慢性膵炎 chronic pancreatitis
慢性膵炎とその疫学
・慢性膵炎(chronic pancreatitis)とは腹痛を主な症状として、反復性の膵炎とそれに伴う線維化により、膵の外分泌機能と内分泌機能とが低下する疾患である。
・有病率は国により異なるが、人口10万人あたり約50人とされる。一般的に胆石性膵炎の割合が高い集団では慢性膵炎の有病率が低く、一方でアルコール性膵炎の割合が高い集団では慢性膵炎の有病率が高いことが知られている。
・急性膵炎を反復することが慢性膵炎につながる可能性があると考えられている。一般的に慢性膵炎の診断は膵管の異常/拡張所見、膵石の存在などの画像診断に依存する側面が大きい。
・慢性膵炎は膵癌の最も大きいリスク因子という報告もある。
・慢性膵炎患者の寿命は比較的短いが、膵疾患とは関連しない原因で死亡することが頻度としては最も多い。
環境/遺伝/解剖学的要因
・一般的に胆石性膵炎では胆石が未治療のままで、かつ膵炎を再発しない限りは慢性膵炎には進行しない。つまり、アルコール多飲が慢性膵炎の最も一般的な原因である。
・あるReviewでは1日5ドリンク以上の飲酒がリスク因子となると報告がされている。
・そのほか喫煙もリスク因子であり、アルコール多飲と喫煙は相乗的にリスクを上昇させることが示唆されている。
・また、TRPV6などの遺伝子変異が発症のリスク因子と考えられるなど、遺伝学的要因も報告されている。遺伝子検査はルーチンで行われることはなく、あくまでほかに原因が指摘されない場合に実施を考慮される。
・慢性膵炎はIgG4関連疾患(IgG4-RD)に関連し、自己免疫性膵炎として発症することもある。自己免疫性膵炎の最も一般的なプレゼンテーションは無痛性黄疸である。一般的に自己免疫性膵炎は60歳以上の患者で発症し、男性に多く発症する(男:女=3:1)。治療にはステロイドが用いられる。
慢性膵炎の診断
・前述のように慢性膵炎の診断は主に画像診断に基づくことが多い。進行したケースでは膵の石灰化や膵管拡張がみられるが、それほど進行していないケースではときに判断が容易でないこともある。
・急性膵炎では血清アミラーゼやリパーゼが上昇することが多いが、慢性膵炎では増悪してもこれらの膵酵素の上昇がみられないことも多い。慢性膵炎の診断に有用なバイオマーカーは確立していない。
・慢性膵炎の診断に利用される画像検査としてCT撮像やMRI撮像が挙げられる。また、腹部エコー検査やERCPなども有用な場合がある。
・CTでは膵の石灰化や萎縮、膵管拡張が指摘できることがある。MRIやMRCPでは膵実質の評価に加えて膵管の評価も可能である。これらの検査を行ったうえでなお、膵炎の評価が必要な場合には超音波内視鏡検査を用いることで発症早期の段階でも慢性膵炎と診断できるケースがある。診断に不確実性を伴うケースでは膵生検が検討されることもある。
・前述の画像検査を行っても慢性膵炎らしい形態学的所見が得られなかった場合は早期慢性膵炎と呼ばれる状態かもしれない。
膵外分泌機能不全/内分泌機能不全
・慢性膵炎で膵の外分泌機能不全および内分泌機能不全がみられることは一般的である。
・膵外分泌機能不全は外分泌機能の90%以上が失われたケースで発生し、脂肪便(下痢)が生じる。また、脂質吸収が障害されるため、体重減少や脂溶性ビタミンの欠乏が生じることがある。血清トリプシンの測定も重度の膵外分泌機能不全に関連した検査として検討されることがある。また骨粗鬆症やサルコペニアのリスクが増加することも知られている。
・膵内分泌機能不全の結果として糖尿病が生じることがある。このタイプの糖尿病は膵性糖尿病や3c型糖尿病、膵炎後糖尿病(PPDM)と呼ばれることがある。PPDMは一般的にメトホルミン投与から治療を開始されるが、最終的にはインスリン投与を必要とするケースもある。インクレチン関連薬は膵炎のリスクを考慮すると回避することが無難かもしれない。また、グルカゴンの分泌能も低下している場合、低血糖リスクも高く、慎重な管理が必要である。
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疼痛に対するマネジメント
<疼痛管理>
・慢性膵炎の疼痛は身体的、社会的、スピリチュアルな影響など様々な要素によって就職されることがある。
・一般的に上腹部痛や背部痛を伴う。ときに食事で増悪し、消化性潰瘍などを合併する場合もある。
・禁酒と禁煙を勧めることが重要。禁酒は寿命を伸ばし、慢性膵炎の進展を遅らせる効果があるが、進展を止めることはできない。喫煙は膵癌の発症リスクを高めるとともに、慢性膵炎の進展を加速させる。また喫煙は慢性膵炎のリスクに関して用量反応性に上昇することが示されている。
・鎮静薬としては非オピオイド薬の使用が第一選択とされている。オピオイドは疼痛が悪化して持続する場合に使用を考慮する。三環系抗うつ薬、SSRIなどの鎮痛補助薬はオピオイドの必要量を減らし、神経障害性疼痛を緩和することができる。実際、プレガバリンが有意に疼痛緩和させたという結果を示すRCTが存在する。
・膵酵素補充療法は有用性を支持する文献に乏しいものの、慢性膵炎による疼痛を緩和するために長年使用されている。
・腹腔神経叢ブロックは疼痛緩和に関して有効性が示されていて、オピオイド使用量を減少させる効果もある。内科的治療に抵抗性が示されているケースでは検討しても良いが、疼痛軽減はあくまで一過性である。
<内視鏡治療>
・慢性膵炎では膵石形成などにより炎症、疼痛の原因となる。
・膵管拡張がみられているケースでは内視鏡的または外科的治療で膵管内圧を減圧することで疼痛緩和し、膵外分泌/内分泌機能を維持できる可能性がある。
・膵管狭窄や膵石を有する患者の疼痛に対する内視鏡的治療は可能であり、一部の患者では膵管狭窄を管理するために長期膵管ステント留置術が有益なこともある。298人の患者を含む13の研究に関するメタアナリシスでは膵管ステント留置後の疼痛は留置前と比較して89%改善したと報告されている。また、膵石破砕術単独でも年間の発作回数が減少することが示されている。
<外科的治療>
・慢性膵炎による疼痛に対する手術は一般的に膵管拡張や膵石が存在し、症状が長期間続く重症患者にのみ適用されることがある。
・膵管から消化管への膵液の排出を改善させるために膵頭十二指腸切除術(Whipple)や十二指腸温存膵頭部切除術などの方法がある。
・術後60~80%の患者で疼痛が改善したと多くの長期的な研究で報告されている。手術法は患者ごとに最適なものを個別性に応じて決定される。
<内視鏡治療と外科的治療>
・RCTによるエビデンスによると、膵管閉塞を伴う疼痛が生じる慢性膵炎の長期治療としては内視鏡治療よりも手術を考慮すべきことが示唆されていて、疼痛緩和の成績に関して外科的治療の方が優れているという見方が一般的である。
慢性膵炎の合併症
・膵仮性嚢胞や膵周囲液体貯留は慢性膵炎患者では炎症と膵管破壊の悪化により生じる。
・慢性膵炎では急性膵炎とは異なり、自然軽快しないため、仮性嚢胞が治癒する可能性は低い。
・腹痛や体重減少を伴う胃/十二指腸閉塞、胆道閉塞をきたすケースではプラスチックステントなどを用いた内視鏡的治療を検討することがある。
・慢性膵炎の血管合併症としては周囲の動脈、特に脾動脈の仮性動脈瘤や脾静脈血栓症などが挙げられる。脾梗塞は比較的一般的な合併症で、患者の約5%でみられる。脾静脈血栓症のケースでは胃粘膜の出血を伴う門脈圧亢進症を合併するケースがあり、その場合は脾動脈塞栓術、脾摘術が検討される。
慢性膵炎と膵癌
・膵癌のリスクが高いため、膵癌の可能性を考慮しながら経過観察することとなる。慢性膵炎の診断から5年後の膵癌発症リスクは約8倍であるが、9年後には約3.5倍に減少するという報告もある。CA19-9は慢性膵炎、特に胆道閉塞で上昇することがあるが、上昇すると膵癌の可能性は高まるかもしれない。
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<参考文献>
・Hines OJ, Pandol SJ. Management of chronic pancreatitis. BMJ. 2024 Feb 26;384:e070920. doi: 10.1136/bmj-2023-070920. PMID: 38408777.