特発性器質化肺炎 COP:cryptogenic organizing pneumonia

器質化肺炎とその疫学

・特発性器質化肺炎(COP: cryptogenic organizing pneumonia)は肺胞から細気管支にかけての炎症および気腔内のポリープ状の器質化を起こす疾患である。浸潤影だけでなく結節影やすりガラス影など様々な形態の陰影として発現し得る。

・臨床的には細菌性肺炎として治療を行っても改善に乏しい場合(non-resolving pneumonia)に想起する鑑別疾患の一つに位置する。細菌性肺炎などでは肺のボリュームが増大するのに対して、COPではボリュームが縮小するのが特徴的である。そして、それは牽引性気管支拡張所見や胸膜陥入所見などとして確認されることもある。

・器質化肺炎は特発性、薬剤性のほか、感染性肺炎に続発して発症することがある。

・COPの正確な有病率、発症率は明らかでない。

・COPと確定診断された1,490例を含む報告では診断時の平均年齢は50~60歳(範囲として17~95歳)であった。

・男女比はほぼ1:1とされているが、若干男性に多いとされている。

・診断時に現喫煙者(current smoker)であったケースは15%未満で、環境要因の関与が示唆されている。

・COPでは主に肺胞内におけるポリープ状の器質化が生じ、免疫抑制療法や抗炎症治療を行うことで可逆的な変化をたどり得るとされている。この点は不可逆的な経過をたどる通常型間質性肺炎(UIP)とは対照的といえる。

臨床症状

・COPは感染性肺炎として抗菌薬治療を行い、治療反応性が不良な場合でしばしば想起される。

・COPの臨床経過は亜急性経過なこともあり、数週間から数ヶ月かけて出現する。

・一般的な症状としては乾性咳嗽(約70%)、労作時呼吸困難(約60%)がみられる。そのほかにインフルエンザ様症状(10~15%)がみられることもある。発熱(約45%)もときにみられ、喀血(約5%)は稀である。

血液検査

・COPにおける血液検査所見は非特異的である。赤沈(ESR)、CRP、白血球などの炎症マーカーは上昇する。

・ときに自己免疫疾患を発症する数週間から数ヶ月前にOPの発症が先行するときがある。

・自己免疫疾患の関与が疑われるケースでは状況に応じて抗核抗体(ANA)、リウマトイド因子(RF)、抗CCP抗体、CK、抗Scl-70抗体、抗セントロメア抗体、抗ds-DNA抗体、抗Jo-1抗体、抗ARS抗体、ANCAを提出することを検討する。

呼吸機能検査

・多くの場合で拘束性換気障害DLco低下がみられる。

・なお、肺活量はCOP患者の最大25%で正常範囲にある。

・治療により呼吸機能検査の異常は正常化することがある。

画像検査

・病変は両側性であることが典型的であるが、片側性のケースもある。

・病変は典型的には複数の肺区域に存在し、胸膜直下および下葉域に優位に、そして気管支周囲に分布する。

・ときに陰影は移動したり大きさを変えたりすることがあり、Wandering pneumoniaと呼ばれる。

・CT撮像では中心に浸潤影が存在し、その周囲にすりガラス影がみられるような画像所見は典型的でない。むしろ内部がすりガラス影で、周囲の濃度が高い、いわゆるReversed halo signを呈することが典型的である。ただし、Revered halo signはOPで比較的特徴的な所見であるが、全体の5%未満でしか確認されない。

・前述のように肺のボリュームが縮小するのが典型的であるため、牽引性気管支拡張所見や胸膜陥入所見などが確認されることがある。

・なお、進行性に線維化を形成することや、蜂窩肺を呈することは非常に稀である。

気管支肺胞洗浄

・COPが疑われるケースでは感染症、好酸球性肺炎、肺胞出血などの他疾患を除外するために、気管支肺胞洗浄液(BAL)の検査を行うことがある。

・なお、治療に伴うBAL所見の正常化は臨床症状やX線所見の改善のタイミングよりも遅れる。

鑑別診断

・COPの重要な鑑別疾患は細菌性肺炎である。

抗菌薬治療に反応性が乏しい場合にCOPを想起することとなる。

・細菌性肺炎以外では過敏性肺炎、好酸球性肺炎、肺胞出血、血管炎、悪性リンパ腫、浸潤性粘液産生肺腺癌などが主な鑑別疾患として挙げられる。

・また画像上、COPを疑う所見とNSIPを疑う所見とが混在している場合には自己免疫性疾患などを疑うこともある。

治療

・COPの治療法に関してはRCTが実施されていないため、経験的に定められている。

・治療の必要性や治療法の選択は臨床的、生理学的、画像的な重症度と疾患の進行の早さにより総合的に決定する。なお、自然軽快するケースも10%程度存在する。

・通常はステロイド治療による初期治療で臨床的改善が得られないケースや、ステロイド治療に忍容性が乏しいケースで、ステロイド以外の治療の選択を検討することとなる。

 <ステロイド治療>

・全身性ステロイド治療は症候性のCOP患者で選択される。

・通常は0.5~1mg/kg/day(最大60mg/day)で1日1回、朝の投与で開始する。この開始用量で2~4週間治療を行う。臨床経過に応じて、0.25mg/kg/dayまで漸減し、4~6ヶ月間の治療を完遂する。その後、6~12ヶ月間かけ、徐々に漸減し、投与を終了する。

・通常はステロイド治療を開始し、24~72時間以内に臨床的な改善がみられる。また、3ヶ月以内にX線所見が改善する。

・なお、重症例や急速に進行するケースではステロイドパルス(mPSL 500~1,000mg/日 3~5日間)が必要な場合もあり、状態が改善したら内服治療へ移行することとなる。

・再発は全体の25%未満に相当するケースでみられ、通常は診断後1年以内に生じる。再発例の多くはPSL 15mg/日以下に減量した後に生じる。再発にはいくつかの要因が関与していると考えられていて、診断の遅れ、治療開始の遅れ、牽引性気管支拡張所見の存在などが挙げられている。再発例はステロイド治療の再開あるいは増量で対応される。

 <マクロライド系抗菌薬>

・症例報告や小規模後ろ向きコホート研究では抗炎症作用を有するマクロライド系抗菌薬(例: EM、CAM)がCOPに対するステロイド治療の補助的役割として有用であることが示唆されている。

・マクロライド系抗菌薬は通常3~6ヶ月間か、それ以上投与される。ただし、ステロイド治療よりは有効性が小さいと考えられている。

 <免疫抑制薬>

・ミコフェノール酸モフェチルはCOPを含む間質性肺疾患の治療において、ステロイドをスペアする役割の薬剤として使用されることがある。症例報告ではシクロスポリン、リツキシマブ、IVIGはステロイド抵抗性のCOPの治療において、有効性は限られていることが示唆される。

予後

・COP患者の予後と治療反応性は一般的に良好である。

・人工呼吸を必要とするような進行性呼吸不全はCOPでは稀と考えられている。

・多くの後ろ向きコホート研究ではCOPによって亡くなるケースは全体の10%未満で、死因はCOPとは無関係であることが多いと報告されている。

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<参考文献>

・King TE Jr, Lee JS. Cryptogenic Organizing Pneumonia. N Engl J Med. 2022 Mar 17;386(11):1058-1069. doi: 10.1056/NEJMra2116777. PMID: 35294814.

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