腹部片頭痛 abdominal migraine
腹部片頭痛とその疫学
・腹部片頭痛とは機能性腹痛の一つで、中等度以上の腹部正中の疼痛を繰り返すものを指す。
・有病率は様々であるが、小児を対象としたイギリスの2つの研究では腹部片頭痛の集団有病率は4.1%と2.4%であった。
・イギリスの小学生を対象とした調査では集団有病率は6~12歳でピークに達し、12歳で9%と最も高く、14歳で1%まで低下した。男女比は1:1.6であった。
・腹部片頭痛は通常、小児期に発症する。しかし、成人での発症例もある。一般的には片頭痛の家族歴があることが多い。
・ストレス、疲労、旅行、欠食などが腹部片頭痛の誘因になる。また、片頭痛と同様に前駆症状として羞明や気分の変化がみられることもある。また、腹部片頭痛の寛解因子としては安静(88%)、睡眠(64%)、鎮痛(38%)が挙げられ、こちらも片頭痛と同様である。
国際頭痛分類第3版による腹部片頭痛の診断基準
- 腹痛発作が5回以上あり、B~Dを満たす
- 痛みは以下の3つの特徴のうち少なくとも2項目を満たす
- 1. 正中部、臍周囲もしくは局在性に乏しい
- 2. 鈍痛もしくは漠然とした腹痛(just sore)
- 3. 中等度~重度の痛み
- 発作中、以下の少なくとも2項目を満たす
- 1. 食欲不振
- 2. 悪心
- 3. 嘔吐
- 4. 顔面蒼白
- 発作は未治療もしくは治療が無効の場合、2~72時間持続する
- 発作間欠期には完全に無症状
- その他の疾患によらない
腹部片頭痛の原因とメンタルヘルス
・腹部片頭痛の原因としては腸脳相関、血管調節異常、中枢神経系の変化、遺伝的要因などが示唆されている。
・明らかな根拠をなくして、小児の腹痛の原因を心因反応と決めつけることは避ける。不安やうつ病との関連性、心理社会的な要因、虐待などとの関連性を指摘する見方もある。
身体所見/臨床検査
・バイタルサイン、血液検査、尿検査に異常がみられないことが典型である。
・身体所見では有症状時において、血管運動性変化として顔面蒼白などがみられることがある。
・鑑別疾患として腹部てんかんが挙げられるが、腹部てんかんでは疼痛は通常短時間(数秒から数分間)で、意識障害や強直間代発作を伴う点で病像が異なる。
マネジメント
・まずは患者さんとそのご家族への病状の説明が重要である。心因性疼痛や原因不明の疼痛と説明されることで、患者さんやそのご家族は不安が増強したり、抑うつ状態になったりすることもある。また、患者さんの約60%で同症状を経験していた親がいて、その親も病状を理解でき、安心できたという報告もある。
・認知行動療法は機能性腹痛を改善させるという症例対照研究は存在するが、腹部片頭痛に特化した研究はない。
・生活指導としては誘因(ストレス、欠食、睡眠不足など)の理解と回避がまず有用である。発作時はなるべく暗く静かな部屋での安静と鎮痛で80%のケースで寛解に至る。
・薬物治療を併用する場合もある。
薬物治療
・腹部片頭痛における薬物治療に関するエビデンスは限られている。小児の副部片頭痛に関する研究ではプラセボ効果により最大66%の割合での症状消失が報告されている。
・急性期治療としてはアセトアミノフェン、イブプロフェンなどの鎮静薬、スマトリプタン10mg点鼻などの使用を検討可能。
・予防的治療としてはプロプラノロール10~20mg 1日2~3回、シプロヘプタジン(シロップ)0.25~0.5mg/kg 1日1回、バルプロ酸Naなどの使用を検討可能。
・ただし、いずれの薬剤もエビデンスは限られている点には留意が必要。
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<参考文献>
・Angus-Leppan H, Saatci D, Sutcliffe A, Guiloff RJ. Abdominal migraine. BMJ. 2018 Feb 19;360:k179. doi: 10.1136/bmj.k179. PMID: 29459383.