原発性アルドステロン症 primary aldosteronism

原発性アルドステロン症とその疫学/病態生理

・原発性アルドステロン症(以下PA: Primary aldosteronism)は血漿レニン濃度が低値、血漿アルドステロン濃度が高値であることを特徴とし、治癒可能な高血圧症をきたす疾患である。

・PAは高血圧症心血管イベント、また特に心房細動の原因疾患としてもよく知られている。

・また治療抵抗性高血圧症の原因としてもしられ、PAに対する治療により血圧を改善させられることもある。

・二次性高血圧症のなかではPAが最多頻度を占めると考えられていて、ある報告では全高血圧症例の約5~10%程度を占めるともいわれている。

・PAでは閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)を合併する頻度が高いとされている。おそらくNa貯留とそれに伴う体液貯留が生じることで、上気道における軟部組織の浮腫が生じるためと推察されている。また、閉塞性睡眠時無呼吸症候群のケースでは原発性アルドステロン症を合併する頻度が約2倍高いと考えられていて、これは低酸素血症により血漿中のエンドセリン-1が増加するためと推察されている。エンドセリン-1はアルドステロンの強力な分泌促進因子であることが知られている。

・また原因不明の心房細動を伴う高血圧症のケースではPAのスクリーニングを推進するべきという見方も存在する。

PAのスクリーニングが適切になされにくい理由

・PAのスクリーニングは十分になされているとは限らない状況にある。

・その第一の理由は前述のように二次性高血圧症の原因として比較的頻度が高い疾患にも関わらず、「稀な疾患である」という誤解が存在していることが挙げられる。

・第二の理由は低カリウム血症がみられないケースでのスクリーニングが差し控えられがちであることが挙げられる。アルドステロン産生腫瘍患者の約50%以上と、両側性アルドステロン産生腫瘍患者の82%とで血清カリウム値は基準値内であったと報告もあり、低カリウム血症がないことはPAのスクリーニングを差し控える根拠にはできないことがわかる。

・第三の理由は血漿アルドステロン濃度(PAC)が所定のカットオフ値(通常15ng/dL(416pmol/L))を超えないケースではPAの精査を差し控えられてしまうことが挙げられる。PAを診断する際には血漿アルドステロン濃度のみで解釈することは不適切で、あくまでレニンに対するアルドステロン濃度の比(ARR)も重要視するべきである。

病態生理

・Na貯留が促進されるPAでは体液貯留、レニン分泌の抑制、前負荷増加、左室肥大を誘発し、結果として左室の線維化が促進され、拡張機能不全、左房拡張に至る。

・また、高アルドステロン状態が血管内皮機能不全および血管リモデリングを誘発し、動脈硬化が生じる。最終的に左室の線維化(リモデリング)も伴うことで、心房細動を併発しやすい状況が完成する。

PAのスクリーニングを検討するべきケース

以下のケースではPAのスクリーニングの実施を検討する。

・治療抵抗性高血圧症

・収縮期血圧が高値(指標としてBP>150/100mmHgが再現性をもって確認される)

・原因不明の低カリウム血症

・副腎偶発腫瘍が確認されたケース

・閉塞性睡眠時無呼吸症候群

・PA/若年発症の高血圧症/若年での脳血管障害の家族歴を有するケース

・血圧値から予想される程度を超えた臓器障害を伴うケース(左室肥大/拡張機能不全、微量アルブミン尿、慢性腎臓病)

スクリーニング

・PAの診断は血漿レニン濃度の低下、血漿アルドステロン濃度の上昇という状態を示すことによってなされる。つまり、ARR(アルドステロン/レニン比)を確認することが重要である。

・ARRが同じ値であっても、血漿アルドステロン濃度(PAC)と血漿レニン濃度(PRA)が異なれば、臨床的意味合いは異なる。またレニンについての測定方法がCLEIAによる活性型レニン濃度(ARC)を測定する方法の場合もまた解釈が異なる。

・スクリーニングとしてARR(アルドステロン/レニン比)を確認する際には、「PAC/PRA>200(PAC/ARC>40)、かつPAC>120pg/mL」をスクリーニングの陽性基準と定められている。また、「PAC/PRA 100~200かつPAC>60pg/mL」の場合は境界域とされ、患者さんのニーズや臨床所見(低カリウム血症や副腎腫瘍の有無など)を考慮して、状況によっては暫定的に陽性と判断する場合もある。

・なお、スクリーニングに関しては座位での採血でも構わないとされているが、可能であれば30分以上前から安静臥位での採血が理想的である。また、原則として午前中(早朝空腹時)に採血を実施する。

検査値に与える影響

・血漿アルドステロン濃度(PAC)、レニン濃度(PRA)は種々の要因により修飾され得る

顕著な低カリウム血症はARR(アルドステロン/レニン比)の偽陰性を生じさせ得る。したがって、顕著な低カリウム血症が存在する場合は補正をし、約4mmol/L程度に改善させたうえで、ARRを確認することが望ましい。

β遮断薬はレニン分泌を低下させるが、血漿アルドステロン濃度(PAC)に対する影響は比較的小さく、結果としてARR(アルドステロン/レニン比)を上昇させ得る。したがって、β遮断薬は少なくとも検査の2週間前には投与を中止することが望ましい(理想的には3~4週間前から中止という報告もある)。

利尿薬のように低カリウム血症を生じさせる薬剤ではレニン分泌が促進されることがあり、ARR(アルドステロン/レニン比)が偽陰性になってしまうことがある。したがって、可能であれば利尿薬は検査の3~4週間前には中止しておくことが望ましい。

ACE阻害薬ARBはアルドステロン分泌を減少させるため、結果としてARR(アルドステロン/レニン比)を顕著に低下させてしまうことがある。したがって、これらの薬剤も検査の2週間前には中止しておくことが望ましい(理想的には3~4週間前から中止という報告もある)。

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を使用している場合は少なくとも4週間前には中止しておくことが望ましい。

・降圧薬のなかでは長時間作用型カルシウム拮抗薬(CCB)、ドキサゾシンはARR(アルドステロン/レニン比)に与える影響がほとんどなく、検査に備える期間における降圧管理に有用である。

・重症の高血圧症や治療抵抗性高血圧症の場合で、降圧薬の中止を行うことが現実的でない場合には降圧薬を中止せずに検査を実施することもある。その場合は各種薬剤の検査結果に与える影響を踏まえたうえで、検査結果を解釈することが重要である。参考文献(PMID:31779795)のTable3がよくまとめられていて、参考にすることができる。

スクリーニング陽性の場合の対応

・前述のように「PAC/PRA>200(PAC/ARC>40)、かつPAC>120pg/mL」というスクリーニングの基準で陽性の場合には機能確認検査へ移ることを検討する。

・機能確認検査としてはカプトプリル負荷試験、生理食塩水負荷試験、フロセミド立位負荷試験、経口食塩負荷試験が知られている。これらの検査は実質的にはPAを除外するための検査としての役割もある。

・各種機能確認検査の詳細は割愛する。

画像検査

・PAと確定診断された場合には局在診断病型診断を行うこととなる。つまり、アルドステロン産生腫瘍(APA)特発性アルドステロン症(IHA)との区別(病型診断)を行うことが必要である。病型診断では副腎静脈サンプリング(AVS)で片側性あるいは両側性の判定を行うことを検討する。

・画像検査としては可能であればCT撮像が望ましい。画像検査でアルドステロン産生腫瘍を除外する目的で全てのPA患者に対しての実施が推奨される。

・CT撮像で腫瘍性病変がみられる場合はコルチゾール同時産生の評価のためにデキサメタゾン抑制試験の実施を検討する。手術を前向きに検討する場合は片側性のPAの診断の確度をより高めるために副腎静脈サンプリング(AVS)を行うことを個別性に応じて検討する。

片側性PAでは患側の副腎摘出術を選択し、両側性PAや手術希望がないケース、あるいは手術適応がないケースではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を第一選択薬とする。

・また、CT撮像での所見とAVSの検査結果との一致率は約半数に過ぎないという報告もあり、CT撮像で微小腺腫の存在などは否定できない点に留意が必要である。

副腎静脈サンプリング(AVS)

・副腎静脈サンプリングは技術的に容易とはいえず、0.7%程度の副腎静脈破裂のリスクも伴う。しかし、AVSは片側性PAの手術適応を選択するために重要な検査とされている。

内服治療

手術適応のないケースや、両側性PAのケースなどでは薬物治療としてミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)が第一に選択される。また、副腎摘出術までの間の治療としても使用されることがある。

・MRAとして、スピロノラクトン、カンレノ酸カリウム、エプレレノンなどが推奨される薬剤に相当する。まずはスピロノラクトンを選択することが一般的かもしれない。

・スピロノラクトンは血圧と血清カリウム値に注意しながら、忍容性のある1日用量まで可能な限り増量させる。ときに男性では用量依存的に女性化乳房インポテンツなどの副作用が生じることがある。副作用が顕在化してしまうケースではエプレレノンに置換することで治療を継続できるケースもある。

経過観察

・副腎摘出術を経験したケースと両側性PAと診断されたケースとでは特に定期的な経過観察が重要である。前者では定期的な生化学検査の実施が推奨され、術後には生化学項目が改善することが必要である。もしも異常所見が続く場合には両側性PAである可能性を想定することとなる。

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<参考文献>

・Rossi GP. Primary Aldosteronism: JACC State-of-the-Art Review. J Am Coll Cardiol. 2019 Dec 3;74(22):2799-2811. doi: 10.1016/j.jacc.2019.09.057. PMID: 31779795.

・原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021

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