可逆性後頭葉白質脳症 posterior reversible encephalopathy syndrome
可逆性後頭葉白質脳症(PRES)とその疫学/病態生理
・可逆性後頭葉白質脳症(以下PRES: Posterior reversible encephalopathy syndrome)とは血管の内皮障害による透過性亢進から可逆性の皮質化血管性脳浮腫をきたす疾患である。
・典型的には重度で急性の高血圧がみられるケースや、特定の薬物投与(主に免疫抑制薬など)がなされたケースで発症する。
・現状は脳血管の自己調節障害、内皮障害に関連していると考えられている。そのためか、特に自己調節能の低い後方循環系の血管(椎骨脳底動脈、後大脳動脈領域)で生じる。
・全ての年齢で発症し得て、特に20~65歳で発症するという報告がある。平均発症年齢は57歳で、女性が72%を占めるという報告もある。
自覚症状
・主な自覚症状としては頭痛、意識障害、痙攣、視覚障害などが挙げられる。
・なかでも最も顕著な所見は意識障害であり、最大94%でみられる。意識障害の程度は軽度の錯乱から昏睡まで様々である。
・頭痛はびまん性で緩徐に出現することが多いが、ときに雷鳴頭痛がみられる場合もある。
・視覚症状は20~39%でみられ、視力低下、視野欠損、幻視などとして自覚される。
検査所見
・MRI撮像ではFLAIRで、後頭葉とそれに隣接する頭頂葉の白質における血管性脳浮腫所見として高信号が確認される。通常、両側性に信号変化がみられる。
・なお、発症して数週間から数ヶ月経過した後には66~70%のケースでMRIの信号変化が消失していたという報告がある。
・広範な病変を有するケースでは前頭葉、小脳、脳幹、大脳基底核などにも所見がみられ得る。
・てんかん重積状態、非けいれん性てんかん重積(NCSE)の検出、脳症の評価目的に脳波検査や髄液検査を行う場合もある。
鑑別診断
・主な鑑別診断としては後方循環系の脳梗塞、中枢神経系感染症、脱髄疾患、脳腫瘍、硬膜静脈洞血栓症、中枢神経系血管炎(PACNS)、代謝性脳症、ミトコンドリア病などが挙げられる。
治療
・誘発因子(高血圧など)のコントロールと支持療法が基本となる。
・高血圧がみられれば、そのコントロールを行う。PRESにおける目標血圧値は定められていないが、一般的には最初の1時間以内で収縮期血圧(sBP)の25%を超えないように低下させ、その後24~48時間ほどかけて血圧を正常化させることにコンセンサスが得られている。最適な降圧薬は定められていないが、静注製剤が選択されやすい。
・高血圧を伴わないPRES患者では関連する疾患や誘引となる薬剤を特定する必要がある。一般的な関連疾患にはリウマチ性疾患や自己免疫疾患などが含まれる。なお、末期腎疾患患者の0.8%、全身性エリテマトーデス(SLE)患者の0.7%、固形臓器移植患者の0.5%、子癇患者の20.0~98.0%で合併するという報告がある。また、誘因となる薬剤としては化学療法(チロシンキナーゼ阻害薬、MTX、シスプラチンなど)、免疫抑制薬(タクロリムス、シクロスポリンA、リツキシマブ、抗TNF-α受容体阻害薬など)、その他(GCF製剤、VRCZなど)が知られている。
・発作(seizure)が疑われる場合には抗てんかん薬で対処したうえで、長時間作用型の抗てんかん薬が投与されるのが一般的である。また、可能であれば脳波検査を行う。また、低ナトリウム血症などの誘因があれば、その是正も行う。
子癇と妊娠関連PRES
・脳静脈洞血栓症や可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)なども鑑別疾患として挙げられる。
・母体、胎児の安全性を考慮すると、高血圧と痙攣に対しては硫酸マグネシウムの静注が検討される。
・重度の高血圧に対してはヒドララジン、ラベタロールの静注を追加する場合もある。また、痙攣に対してはジアゼパムなどを使用することがある。
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<参考文献>
・Geocadin RG. Posterior Reversible Encephalopathy Syndrome. N Engl J Med. 2023 Jun 8;388(23):2171-2178. doi: 10.1056/NEJMra2114482. PMID: 37285527.
・Brady E, Parikh NS, Navi BB, Gupta A, Schweitzer AD. The imaging spectrum of posterior reversible encephalopathy syndrome: A pictorial review. Clin Imaging. 2018 Jan-Feb;47:80-89. doi: 10.1016/j.clinimag.2017.08.008. Epub 2017 Aug 30. PMID: 28910681.