早期再分極症候群/ブルガダ症候群 early repolarization syndrome/Brugada syndrome

早期再分極症候群とその疫学

・明らかな器質的心疾患を有さない特発性心室細動(VF)患者の一部において、下壁誘導(Ⅱ,Ⅲ,aVF)または側壁誘導(Ⅰ,aVL,V4~6)でJ波または早期再分極パターンがみられることが2008年に報告され、早期再分極症候群(ERS: Early repolarization syndrome)と提唱された。

・心電図におけるJ波とはQRS波とT波との接合部を指し、このJ点が基線から上昇している場合J波あるいは早期再分極パターン(Early repolarization pattern)という。

・早期再分極パターンの有病率は一般集団において約10%かそれ以上と考えられている。

・早期再分極症候群とBrugada症候群とは心電図の特徴や薬物治療も類似する部分があることから、両者は一連の疾患ではないかという議論もなされている。

下壁誘導(Ⅱ,Ⅲ,aVF)における早期再分極パターンや、0.1mV以上のJ点を有するケースは特発性心室細動のリスクが高いことが示唆されている。0.2mV以上のJ点ではさらにリスクが高まることを示唆する報告もある。

・ある報告では若年成人において早期再分極パターンが認識された場合、特発性心室細動の発生率は10万人あたり11人に増加することが示唆されている。

早期再分極パターン/Brugadaパターンの種類

・早期再分極パターンとBrugadaパターンとには波形の特徴ごとに種類がある。

・早期再分極パターンは主にQRS終末のNotch波形(Terminal QRS Notching)QRS終末のSlur波形(Terminal QRS Slurring)、ST上昇(ST elevation)に大別される。

Brugada type1ST部分が上に凸のcoved型で、J点およびST segmentにおいて2mm以上のST上昇がみられ、陰性T波を伴うものを指す。

Brugada type2ST segmentが下に凸のsaddle back型で、ST segmentが1mm以上の上昇かつ陰性T波を伴わないものを指す。

Brugada type3saddle back型で、ST segmentが1mm未満で陰性T波を伴わないものを指す。

・なお、3種類存在するBrugada波形のうち、致死的不整脈や突然死のリスクが最も高いとされているのがType1である。また、一般的に無症候性のType2あるいはType3は予後不良でないとされているが、失神などの経験がある患者におけるType2あるいはType3は慎重なアセスメントが必要。

・Brugada波形は高位肋間(第2~3肋間)において典型的な波形が検出されることもあり、失神の経験のある患者ではV1-3誘導に関して高位肋間の記録も確認することも一案かもしれない。

(PMID:27067089より引用)

早期再分極症候群と遺伝

・KCNJ8、SCN5Aなどの遺伝子変異の存在が認識されている。

・しかし早期再分極症候群や早期再分極パターンにおける遺伝子検査は感度や特異度が十分でなく、臨床的意義が不明な遺伝子変異が発見される可能性があり、現時点でその有用性についてはコンセンサスが得られていない

突然死や原因不明の若年での死亡の家族歴があるケースや、安静時などにおける前兆のない失神の経験があるケースは遺伝性早期再分極を疑う特徴といえる。

早期再分極のマネジメント

・早期再分極パターンの有病率は低くないが、不整脈の発生リスクは比較的低い。

・早期再分極症候群に対する治療介入の推奨はthe Heart Rhythm Society/European Heart Rhythm Association/Asia Pacific Heart Rhythm Societyのコンセンサスステートメントにおいて、以下のように記載されている。

・なお、早期再分極症候群と診断されたケースの一部では植込み型除細動器(ICD)が検討される。

 <主な推奨内容>

・無症候性患者(突然死の家族歴なし)において、偶発的に早期再分極パターンが判明した場合にさらなる精査を行うことは推奨されない(AHAクラスⅢ(エビデンスレベル:C))。

・原因不明の失神患者において、リスクの層別化の手段に早期再分極パターンを組み込むことの有用性は十分に確立していない(AHAクラスⅡb(エビデンスレベル:C))。

・原因不明の失神と第1度近親者に突然死の家族歴がある患者では、総合的なリスク層別化に早期再分極の存在を利用することを考慮しても良い(AHAクラスⅡb(エビデンスレベルC))。

Brugada症候群の診断基準

Type1の心電図波形を右胸部誘導の1つ以上に認めることに加え、

  1. 多形性VT・VTが記録されている
  2. 45歳以下の突然死の家族歴がある
  3. 家族に典型的Type1の心電図の人がいる
  4. 多形性VT・VFがEPSによって誘発される
  5. 失神や夜間の死戦期呼吸を認める

のうち、1つ以上を満たすものとしている。

・なお、Type2、Type3の心電図では薬物負荷により典型的なType1になった症例を、上記の診断基準に当てはめる。

・Brugada症候群による突然死の予防には植込み型除細動器(ICD)が唯一の有効な治療法となる。ただし、全例に植え込みを行うとは限らず、失神の既往や家族歴、VFの出現の有無などで判断される。

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<参考文献>

・Patton KK, Ellinor PT, Ezekowitz M, Kowey P, Lubitz SA, Perez M, Piccini J, Turakhia M, Wang P, Viskin S; American Heart Association Electrocardiography and Arrhythmias Committee of the Council on Clinical Cardiology and Council on Functional Genomics and Translational Biology. Electrocardiographic Early Repolarization: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2016 Apr 12;133(15):1520-9. doi: 10.1161/CIR.0000000000000388. Epub 2016 Mar 7. PMID: 27067089.

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