アルコール使用障害 alcohol use disorder
アルコール使用障害とその疫学
・アルコール使用障害(alcohol use disorder)は臨床的に重大な障害や苦痛を引き起こすアルコール使用の11項目のうち、12ヶ月の期間内のどこかで2項目以上が当てはまる状態を指す。なお、重症度としては軽度を2~3項目、中等度を4~5項目、重度を6項目以上満たすケースとしている。
・アルコール使用障害(alcohol use disorder)はDSM-Ⅳではアルコール乱用(alcohol abuse)とアルコール依存(alcohol dependence)が区別されていたが、2013年にDSM-Ⅴではalcohol use disorderという一つのスペクトラムに統合した。
・2016年の報告では世界のアルコール使用障害の有病率は約5%で、高所得国で約8%と高い。
・アルコール使用障害は男性に多い傾向があり、男性の有病率は約9%、女性は約2%と報告されている。
・アルコール使用障害のリスク因子としては男性、飲酒開始年齢が早い、社会経済的地位が低いなどが挙げられている。
・2004年のWHOによる推計ではDALYに換算すると、アルコールは3番目の健康リスクとされていて、2004年の年間推計DALYは6,900万とされている。なお、障害調整生存年(DALY: Disablity-adjusted life year)は集団の健康状態を死亡損失および障害損失として定量的に捉えることができるようにした健康指標である。
アルコール摂取量に関する定義
・健康日本21では「節度ある適度な飲酒」を1日平均純アルコール量で約20g程度としていて、女性は男性よりも少ない量が妥当で、少量の飲酒で顔面紅潮がみられる方でもより少ない量が妥当とされている。また、本邦では「1単位=純アルコール20g」で考えることがある。
・一方で、WHOでは基準として「1ドリンク=純アルコール10g」としている。1ドリンクは大まかな量として、ビール250mL、焼酎50mL、日本酒0.5合、ワイン1杯弱としている。
・またNEJMは健康問題を引き起こす可能性のある飲酒を「危険な飲酒(at-risk drinking)」と表現し、これは「男性は15ドリンク/週または5ドリンク/日以上で、女性と65歳以上の高齢者は8ドリンク/週または4ドリンク/日以上である」と定義されている。
飲酒とそれに伴う有害性
・飲酒により心血管疾患が低下することを示唆する観察研究は存在するが、交絡因子の影響もあると思われ、現状は飲酒による心血管疾患への有益性を示すエビデンスは十分とはいえない。
・飲酒により発がんリスクが上昇することが知られていて、軽度の飲酒であっても口腔癌、咽頭癌、食道癌、乳癌のリスクは上昇することが知られている。
・妊婦の飲酒は胎児性アルコール症候群(顔面奇形など)のリスクを高めることが知られている。
スクリーニング
・医療者は日常診療などの場面でアルコール使用状態についてのスクリーニングを行い、カウンセリングを行うべきとしている。実際、米国予防医療専門委員会(USPSTF: U.S. Preventive Services Task Force)は18歳以上の方、全員に対して飲酒についてスクリーニングをすることを推奨している。
・また、アルコール使用に関連するような状態/徴候(例: 睡眠障害、勃起不全、高血圧症など)が存在する場合にはアルコール使用状態について確かめてみることが良い。
・スクリーニングとしてはAUDIT(alcohol use disorders identification test)を使用することも可能である。国ごとにCut off値が異なっていて、本邦においては12点以上だと問題飲酒が存在し、15点以上だとアルコール使用障害が疑われると考えられている。
・また米国国立アルコール乱用依存症研究所(NIAAA: the national institute of alcohol abuse and alcoholism)は「直近1年間で5ドリンク/日以上(女性あるいは65歳以上の方では4ドリンク/日以上)の飲酒をしたことがあるか?」と尋ねる方法があり、こちらはAUDITの確認よりもさらに簡潔かもしれない。こちらは1度でも該当することがあれば、アルコール使用障害について感度82%、特異度79%とされている。また、CAGE質問法は感度が十分でないという指摘もある。
評価
・前述のスクリーニングのほかに、必要に応じて病歴聴取を追加することも重要。
・過去の断酒経験や断酒失敗した際の状況、家族をはじめとした支援体制、就労/就学に関わる情報などを把握することもときに有用。
・また、飲酒というアクションを引き起こしてしまう誘因が何か、それを回避するためのアクションプランはどんなものが良いかなどを検討する。
アルコールブリーフインターベンション
・短い時間の面接を複数回行い、患者が自分自身で飲酒量をコントロールしていけるように支援する方法をブリーフインターベンション(brief intervention)と呼び、専門医でなくても実施が可能である。
・1週間の飲酒量の減少や、その後の適正飲酒につながることが示されている。
・本ページでは詳細な記載は割愛するものの、動機づけ面接法もマネジメントにおいて有用。行動変容モデルにおけるどのステージにあるのかを確認することや、重要度-自信度モデルなどを利用したアプローチも行われることがある。患者の位置するステージによっては明確なアクションプランを作成してもらうというよりは客観的な情報提供にあえて留めることもある。
・アルコール健康障害対策基本法ネットワークのHPで、ブリーフインターベンションなどについてわかりやすく学ぶことができる。
断酒/家族療法/認知行動療法
・アルコール使用障害の治療では断酒が原則である。
・一般的に中等度から重度なアルコール使用障害の患者ではブリーフインターベンションのほかに、専門医療機関への紹介が必要な場合がある。
・地域ごとのアルコール関連問題の専門医療機関を把握しておくことが望ましい。地域によってはすぐに専門医療機関への紹介を行うことが容易ではない場合もある。実際、状況によってはプライマリ・ケアの現場でマネジメントを継続することもないことはないと思われる。
・また、地域ごとのアルコールカウンセラー、アルコールアノニマス(AA)のような自助グループの存在も把握できるとよいかもしれない。
・すぐに断酒を行うことができない場合に、飲酒量を減らすことから始めて、飲酒による有害性を可能な範囲で減らす、ハームリダクション(harm reduction)という概念も広まりつつある。
・本ページでは割愛するが、認知行動療法、家族療法などを併用する場合もある。
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<参考文献>
・Friedmann PD. Clinical practice. Alcohol use in adults. N Engl J Med. 2013 Jan 24;368(4):365-73. doi: 10.1056/NEJMcp1204714. Erratum in: N Engl J Med. 2013 Apr 25;368(17):1661. Erratum in: N Engl J Med. 2013 Feb 21;368(8):781. PMID: 23343065.
・Rehm J, Shield KD. Global Burden of Alcohol Use Disorders and Alcohol Liver Disease. Biomedicines. 2019 Dec 13;7(4):99. doi: 10.3390/biomedicines7040099. PMID: 31847084; PMCID: PMC6966598.
・簡易版アルコール白書(日本アルコール関連問題学会)