体軸型脊椎関節炎 axSpA: axial spondyloarthritis
体軸型脊椎関節炎(axSpA)とその疫学
・体軸型脊椎関節炎(axSpA: axial spondyloarthritis)とは重大な疼痛と身体障害を伴う体軸関節を侵す炎症性疾患のことである。
・以前は脊椎関節炎を血清反応陰性脊椎関節炎と呼んでいたが、脊椎関節炎(SpA: spondyloarthritis)に名称が変わり、ASAS(国際脊椎関節炎評価学会)により乾癬性関節炎(PsA)、強直性脊椎炎(AS)、反応性関節炎(ReA)、炎症性腸疾患関連脊椎関節炎(IBD-SpA)、いずれにも分類されない分類不能型脊椎関節炎(USpA)を含む分類が提唱され、今日に至る。
・HLA-B27陽性者では陰性者よりも約5年早く発症することが知られている。
・体軸型脊椎関節炎の正確な有病率は明らかでない。
・強直性脊椎炎(AS)は女性よりも男性のほうがやや多く、男女比は2-3:1とされている。
臨床症状
・主に慢性的な腰背部痛、こわばり感を自覚するが、脊椎のどの部位であっても侵される可能性がある。
・典型的な点は炎症性腰痛と称される症状であり、患者さんは主に朝に腰部の症状を自覚し、安静にしていても改善することはなく、運動により改善するという病歴が特徴的である。また、夜間就寝中に腰背部痛で目覚めることがあり、典型的には明け方に生じやすい。ただ、この炎症性腰痛の病歴が全ての体軸型脊椎関節炎のケースで聴取されることはなく、体軸型脊椎関節炎の診断に対する感度と特異度はともに約80%程度とされている。
・また炎症の結果として体軸関節に構造的傷害が生じることがあり、その際には関節可動域制限を伴うことがある。なお、腰椎の可動性を評価する方法として改訂Schober試験が存在する。立位の状態で後上腸骨稜を同定してそのレベルに印をつけ、そこから頭側に10cm図って印をつける。その後、膝を伸展させたまま体幹を前屈させ、印と印の間の距離を測定し、14cm以上になれば腰椎の可動性は良好(正常)と判定される。
・関節炎や指趾炎は最も一般的な末梢における症状であり、臨床経過のどの時期においても生じ得る。これらの症状は主に下肢でみられ、非対称性であることも多い。関節は一般的には腫脹し疼痛を伴う。また、付着部炎を伴うことがあり、どの付着部や腱鞘でも生じ得るが、典型的にはアキレス腱付着部炎が知られる。
・ぶどう膜炎は最も頻度の高い関節外症状であり、典型的には前部ぶどう膜炎として発現する。急性経過で片側性に発症するが、しばしば対側にも生じることがある。なお、乾癬性関節炎(PsA)と炎症性腸疾患関連脊椎関節炎(IBD-SpA)とではぶどう膜炎を合併する頻度は比較的低い。
・疾患活動性はBASDAI、ASDASで定量が可能。
体軸型脊椎関節炎の分類基準
・2009年に体軸型脊椎関節炎の分類基準としてASAS基準が、2011年には末梢性脊椎関節炎の分類基準としてASAS基準がそれぞれ発表された。これらの分類基準では体軸関節が主体のケースと、末梢症状が主体のケースとを区別し、MRI所見とHLA-B27検査の内容を含んでいる。しかし、体軸型脊椎関節炎と末梢型脊椎関節炎とはOverlapすることもあるため、両者の特徴を有するケースに対する分類基準も策定された。
・体軸型脊椎関節炎は通常、仙腸関節から症状が生じるため、脊椎の慢性または活動性の炎症性骨変化は分類基準に含まれないが、仙腸関節を侵さない脊椎関節炎のケースもごく一部存在することには留意する。診断に対する感度を上げるために、HLA-B27陽性のケースでの場合も分類基準内に記載され、感度は82-89%、特異度は84%となった。
・その後の研究で本分類基準については外的妥当性を欠いているとはいい難い結果が揃い、感度は67-87%、特異度は62-95%と示された。
(※PMID:28110981より引用)
体軸型脊椎関節炎の診断
・分類基準が誤って診断基準として使用されることが多い。リウマチ性疾患には診断のゴールドスタンダードはないため、いくつかの臨床指標(45歳以下で出現した慢性腰背部痛、炎症性腰痛の病歴、末梢および関節外症状、NSAIDsに対する反応性など)を組み合わせて、総合的に判断される。
・分類基準は有りか無しかを明確に区別して、臨床試験やコホート試験に組み入れるために、より均質のとれた患者群を構成するために開発される。一方で、実臨床における診断においては陰性所見も同時に重視するべきで、総合的判断が求められる。
血液検査
・抗核抗体(ANA)、RF、抗CCP抗体は通常陰性である。
・疾患活動性が高い場合でも炎症反応は陰性であることもあり、参考所見とする。
画像診断
・体軸型関節炎の適切かつ早期の診断において画像診断は重要な役割を担う。
・ほとんどのケースで仙腸関節を侵すため、仙腸関節の画像診断は体軸型脊椎関節炎の診断と分類とにおいて極めて重要である。
・従来の仙腸関節におけるX線撮影は仙腸関節炎を確かめるためのはじめの画像検査として用いられやすい。また、罹病期間が3~5年程度と比較的短いケースでも、30~50%でX線撮影で仙腸関節炎を示唆する所見がみられる。罹病期間が長いほど、所見が得られる確率は高まるという見方もある。ただし、仙腸関節のX線撮影における画像評価は容易でない場合もあり、また初期の体軸型脊椎関節炎においては所見が不明瞭な場合もある。実際、読影経験が豊富な医師の間でも、仙腸関節炎のX線撮影所見の評価内容にはばらつきがあることが報告されている。
・したがって、仙腸関節のX線撮影所見が正常か、あるいは境界域のようにみえる場合において、脊椎関節炎を疑うケースでは仙腸関節のMRI撮像を行うことが必須である。MRIシーケンスとしてはSTIR像、T1WIなどが特に信号変化を得られやすく、典型的にはSTIR像で高信号、T1WIで低信号がみられる。なお、造影剤を利用する必要があるケースは稀である。
・仙腸関節のCT撮像は構造的傷害(特にびらん)の検出においては優れると考えられているが、通常はX線撮影とMRI撮像とで構造的損傷の評価も可能である。
・仙腸関節炎の最も一般的な鑑別診断は変形性椎間板疾患、変形性脊椎症、先天性椎体異常、びまん性特発性骨増殖症(DISH)、骨折、感染性仙腸関節炎、骨転移、原発性骨腫性などである。また、HIV感染症、ベーチェット症候群でも脊椎関節炎に類似した症状をとることがあるという見方もある。
・なお、骨シンチグラフィーやFDG PET-CTは体軸型脊椎関節炎の診断においては有用性が低く、利用は推奨されていない。
マネジメント
・治療としては理学療法と運動療法とを併用しつつ、NSAIDsを利用することが基本となる。
・NSAIDsは体軸型脊椎関節炎の腰背部痛とこわばり感を軽減するためには非常に有効で、第一選択薬とされている。一般的に、NSAIDs開始2週間程度で臨床症状の改善がみられる。臨床症状が寛解している場合にはNSAIDsの減量あるいは中止を検討する。ノルウェーにおける長期の経過にわたる強直性脊椎炎患者に対する頻回なNSAIDs使用は死亡率上昇と関連していたと報告されている。
・MTXをはじめとしたcsDMARDsは脊椎関節炎の体軸関節由来の症状には有効でないが、末梢症状の治療には有効性を示す場合がある。
・長期的なグルココルチコイド全身投与は推奨されない。
・TNF阻害薬については、NSAIDsによる治療が無効であった、活動性の高い強直性脊椎炎(AS)患者において、全ての関節症状、CRP値、仙腸関節あるいは体軸関節におけるMRI所見の改善に有効性を示している。
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<参考文献>
・Ritchlin C, Adamopoulos IE. Axial spondyloarthritis: new advances in diagnosis and management. BMJ. 2021 Jan 4;372:m4447. doi: 10.1136/bmj.m4447. PMID: 33397652.
・Sieper J, Poddubnyy D. Axial spondyloarthritis. Lancet. 2017 Jul 1;390(10089):73-84. doi: 10.1016/S0140-6736(16)31591-4. Epub 2017 Jan 20. PMID: 28110981.