一過性脳虚血発作 TIA:transient ischemic attack

TIAとその疫学

・一過性脳虚血発作(以下TIA: Transient ischemic attack)とは局所脳虚血または網膜虚血による神経機能障害の症状が短時間(典型的には1時間以内)で、梗塞病変が画像上認められないものを指す。

・TIAを疑ってMRI撮像を行い、結果として梗塞性病変が認められたケースはTIAではなく、脳梗塞あるいは脳塞栓症と診断されることとなる。

・報告により様々であるが、TIA後の90日間における脳卒中発症リスクは10~18%程度と推定されている。また、人種によっても発症率は大きく異なる。

臨床症状

・前述の定義に記すとおり、局所の神経学的脱落所見が突発的に出現し、その後、完全に症状が消失する場合にTIAを想起する。したがって、TIAに関する診療では病歴と神経診察が特に重要である。たとえば、単独の”めまい”、意識障害、頭痛などの臨床症状はTIAに典型的な症状ではない。

・既往歴の把握も重要で、高血圧症や糖尿病をはじめとした血管リスクを見積もることも欠かせない。

・発症様式としては突然発症(sudden onset)であることが典型。また、症状がピークに達するまでも短いことが典型的である。

・症状の持続時間には幅があるが、典型的には60分以内とされる。

・認められる神経症状が血管支配領域に矛盾しないかという観点で検討することが重要。

めまい、構音障害、同名半盲、協調運動障害/歩行障害/運動失調、悪心・嘔吐など後方循環系の障害を反映するかもしれない。

眼瞼下垂と縮瞳を伴う頭痛がみられる場合には動脈解離が存在するかもしれない。

一過性黒内障とは数秒~数分間持続する一過性の単眼性視覚障害を指し、網膜、脈絡膜または視神経の虚血により生じる。最も一般的な原因としては同側の頸動脈からの塞栓性機序であり、そのほかにも心房細動巨細胞性動脈炎なども原因として挙げられる。頸動脈エコーも実施し、血管内治療(内膜剥離術など)の適応を検討する。

脳画像検査

・画像検査の役割としては他の鑑別疾患の除外、リスクの層別化の補助などが挙げられる。

・まずは頭部単純CT撮像が行われることもあるが、出血性病変などを除外するのに有用である。また、CT撮像では除外しきれないことも多いが、多少時間が経過した脳梗塞や腫瘤性病変が指摘できる場合もある。

・TIAを疑うケースの最大40%でMRI撮像におけるDWIで信号変化がみられるという報告がある。TIAを疑われる場合であっても梗塞性病変を示唆する画像所見がみられた場合の診断は脳梗塞あるいは脳塞栓症となる。

・MRI撮像が行えない環境の場合では頭部単純CT撮像で器質因がみられないことを確認したうえで、TIAに矛盾しない状況であれば、暫時的にTIAと臨床診断することもある。その場合は待機的なMRI撮像、経過観察などを目的に入院も検討される。

血管画像検査

・TIAの評価には血管画像検査が必要である。血管画像検査を行う目的の一つには、血行再建術の適応となるようなハイリスクな狭窄病変の有無を確認することが挙げられる。

頸動脈狭窄所見(後方循環系の障害を疑う場合には椎骨動脈狭窄所見)をスクリーニングするための検査はルーチンで行われる。

3D-CTA頭蓋内の血管狭窄/閉塞の評価に有用で、MRAよりも高い感度と陽性的中率を有する。また、3D-CTAの実施は慢性腎臓病が併存するケースであっても、急性腎障害のリスク増大には関係しないと考えられている。

・MRA撮像はスクリーニングに適する。ただし、ガドリニウム造影MRI/MRA撮像が可能なケースではそちらを選択することがより理想的である

血液検査/心臓関連検査

・TIAが疑われるケースの全てで血液検査を行い、低血糖を除外する。また、HbA1c、脂質関連項目などはリスク因子の評価として有用。

・また、50歳以上で眼症状を伴うケースでは巨細胞性動脈炎を評価するために赤沈(ESR)、CRP値なども参考にできる。

・そのほかTIAを疑うケースの全てで心電図検査、血清トロポニン値の確認は行われる。

・TIAを疑うケースにおいてルーチンで経胸壁心エコー検査を行うことの有用性は十分に確立されていないが、ケースによっては塞栓症の原疾患の評価心臓の構造的異常の同定を目的に行われることもある

リスクの層別化

・TIAと臨床診断された際にはその後の短期的脳卒中発症リスクを予測して、治療方針の決定に役立てるためにリスクの層別化が行われる。

・リスクの層別化の方法は複数あり、ABCD2スコア、ABCD3スコア、ABCD3-Iスコアが存在する。最も広く使用されるClinical prediction ruleはABCD2スコアと思われる。33の研究と16,000人超の患者さんを含むメタアナリシスではABCD2スコアはハイリスク群と低リスク群との患者さんを層別化する際の感度が高いが、特異度は低めであることが示されている。

・またABCD2スコアの限界にも留意するべきである。第一に運動失調や同名半盲などの後方循環系の障害を示唆する所見が評価項目に含まれていない点である。また、TIAの発症機序や大動脈狭窄の存在も考慮されていない

・なお、急性期の血管画像検査を行うことはABCD2スコアの値に関わらず重要である。また、症候性の頚動脈狭窄や頭蓋内血管狭窄が疑われるケースでは神経学的診察をより頻回に行う。

マネジメント

・TIAと診断された場合、ABCD2スコアは治療方針の決定に役立ち、特にスコアが高いケース(ABCD2スコア≧4点)ではDAPTの適応となる可能性が高くなる。

 <抗血栓薬>

・TIAが疑われる場合、禁忌でなければ全ての患者で投与が行われるべきである。

・抗凝固療法の適応がないケースでは抗血小板薬を選択する。

アスピリンとクロピドグレルまたはチカグレロルの併用による短期間のDAPTは症状発現から24時間以内に来院した高リスクTIAのケースで脳卒中発症リスク軽減のために実施される。フォローアップの機会を用意し、その後に確実にSAPTに変更する

・DAPTは通常21日間継続する。

・抗凝固療法は心房細動のケースにおいて脳卒中リスクを軽減するのに有用。転倒歴のある患者さんであっても、抗凝固療法を選択することは妥当で、多くのケースで投与のメリットは出血リスクを上回ると考えられている。ただし、MRI撮像で治療方針に影響を与えるような梗塞巣やMicrobleedingなどが確認されることもあるため、あくまで投与はMRI画像を確認するまでは控えるべきである。

 <スタチン>

・高強度スタチン投与は虚血性脳卒中患者の再発を16%減少させることが知られていて、TIAまたは脳卒中後の二次予防として重要な治療法である。

・スタチンはLDL-C低下作用のみならず、プラークの安定化、内脾機能障害の改善などにおいても有益とされている。

 <高血圧症>

・将来の脳卒中発症リスクを軽減するためにも、降圧薬の投与を検討する。

・外来での血圧の目標値を130/80mmHgとして管理することで、脳卒中の再発リスクは22%減少することが知られている。

 <糖尿病>

・TIAまたは虚血性脳卒中患者において、糖尿病および高血糖は脳卒中の再発などに関係する。TIAが疑われるケースではHbA1cの確認が推奨される。

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<参考文献>

・Amin HP, Madsen TE, Bravata DM, Wira CR, Johnston SC, Ashcraft S, Burrus TM, Panagos PD, Wintermark M, Esenwa C; American Heart Association Emergency Neurovascular Care Committee of the Stroke Council and Council on Peripheral Vascular Disease. Diagnosis, Workup, Risk Reduction of Transient Ischemic Attack in the Emergency Department Setting: A Scientific Statement From the American Heart Association. Stroke. 2023 Mar;54(3):e109-e121. doi: 10.1161/STR.0000000000000418. Epub 2023 Jan 19. PMID: 36655570.

・Kvickström P, Lindblom B, Bergström G, Zetterberg M. Amaurosis fugax: risk factors and prevalence of significant carotid stenosis. Clin Ophthalmol. 2016 Oct 31;10:2165-2170. doi: 10.2147/OPTH.S115656. PMID: 27826182; PMCID: PMC5096748.

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