症(somatic symptom disorder)および関連症群」という概念に変わった。
・この変更により、症状自体の性質よりも、身体症状に対する人の反応に焦点が当てられることとなった。
・一般集団における身体症状症の有病率は5~7%と推定され、プライマリ・ケアの現場では一般的なカテゴリーの一つである。
・身体症状症の男女比は1:10と推定されている。
・身体症状症はパーソナリティ障害と関連性がある。
病因
・身体症状はある種、身体感覚に対する意識が強まることと、その身体症状が何らかの医学的な疾患に起因するはずという解釈とから生じることがある。
・身体症状症の病因は明確でない。
・しかしながら、慢性的かつ重度な身体症状のリスク因子としては小児期のネグレクト、性的虐待、乱れたライフスタイル、アルコールあるいは薬物乱用の既往などであることが研究で明らかとなっている。
・心理社会的なストレス要因は患者がどのように医師と対峙するかに影響する。
・身体化した患者はそうでない患者と比べて、失業率が有意に高いことが示されている。
・精神症状がスティグマとともに扱われる際に、患者は身体症状を呈しやすくなることがある。
DSM-Ⅴにおける身体症状症の診断基準
- 1つまたはそれ以上の, 苦痛を伴う, または日常生活に意味のある混乱を引き起こす身体症状
- 身体症状, またはそれに伴う健康への懸念に関連した適度な思考, 感情, または行動で, 以下のうち少なくとも1つによって顕在化する.
- (1).自分の症状の深刻さについての不釣り合いかつ持続する思考
- (2).健康または症状についての持続する強い不安
- (3).これらの症状または健康への懸念に費やされる過度の時間と労力
- 身体症状はどれひとつとして持続的に存在していないかもしれないが, 症状のある状態は持続している(典型的には6ヶ月以上).
▶該当すれば特定せよ
疼痛が主症状のもの(従来の疼痛性障害):この特定用語は身体症状が主に痛みである人についてである.
▶該当すれば特定せよ.
持続性:持続的な経過が, 重篤な症状, 著しい機能障害, および長期にわたる持続期間(6ヶ月以上)によって特徴づけられる.
▶現在の重症度を特定せよ.
軽度:基準Bのうち1つのみを満たす.
中等度:基準Bのうち2つ以上を満たす.
重度:基準Bのうち2つ以上を満たし, かつ複数の身体愁訴(または1つの非常に重度の身体症状)が存在する.
鑑別診断
・身体症状症が疑われる患者ではその身体症状が何らかの精神疾患によるものである可能性を想定すべきである。
・具体的にはうつ病、パニック障害、全般性不安障害、薬物使用障害、病因の不明瞭な症候群(慢性疲労症候群など)。
・そのほか、精神疾患以外の器質因(例: 甲状腺機能異常など)の可能性も検討する。
スクリーニング
・”Patient Health Questionnaire-15(PHQ-15)”は身体化症状を検出するためのスクリーニングツールとして使用されることがあるが、より新たに開発された”Somatic Symptom Scale-8”は身体症状の負荷を評価するのに有用である。
・”Somatic Symptom Scale-8”の信頼性および妥当性が高いことは既に検証されていて、カットオフにより身体症状の負荷が低いケース、中等度のケース、高いケースが識別できる。このスケールは14歳以上の2,510人のRandom sampleにより検証された。
・ただし、スクリーニングツールを利用することは有用であるが、身体症状症と診断するためにはあくまで前述のDSM-Ⅴの診断基準を満たす必要がある。
・PHQ-15では0~4点は身体症状症らしくなく、5~9点が軽度、10~14点が中等度、15点以上が重度と判定される。Somatic Symptom Scale-8では4~7点がLow、8~11点がMedium、12~15点がHigh、16~32点がVery highと判定される。
マネジメント
・身体症状症のマネジメントでは患者の個別性に配慮した多面的なアプローチが必要。
・適切な治療計画を選択するためには身体症状に影響を与えている心理的/社会的/文化的要因を念頭に置くべきである。
・プライマリケアの現場におけるマネジメントとしては定期的かつ短期的なフォローアップの機会を設けること、患者の症状の存在を疑わずに認めて正当化すること、診断的検査を漫然と行わずに制限すること、重篤な疾患が除外されたことを認識してもらうこと、身体症状への患者自身がCopingできるようにすること、治癒ではなく機能的改善を治療目標とすること、ときに適切に精神科医などに紹介できることが挙げられる。
・”CARE MDアプローチ” はプライマリケア医が身体症状症に効果的に対応できるように開発された。CARE MDは”Consultation/Cognitive behaveor therapy, Assessment, Regular visits, Empathy, Medical/psychiatric interface, Do no harm”の頭文字から成る。
・認知行動療法やマインドフルネスに基づく治療法は専門家によって提供される、有用性が証明された治療法である。
薬物療法
・身体症状症の治療に使用される薬剤としては抗うつ薬、抗てんかん薬、抗精神病薬、生薬などが挙げられる。ただし、薬物治療の有用性は限定的とされる。
・システマティックレビューでは身体症状症の治療における抗うつ薬の有用性が示されている。94のメタアナリシスにおいて、抗うつ薬は相応の有益性を示し、NNT 3という報告もあった。特に三環系抗うつ薬は有用性を示し、SSRIよりも有効である可能性が高い結果であった。アミトリプチリン(トリプタノール®)は比較的よく研究されている抗うつ薬で、疼痛、朝のこわばり、睡眠、疲労、疼痛、全般的な機能障害のうち、少なくとも1つ以上に対して有益性を示した。
・そのほかMAO-B阻害薬、抗てんかん薬、抗精神病薬の有用性を支持する研究は乏しい。
・また、身体症状症に対するセントジョーンズワートの有効性と安全性とについて2つのRCTが存在し、セントジョーンズワートがプラセボ薬よりも有効で、忍容性も高く、安全であるということを示していた。ただし、セントジョーンズワートはときに重大な薬物相互作用が知られていて、使用は慎重になるべきと思われる。
予後
・身体症状症は一般的に慢性的な状態であり、症状はときに増加し、ときに減少する。
・この疾患の自然史(natural history)としては約50~70%の患者が改善を示すが、10~30%の患者では悪化するとされている。
・医師と患者との間の強固で良好な治療同盟(treatment alliance)は不可欠で、ときに投薬や検査による介入を行いたいと思うような心情をうまく回避しながら、サポートする
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<参考文献>
・Kurlansik SL, Maffei MS. Somatic Symptom Disorder. Am Fam Physician. 2016 Jan 1;93(1):49-54. PMID: 26760840.