Dubin-Johnson症候群/Rotor症候群
直接型ビリルビン優位の体質性黄疸
・直接型ビリルビン(抱合型ビリルビン)血症を生じる体質性黄疸としてはDubin-Johnson症候群とRotor症候群とが知られている。
・いずれも良性疾患であるが、薬物中毒を生じやすいことについては留意が必要。
疫学
・Dubin-Johnson症候群とRotor症候群とはいずれも常染色体劣性遺伝を示し、診断が遅れることもある稀な遺伝性疾患である。
・Dubin-Johnson症候群はMRP2遺伝子の欠損により、胆汁性ビリルビンの排泄障害が生じる疾患であり、Rotor症候群はOATP1B1遺伝子やOATP1B3遺伝子の欠損により肝におけるビリルビン取り込みなどの障害が生じる疾患である。
・いずれの疾患も世界中で報告例があるが、特にDubin-Johnson症候群はイラン系ユダヤ人に多い。なお、日本人では30万人に1人程度の頻度という報告もある。患者は通常、10代で発症するが、男性の方がより早く発症しやすい傾向にある。
・Rotor症候群はDubin-Johnson症候群よりもさらに稀な疾患で、100万人に1 人未満という報告もある。
臨床所見
<血液検査>
・両者ともに血清ビリルビン濃度は通常2.0~5.0mg/dLで、頻度は低いものの20~25mg/dLという高値を呈する報告例もある。
・血清ビリルビン濃度はしばしば変動し、基準値内であることもあれば、ときに急性疾患の併発により上昇することもある。
・血清ビリルビンの過半数を直接型ビリルビンが占め、ビリルビン尿が典型的に認められる。
・他の肝機能検査に異常所見はなく、溶血を伴わない。
<尿中コプロポルフィリン排泄>
・尿中コプロポルフィリン排泄パターンがDubin-Johnson症候群とRotor症候群との鑑別に有用。
・Dubin-Johnson症候群では尿中コプロポルフィリン量は基準値内か、僅かな上昇に留まり、特に異性体Ⅰ(isomerⅠ)の排泄量が80%超であることが典型的。一方で、Rotor症候群では尿中コプロポルフィリンは基準値の2.5~5.0倍程度に上昇する。
<画像検査>
・Dubin-Johnson症候群やRotor症候群が強く疑われる患者では腹部画像検査が他疾患の除外において有用な場合がある。
典型的臨床経過とマネジメント
・Dubin-Johnson症候群やRotor症候群に罹病した患者の寿命は罹病していない人と変わらない。
・一般的に両疾患は10代で発症する。
・何らかの併存疾患、経口避妊薬、妊娠などの誘因により黄疸が生じることがある。
・Dubin-Johnson症候群では高ビリルビン血症を軽減するためにフェノバルビタールの使用を試すことがあるが、少なくとも慢性的に使用するべきではない。
・Dubin-Johnson症候群やRotor症候群は肝硬変などへと進展することはない。あくまで良性疾患につき、安心してもらうことが重要。
・ただし注意するべきこととしては何らかの誘因により高ビリルビン血症が生じている際に薬物性肝障害が生じやすいということが挙げられる。特に抗がん剤、抗てんかん薬、抗菌薬などを使用する際には注意を要し、投与する際には慎重な経過観察が重要。
・MRP2の機能障害(Dubin-Johnson症候群)で注意を要する薬剤としては抗がん剤(メトトレキサート、タモキシフェン、ドセタキセル、ビンブラスチン、イリノテカン)、抗てんかん薬(カルバマゼピン、バルプロ酸)、抗菌薬(ABPC、CTRX、RFP)、NSAIDs(サリチル酸塩、イブプロフェン、ナプロキセン)、HIV治療薬(テノホビル)が挙げられる。
・OATP1B1の機能障害(Rotor症候群)で注意を要する薬剤としてはシクロスポリンA、アトルバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチン、リファンピシン、HIV治療薬が挙げられる。
・OATP1B3の機能障害(Rotor症候群)で注意を要する薬剤としてはシクロスポリンA、プラバスタチン、リファンピシンなどが挙げられる。
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<参考文献>
・Morais MB, Machado MV. Benign inheritable disorders of bilirubin metabolism manifested by conjugated hyperbilirubinemia-A narrative review. United European Gastroenterol J. 2022 Sep;10(7):745-753. doi: 10.1002/ueg2.12279. Epub 2022 Jul 20. PMID: 35860851; PMCID: PMC9486497.