坐骨神経痛 sciatica
坐骨神経痛とその解剖
・坐骨神経痛(Sciatica)は臀部から坐骨神経の走行に沿って放散する疼痛のことで、主に腰部神経根の圧迫により生じる。
・L4~5神経根とS1~2神経根とは腰仙神経叢で合流し、腓骨神経と脛骨神経とを形成し、坐骨神経として骨盤外へ出る。
・神経根として障害される頻度が最も多い高位はL4/5とL5/S1神経根レベルと考えられている。
・坐骨神経痛は主に神経根の圧迫あるいは局所の炎症性サイトカインにより生じると考えられている。
・年齢としては40~50歳代で好発する。
・なお、股関節疾患と坐骨神経痛はしばしば誤認されやすい。
・喫煙は坐骨神経痛のリスク増加に関連する。
(PMID:25806916より引用)
臨床症状/検査所見
・坐骨神経痛は臀部に疼痛を伴い、L5神経根の圧迫による場合は大腿背外側に、S1神経根の圧迫による場合は大腿背側に疼痛が放散する。なお、L4神経根の圧迫による場合は疼痛が大腿前外側に生じ、股関節疾患と誤認されることもある。
・坐骨神経痛は運動時に突発的に生じることもあるが、緩徐に発症することもある。
・坐骨神経痛は通常、片側性である。ただし、中心性の椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、脊椎すべり症では両側性の疼痛となることもある。
・両側性の坐骨神経痛が歩行によって生じることもあり、このケースでは血管性跛行のように誤認されることがある。しかし、これは馬尾が圧迫されることによって生じ、神経性跛行(the Verbiest syndrome)として知られる。
・デルマトームに沿って知覚異常を認めることもあるが、顕著な所見とまではいえないこともある。筋力低下は半数以下のケースでみられるが、下垂足になったり(L5神経根症で生じる)、歩行時に骨盤が下方に傾いたり(S1神経根症で生じる)するほど重症になることは稀である。
・S1神経根の圧迫では通常アキレス腱反射の減弱/消失と関連して、L3またはL4神経根の圧迫では膝蓋腱反射の減弱/消失と関連する。
・坐骨神経痛の診察としてはSLR testが知られていて、膝関節を伸展させたまま患側下肢を挙上させ、疼痛が生じるかどうかを確かめる診察法である。下肢を30~70度の角度に挙上させた際に、疼痛が臀部から膝下まで放散するようであれば陽性と判断される。また、疼痛が生じる位置よりも少し下肢の角度を下げ、そこで足関節を背屈させたときに疼痛が生じる場合はBragard testが陽性と判断する。またCrossed SLR testは健側の下肢を上げても疼痛が生じる診察法でSLR testよりも感度が下がる一方で、特異度は高まるとされている。またBragard testの方法を健側で試して疼痛が生じる場合はFajersztajn test陽性と判断される。
・SLR testは感度91%、特異度26%で、Crossed SLR testは感度29%、特異度88%と報告されている。
・膀胱直腸障害の有無を確認するためには失禁などの臨床症状のほかに、直腸の緊張、Anal wink(肛門まばたき反応)などを確認することがある。Anal winkは肛門の両側皮膚表面を指で刺激することで肛門括約筋が収縮する肛門皮膚反射でS2~4の仙骨神経障害が生じている場合にはこの反応は欠如する。
・そのほか、踵歩き/つま先歩きの所見、左右の母趾伸筋筋力などの診察もときに有用。
画像診断
・神経根の圧迫を示す画像所見が得られれば、坐骨神経痛の原因が椎間板や脊椎の構造的問題によるものと判断可能である。ただし、自覚症状、身体所見から典型例と想定されるケースでは何らかの侵襲的な介入/治療が必要になるまでは検査は必須でない。
・腰椎X線撮影は情報量に限界がある。しかし、椎間板高の減少、脊椎すべり症、椎体への腫瘍浸潤などが示唆される場合はある。またMRI撮像でより正確な評価を行うことが可能。
・腰痛が1ヶ月程度以上続いていて、初期治療による改善がみられないケースにおいて画像診断を推奨するという見方もある。ただし、神経症状が重度であったり、Red flagがみられたりする場合には画像検査を進める場合がある。
坐骨神経痛をきたす、脊椎以外における原因
<梨状筋症候群>
・梨状筋は仙骨と大転子とをつなぐ筋肉であり、股関節を安定させ、外旋筋の役割を担っている。
・梨状筋症候群は梨状筋の下にある坐骨神経が圧迫されることで疼痛が生じる状態を指す。
・特徴的な点は臀部正中部の梨状筋に一致して圧痛がみられること、座位で疼痛が悪化して歩行で改善すること、股関節の外旋によって梨状筋の緊張を高めることで疼痛が悪化することが挙げられる。
・梨状筋症候群の原因としては梨状筋の肥大、外傷、スポーツなどによる使いすぎなどが挙げられている。
・画像検査や電気生理学的検査はいずれも正常であることが典型。
・臀部のポケットに財布などの固いものを入れたまま、長時間座った場合にも生じる場合があるとされる。
・身体診察法としてはFreiberg徴候とBeatty徴候とが知られている。
・Freiberg徴候は伸展した大腿を内旋させた際に疼痛が生じるかどうかを確かめる方法である。
・Beatty徴候は患側下肢を上にした状態で側臥位になり、股関節を軽度屈曲させた状態から下肢を挙上させたときに疼痛が生じるかどうかを確かめる方法である。
<Zoster sine herpete(水疱を伴わない帯状疱疹)>
・腰部または仙骨上部の皮膚に帯状疱疹が生じる前の数日間はときに坐骨神経痛様の疼痛をきたす場合がある。
<外傷性>
・骨盤骨折やハムストリングスの近位部損傷後などでは坐骨神経が障害される場合がある。
・また筋肉における血腫や股関節後方脱臼などで坐骨神経痛を誘発することもある。
<婦人科/周産期に関連>
・神経に子宮内膜組織が沈着することで周期性かつ反復性の坐骨神経痛を起こす場合があり、右側に多い。
・妊娠後期における大きな卵巣嚢腫や子宮により神経が圧迫される場合がある。
・分娩後に片側あるいは両側性の坐骨神経痛が生じる場合がある。
<その他>
・糖尿病性神経根症、坐骨神経の血管インピンジメント(仮性動脈瘤による圧迫など)なども原因として挙げられる。
保存的治療
・坐骨神経痛は過半数のケースで保存的加療で改善する。
・一般的な初期治療として薬物療法、理学療法による疼痛管理を図る。
・NSAIDsは腰痛に対して短期的な疼痛緩和に有用な可能性があるが、坐骨神経痛に対する効果を判断するのはときに容易でない。
・グルココルチコイド内服は坐骨神経痛の改善を図るために使用されることもあるが、その有効性を判断することは難しい。
・多くのガイドラインではオピオイドの使用を制限することを推奨している。また、プレガバリン、三環系抗うつ薬、筋弛緩薬、ガバペンチンなども使用されることがあるが、その有効性を裏付けるデータは乏しい。
・ストレッチや運動により腰椎の可動性を徐々に高め、姿勢を改善させ、脊柱と骨盤を安定化させる筋肉を強化できる。また、坐骨神経痛の急性期においては安静よりも活動を続けることのほうがより有効であることを示唆する研究もある。
・坐骨神経痛に対する脊椎マニピュレーションが行われることがあり、比較対照試験も実施されているが、エビデンスの質は低いか、中等度かであり、限定的である。
・グルココルチコイド硬膜外注射は短期的に下肢痛を緩和することが示唆されているが、その後の手術の必要性を小さくする効果はない。
・梨状筋症候群の治療には可動性を高めるためのストレッチ、理学療法が含まれる。グルココルチコイドやボツリヌス毒素の単独使用や理学療法の併用が検討可能。
外科的治療
・腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛の外科的治療と保存的加療とを比較した研究の多くは外科的治療の方がより早期に疼痛緩和が得られるとされている。
・実際、坐骨神経痛が6~12週間続き、腰椎椎間板ヘルニアに対し手術介入を行う群では、保存的加療に割り付けられた患者群よりも、より早く疼痛軽減につながるとされる。ただし、術後1年時点では外科的治療群と保存的加療群とで疼痛や障害の程度に差がなかったと考えられている。
・馬尾圧迫により膀胱直腸障害が生じているケースでは手術の実施が推奨される。
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<参考文献>
・Ropper AH, Zafonte RD. Sciatica. N Engl J Med. 2015 Mar 26;372(13):1240-8. doi: 10.1056/NEJMra1410151. PMID: 25806916.
・Shiri R, Falah-Hassani K. The Effect of Smoking on the Risk of Sciatica: A Meta-analysis. Am J Med. 2016 Jan;129(1):64-73.e20. doi: 10.1016/j.amjmed.2015.07.041. Epub 2015 Sep 25. PMID: 26403480.
・Koes BW, van Tulder MW, Peul WC. Diagnosis and treatment of sciatica. BMJ. 2007 Jun 23;334(7607):1313-7. doi: 10.1136/bmj.39223.428495.BE. PMID: 17585160; PMCID: PMC1895638.
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