一過性全健忘 transient global amnesia

一過性全健忘とその疫学/誘因

・一過性全健忘(以下TGA: Transient global amnesia)とは突発的かつ一過性に重度の前向性健忘とその時点からある過去の時点でまでの逆向性健忘が生じる病態である。1958年にFisherらにより命名された。

・人口10万人あたり3~8人程度で発症する。

50~70歳で好発し、40歳以下での発症は稀である。

身体的な疲労感、Valsalva手技、心理的ストレス、医療処置(内視鏡検査など)などが誘因となる場合がある。

・再発例は15%程度とされている。1,044人の患者を含むレトロスペクティブ研究では初回の発症年齢が低いこと、片頭痛の既往あるいは家族歴を有していることが再発のリスク因子となることが示唆されている。

片頭痛に一過性の全健忘を伴うケースがある。

・病態生理について複数の説があるが、多くは不明なままである。

自覚症状/身体所見

突然、前向性健忘が生じて新しい情報を数秒以上保持できなくなる。また、逆向性健忘(通常、数時間~数日間におよぶ)も伴うことが典型である。

・発作の持続時間は典型的には12時間以内である(平均6時間)。また、発作中に合目的な行動や複雑な課題の遂行は可能である。

・典型的には前向性健忘により同じ質問を繰り返す。なお、即時記憶は障害されない

見当識(特に時間、場所)が障害され、「ここはどこか?」といった質問を繰り返すことが多い。

・逆向性健忘は通常、より古い情報から徐々に取り戻されていく。ただし、発作が生じた周囲の時期の記憶とその発作前数時間の記憶はその後ずっと取り戻されない

・軽度の頭痛、悪心、めまいを自覚する場合もある。

検査所見

・発作中、あるいは回復後も神経学的検査はいずれも正常

・一般的にTGA患者では頭部MRI撮像で異常所見がみられないとされている。ただし、多くのケースでDWIにおいて海馬とその周囲に1つ以上の点状高信号がみられる。しかし、この所見の出現はときに遅く、また一過性の所見とされている。

・脳波検査はTGAの発作中、発作後において正常であるが、NCSEなどの除外を目的に実施される場合もある。

診断

・診断基準としてはHodgesらによるものが提案されている。

・必須項目ではないが、脳梗塞やその他の病変が存在する可能性が低いことを確認するために頭部画像検査を行うことは少なくない。

・鑑別困難であったとする症例報告のなかには非けいれん性てんかん重積(NCSE)後の朦朧状態(Postictal state)、星細胞腫、海馬梗塞、脳振盪後の健忘などが挙げられる。

<Hodgesらによる診断基準>

  1. 発作が目撃されている
  2. 明らかな前向性健忘が存在する
  3. 意識の混濁、認知機能障害、個人のアイデンティティの喪失がないこと
  4. 発作が24時間以内に収まること
  5. 発作中あるいは発作後に神経学的所見がみられないこと
  6. てんかんを示唆する所見がないこと
  7. 直近に頭部外傷や活動性のてんかんがないこと

治療/対処

・TGAに特異的な治療はなく、あくまで経過観察が基本となる。

・また全ての症状が消失して回復するまで観察をするべきとされている。

・24時間以内に症状が消失するはずであることを説明し、患者とその家族に安心してもらうことも重要。

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<参考文献>

・Ropper AH. Transient Global Amnesia. N Engl J Med. 2023 Feb 16;388(7):635-640. doi: 10.1056/NEJMra2213867. PMID: 36791163.

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