小腸内異常細菌増殖症 SIBO:Small intestinal bacterial overgrowth
SIBOとその疫学
・小腸内異常細菌増殖症(SIBO: Small intestinal bacterial overgrowth)とは上部消化管で一部の細菌が多量に増殖し、慢性下痢、吸収不良、腹痛、低栄養、ビタミン欠乏などを起こす疾患群である。
・通常は上部消化管内の細菌数は1×10の4乗未満/mL以下で、その多くをGPCが占める。しかし、何らかの原因により細菌が異常増殖した際に各種症状が生じ得る。
・有病率は明らかでない。ただし、SIBOの疾患概念の認知度が十分ではないと予想されるため、過小診断されている可能性は残る。
SIBOの主な病因/原因
・小腸には細菌の増殖を防ぐ複数の機構が備わっているとされていて、それには例えば胃酸分泌、腸管蠕動、腸液内の免疫グロブリン、膵液や胆汁液の存在などが挙げられる。換言すると、これらの防御機構に何らかの障害が生じた場合に発症するリスクが上昇する。
・SIBOの原因のうち約90%を占めるのが慢性膵炎と種々の要因による小腸運動障害とである。また、慢性膵炎のケースの30~40%でSIBOを合併するという報告もある。
・慢性偽性腸閉塞とSIBOとを併発したケースにおいて、内因的にエタノール産生する病態が報告されている(自家醸造症候群を指しているかもしれない)。
・セリアック病のケースの9~55%でSIBOが合併する。セリアック病が想定される状況で、グルテンフリー食に反応性が乏しいケースで想起する。
・Crohn病の約25%でSIBOを合併する。この場合、主に回盲弁の欠損(回盲弁の手術歴が通常は存在する)あるいは腸における瘻孔などが存在することが一般的である。
・糖尿病による自律神経障害でもSIBOを合併することがあり、この場合、糖尿病性異不全麻痺、腸管運動障害が主に発症に影響している。また、糖尿病に限らず、腸管運動障害をきたす疾患群ではSIBOを合併することがある。
<SIBOの主な原因>
<小腸のうっ滞>
<解剖学的異常>
・小腸憩室、Blind loop、狭窄(Cronh病、手術などによる影響)
<小腸運動障害>
・糖尿病、強皮症、犠牲腸閉塞症、放射線腸炎など
<消化管近位と遠位の交通異常>
・腸における瘻孔の存在
・回盲弁の切除/機能障害
<その他>
・慢性膵炎
・萎縮性胃炎/薬剤性の低胃酸状態(単一では発症しにくい)
・免疫不全、肝硬変、アルコール使用障害、末期腎不全、高齢など
臨床的特徴
・臨床症状はSIBOの重症度と基礎疾患によりそれぞれ異なる。
・SIBOでは臨床的に無症状なこともあれば、腹部膨満感や下痢、腹痛などを伴い、ときに過敏性腸症候群と認識されることもある。
・より重症度が高いケースでは吸収不良徴候(体重減少、脂肪肝、低栄養など)、肝臓病変、皮膚病変、関節痛、ビタミンなどの欠乏(ビタミンD欠乏、代謝性骨疾患、ビタミンB12欠乏など)が生じる。
・貧血は通常、ビタミンB12欠乏による大球性貧血である。ただし、正球性、小球性の貧血を呈することもある。
・血清葉酸値、ビタミンK値は通常は基準値内である。また、腸内細菌による内因性のビタミンK産生がSIBOにおけるワルファリン治療の妨げになる可能性も指摘されている。
・乳酸アシドーシス(この場合、D-Lactateの蓄積がみられる)は短腸症候群に合併するSIBOでみられる、ときに重篤な合併症である。これは乳酸菌の過剰増殖によって生じる。吸収がうまくなされなかった糖類が小腸から大腸へ移り、発酵され、D-Lactateとなる。多くのケースでは無症状であるが、ときに錯乱、小脳失調、構音障害、健忘などの神経学的症状の原因となることがある。この場合、禁酒している場合であっても、まるで飲酒を続けていように誤認されることがある。なお、乳酸菌ベースのプロバイオティクスはこのケースでは禁忌とされている。
診断
・診断は主に十二指腸液を用いて、1×10の5乗/mL以上の細菌数の存在が示された場合になされる。
・水素呼気試験、メタン呼気試験という検査も存在するが、こちらについての記載は割愛する。現在ではほとんど行われていないと予想する。
治療
・SIBOの治療としては基礎疾患の治療、栄養状態を改善させること、抗菌薬投与などが挙げられる。このなかで最も重要なことは基礎疾患の治療である。また、低栄養、体重減少、栄養素の欠乏を伴うSIBOでは栄養状態の改善も並行して行う必要性が高い。
・SIBOを厳密に診断することが困難な場合で、SIBOを臨床的に疑う際には診断的治療を行うこともある。
・通常はリファキシミンによる7~10日間の内服治療を行う。治療により臨床症状が改善する場合にはSIBOらしいといえるが、SIBOの診断が確定するほどの情報ではない。
・SIBOの抗菌薬治療で、これまで最も使用経験が豊富と考えられているのはリファキシミンである。複数の研究を統合すると、リファキシミンは33~92%の患者の症状を改善させ、最大80%のケースで小腸の細菌の異常増殖を防ぐことができるとされている。多くのケースではリファキシミンを7~10日間投与されていた。また、用量としては高用量投与(1,200~1,600mg/日)は通常用量投与(600~800mg/日)よりもさらに有効であった。またプロバイオティクスを併用することも重要かもしれない。
・使用する抗菌薬の種類、用量、投与期間についてコンセンサスは得られていない。テトラサイクリン系薬剤は従来から代表的な治療薬として考えられていて、SIBOのケースでテトラサイクリン系薬剤を1,000mg/日 7日間投与することで、27%の患者で自覚症状の改善、水素呼気試験の正常化が達成されたという報告がある。他の小規模な臨床研究ではAMPC/CVA(1,500mg/日)、NFLX(800mg/日)などが試されていて、いずれも下痢の頻度をプラセボ薬に比して統計学的有意差をもって減少させられている。そのほかリファキシミン、ST合剤なども試された経緯がある。
・腸管運動障害に起因するSIBOではメトクロプラミド、ドンペリドン、エリスロマイシン、オクトレオチドなどが使用されることがある。ただし、これらの薬剤の投与が長期にわたって有効性を伴うというデータは限られている。
予後
・SIBOの予後は基礎疾患により規定され、一概にはいえない。
・リファキシミンによる治療が奏功した患者のうち44%で、治療9ヶ月後にSIBOの再発が認められたという報告がある。
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<参考文献>
・Rana SV, Bhardwaj SB. Small intestinal bacterial overgrowth. Scand J Gastroenterol. 2008;43(9):1030-7. doi: 10.1080/00365520801947074. PMID: 18609165.
・Dukowicz AC, Lacy BE, Levine GM. Small intestinal bacterial overgrowth: a comprehensive review. Gastroenterol Hepatol (N Y). 2007 Feb;3(2):112-22. PMID: 21960820; PMCID: PMC3099351.
・Bures J, Cyrany J, Kohoutova D, Förstl M, Rejchrt S, Kvetina J, Vorisek V, Kopacova M. Small intestinal bacterial overgrowth syndrome. World J Gastroenterol. 2010 Jun 28;16(24):2978-90. doi: 10.3748/wjg.v16.i24.2978. PMID: 20572300; PMCID: PMC2890937.
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