熱中症 heatstroke

熱中症/リスク因子と疫学

・熱中症とは一般的に「高温多湿な環境下における身体適応障害によって発生する状態の総称」である。

・熱中症は非労作性熱中症(classic heatstroke)労作性熱中症(exertional heatstroke)とに大別される。

非労作性熱中症(古典的熱中症)暑熱に対する生理的な適応能力が低下した高齢者などで主に生じる。熱波を引き起こす世界的な気温上昇などが原因であり、屋内であっても生じ得る。また、思春期前の小児もハイリスク群に含まれ、体重に対して体表面積が大きいこと(=熱吸収率が高い)、体温調節機構の発達が不十分であること、体格に比して血液量が少ないこと(=熱が蓄積しやすい)などがハイリスク群に含まれる理由である。また、乳幼児では暑熱環境下にあたる密閉された車内に閉じ込められて発症するケースもあるため、注意が必要である。全体的に労作性熱中症よりも非労作性熱中症の方が死亡率が高い

労作性熱中症激しい身体活動に関係して発症する熱中症であり、主にアスリート、肉体労働者などで生じる。労作性熱中症は労作を始めて60分以内であっても発症することがあることに注意する。

病態生理

・熱中症は熱産生が熱放散を上回る状態に変わることで生じる。その結果、深部体温は上昇し続け、それによる直接的な細胞毒性作用炎症反応とを惹起し、悪循環が形成され、重症例では最終的に多臓器不全に至る。

・熱中症に関連した炎症反応はSIRS(全身性炎症反応症候群)に類似している。高体温により血管内皮細胞障害と白血球の過剰な活性化が生じることが示唆されている。それによりDICや多臓器不全を生じさせる。

診断

・熱中症は臨床診断によりなされる。主には①高体温 ②神経学的異常所見 ③暑熱曝露あるいは労作 の3要素に基づいて判断される。

頻脈、頻呼吸、低血圧はよくみられるバイタルサインの異常所見である。

非労作性熱中症(古典的熱中症)では通常皮膚は乾燥していて、高齢者においては発汗能力が低いことを反映している。一方で、労作性熱中症では大量の発汗と、湿潤した皮膚が典型的な病像といえる。

・皮膚は通常、末梢血管の過剰な拡張を反映して紅潮しているか、あるいは過剰な虚脱を反映して蒼白となっているかである。

鑑別診断

・熱中症は診断と治療が遅れると死亡率が大幅に上昇することがあるため、体温上昇と神経学的異常所見があるケースでは常に念頭に置く。

・そのほかの主な鑑別診断は髄膜炎、脳炎、てんかん、薬物中毒(例:アトロピン、NMDA、コカインなど)、重度の脱水、代謝性疾患(悪性症候群、悪性高熱症、セロトニン症候群、甲状腺中毒症、褐色細胞腫など)が挙げられる。

熱中症の分類

・従来、熱中症は熱失神(heat syncope)、熱痙攣(heat cramps)、熱疲労(heat exhaustion)、熱射病(heat stroke)と分類されていたが、日本救急医学会などは新たな分類を用いている。

・日本救急医学会が推奨する重症度分類はJAAM-HS(Japanese Association for Acute Medicine-Heat Stroke)と呼ばれ、軽症から順番に、Ⅰ度(軽症群)、Ⅱ度(中等症群)、Ⅲ度(重症群)に分類し、それぞれにおける主な臨床症状、臓器障害を付記し、重症度に応じた治療法が提案されている。

 <Ⅰ度熱中症>

・臨床症状:めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛/有痛性筋痙攣

・意識障害(−)

・主な治療:現場で対処可能。

      冷所での安静(passive cooling)、体表冷却、経口的に水分・Na摂取

 <Ⅱ度熱中症>

・臨床症状:頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力/判断力の低下

・意識障害:JCS≦1

・主な治療:原則的に医療機関での診察を要する。

      体温管理、安静、十分な水分・Na摂取(経口摂取が困難であれば点滴を実施)

 <Ⅲ度熱中症>

・臨床症状:以下の3つのうちいずれかを含む

        (C)中枢神経症状(JCS≧2, 小脳症状, 痙攣発作)

      (H/K)肝・腎機能障害(入院加療が必要な程度を指す)

      (D)血液凝固異常(急性期DIC診断基準でDICと診断)

・主な治療:原則として入院加療

      体温管理(体表冷却に血管内冷却などを加える(active cooling))

      呼吸/循環管理、DIC治療

臨床像/合併症

・熱中症の可能性のある患者ではまずは深部体温(直腸温を利用することが多い)の測定が重要である。測定が遅れてしまったり、不適切に腋窩での測定が行われたりした場合、体温が誤って低く認識されてしまうことがあるため、注意を要する。

・中枢神経は高体温に対して極めて過敏であり、熱中症では中枢神経系への障害は避けがたい。初期症状としては行動異常、錯乱、せん妄、めまい、脱力感、興奮、攻撃性、不明瞭な言語、悪心/嘔吐などがみられる。けいれん発作失禁は主に労作性熱中症の重症例でみられやすい。

・意識障害は一般的に悪化するものの、深部体温が40.5度ぐらいを下回ると通常は回復し始める。中枢神経障害は小脳に集中することがある。また、自律神経障害と腸管を司る神経系の障害は長期におよぶ可能性がある。

・多臓器機能不全は24~48時間以内にピークに達する場合がある。治療が迅速に行われれば、ほとんどのケースで軽快する。生じ得る合併症としてはDIC、ARDS、急性腎不全、心機能障害、肝機能障害などが挙げられる。

・なお、横紋筋融解症は主に労作性熱中症で伴いやすい。

治療

 <体温管理>

・深部体温が40.5度を超える状態が続く場合は予後不良である。迅速で効果的な冷却が治療の要である。一般的には深部体温38度台を目標温度とする。

労作性熱中症の場合0.10度/分(6.0度/時)よりも早い冷却速度は安全で、予後を改善させるためにも理想的な速さと思われる。労作性熱中症の治療として冷水浸漬0.20~0.35度/分の冷却速度を達成するために選択される場合がある。ほかにも大量の水を体表面にかけて、扇風機などで風を当てることで気化熱により冷却を図ることができ(蒸散冷却法)、約0.10度/分の冷却速度は達成可能とされる。

非労作性熱中症(古典的熱中症)の高齢者では冷水浸漬によっても冷却も選択肢にはあるが忍容性は低く血管内冷却、氷嚢や保冷剤を頚部/腋窩/鼡径に当てる方法や、前述の気化熱による冷却などを検討可能である。

・NSAIDsやアセトアミノフェンなどの解熱薬の使用は無効である。また使用によって凝固障害や肝機能障害を助長させる恐れもあるため、原則として使用しない。

 <臓器障害に対する治療>

・高体温により生じた臓器障害はほとんどの場合で迅速かつ効果的な冷却により速やかに回復する。しかし、冷却のみでは完全な回復に至らないこともあり、病態に応じた支持療法(例:細胞外脱水に対する補液、けいれんに対するBZ系薬剤の投与など)を速やかに行うことも不可欠である。

予防

・夏場のように気温が高い時期は熱中症の予防が重要。

・予防方法としては冷房の効いた空間で過ごすこと、扇風機を使用すること、冷たいシャワーを浴びること、労作を減らすこと、社会的孤立を防ぐこと、適切な水分補給をすることなどが挙げられる。

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<参考文献>

・Epstein Y, Yanovich R. Heatstroke. N Engl J Med. 2019 Jun 20;380(25):2449-2459. doi: 10.1056/NEJMra1810762. PMID: 31216400.

・熱中症診療ガイドライン2015(日本救急医学会)

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