炎症性ミオパチー inflammatory muscle disease

炎症性ミオパチーとその特徴

・炎症性ミオパチーは皮膚筋炎、多発性筋炎、免疫介在性壊死性ミオパチー、封入対筋炎の4つに大別される。

・それぞれの病型で予後や治療反応性が異なるため、病型を区別する意義がある。

・一般的には近位筋障害により、椅子からの立ち上がり動作、階段を昇る動作、物を持ち上げる動作などが困難となる。

・全ての病型において頸部筋咽頭筋が侵されることがあり、その結果、頭部の挙上や嚥下障害が生じることがある。進行したケースでは呼吸筋も侵される。

封入体筋炎では早期に筋萎縮がみられ、大腿四頭筋前腕筋の選択的な萎縮がみられやすい。

発熱、関節痛、レイノー現象などの全身症状は封入体筋炎で起こることは稀であるが、それ以外の病型では比較的みられ、抗ARS抗体症候群らしい所見でもある。

心筋障害をきたすと心機能低下、不整脈がみられることがあり、間質性肺炎を合併することがある。なお、間質性肺炎は抗Jo-1抗体または抗MDA-5抗体が陽性のケースでは70%程度でみられる。

皮膚筋炎/総論

小児、成人ともに発症し得る。

発症初期には筋力低下、明瞭な皮膚症状がみられることがある。皮膚症状は筋力低下に先行する場合がある

・皮膚症状としてはヘリオトロープ疹(眼窩周囲の紫紅斑)、Gottron徴候(肘/膝/内顆/拳の伸側に好発する紫紅斑)、Gottron丘疹(IP/MCP関節の伸側や側面に出現する紫色の丘疹)、Vネック徴候(前胸部の紅斑)、ショール徴候(項部~肩背側の皮疹)などが知られている。

・また機械工の手(mechanic’s hand)は母指尺側と示指/中指橈側に生じる角化性紅斑のことであり、抗ARS抗体抗MDA-5抗体の陽性例でみられやすい所見である。

逆Gottron丘疹(手指屈側に生じる有痛性紅斑)抗MDA-5抗体陽性例でみられやすい。

・抗MDA-5抗体陽性例では皮膚症状を伴うものの筋症状がない皮膚筋炎(CADM: clinically amyopathic dermatomyositis)が高率にみられる。また、急速進行性間質性肺炎の頻度も高く、予後不良であり、疑えばステロイド治療を可及的速やかに開始する必要がある。

・皮膚筋炎では強皮症(SSc)や混合性結合組織病(MCTD)の症状と重複することもある。

・成人では皮膚筋炎の発症3~5年の間に悪性腫瘍のリスクが上昇し、9~32%でみられるという報告もある。頻度が高い悪性腫瘍としては卵巣癌、乳がん、結腸癌、悪性黒色腫、上咽頭癌、非ホジキンリンパ腫が挙げられ、皮膚筋炎を発症して3年間は年1回のスクリーニングが必要とする報告もある。

多発性筋炎/総論

・多発性筋炎が単独で存在することは稀であり、多発性筋炎と診断されるケースのほとんどが封入体筋炎、免疫介在性壊死性ミオパチー、筋ジストロフィーである。

・多発性筋炎は除外診断である。

免疫介在性壊死性ミオパチー/総論

・免疫介在性壊死性ミオパチーは多発性筋炎よりも発症頻度は高く、全ての炎症性ミオパチーのうち19%を占めるとされている。

ウイルス感染症の発症後、悪性腫瘍との関連、強皮症などのリウマチ性疾患との合併、スタチン服用との関連などが示唆されている。なお、スタチン服用により発症した場合、スタチン中止後も筋障害は悪化することがある。スタチン中止4~6週間以内に症状が改善する場合は免疫介在性の筋障害ではなく、薬剤そのものの副作用によると考えられる。

・免疫介在性壊死性ミオパチーのほとんどは抗SRP抗体または抗HMGCR抗体が陽性となる。

封入体筋炎/総論

・封入体筋炎は多発性筋炎を疑ったケースで治療反応性が不良な場合などに想起する。

・特に前腕筋と大腿四頭筋の萎縮、手指および手関節の屈筋の筋力低下、膝関節伸展および足関節背屈の筋力低下などは早期診断に有用かもしれない。

・封入体筋炎では数年の経過で徐々に筋力低下が進行する。また筋症状は非対称性なこともある。

嚥下障害は皮膚筋炎や多発性筋炎よりも封入体筋炎でより合併しやすく、50%以上でみられる。

・封入体筋炎では血清CK値の上昇がみられないケースが存在するため、疑った場合はCK

高値がないことをもって安易に除外しない。

検査/診断

・病型の診断は臨床経過、疾患の進行スピード、筋病変のパターン、血液検査、筋電図所見、筋生検所見などにより総合的に行う。

・筋力低下の有無に関わらず、典型的な皮膚所見があれば皮膚筋炎を、亜急性経過の近位筋筋力低下がみられれば多発性筋炎または免疫介在性壊死性ミオパチーを、非対称性な筋症状や緩徐進行性の近位および遠位筋の筋力低下がみられれば封入体筋炎を、それぞれ疑いやすい。

・筋電図検査は神経原性疾患の除外に有用で、かつ疾患活動性の評価に役立つことがある。

・血清CK値はミオパチー全般で最も感度が高い検査項目である。血清CK値は封入体筋炎で上昇を伴わないこともあるが、原則として高値となる。また発症初期から特に目立った高値になりやすいのは免疫介在性壊死性ミオパチーで、ときに基準値上限の50倍程度になることもある。なお、筋膜も侵されているケースではアルドラーゼも上昇することがある。

・MRI撮像は筋肉における炎症性の浮腫を同定するために有用で、生検箇所を決定することに役立つ。

・筋生検は病型評価にも不可欠であり、なおかつ筋ジストロフィー、代謝性ミオパチーなどの他疾患の除外にも必要である。前述の4病型にはそれぞれ特徴的な組織所見が存在する。

皮膚筋炎/多発性筋炎/免疫介在性壊死性ミオパチーの治療

・皮膚筋炎/多発性筋炎/免疫介在性壊死性ミオパチーの治療にはPSL内服を1日1回 1mg/kgで治療することが一般的である。なお、急速に病勢の悪化がみられる場合には内服治療を行う前にmPSL 1,000mg/日 3~5日間程度で静注治療を行うこともある。

・なお血清CK値のみを指標にして治療反応性を評価しないこともときに重要で、臨床症状など総合的な判断とする。

重症で急激に進行するケースでは免疫グロブリン静注療法(IVIG)を行うこともある。これは多発性筋炎および免疫介在性壊死性ミオパチーの治療に有効であることが非盲検化試験で示唆された。

・グルココルチコイドやIVIGに反応性が不良な場合は筋生検の再検査などを考慮する。

・全体として炎症性ミオパチーの長期予後は改善していて、10年生存率は90%を超えるという報告もある。

封入体筋炎の治療

・封入体筋炎ではT細胞を介した細胞障害と炎症性サイトカインによるアミロイド関連蛋白の沈着などが関わるため、免疫抑制剤による治療が試みられてきた経緯があるが、有効性は乏しい。グルココルチコイド、メトトレキサート、シクロスポリン、アザチオプリン、ミコフェノール酸はいずれも効果がなく、これらの薬剤で治療して軽度の自覚症状の改善がみられるケースもあるが、長期的な効果は認められていない。

・TGF-β分子などを標的とした治療がなされているようで、今後のエビデンスの集積が待たれる。

・現状は対症療法が基本である。また、他の炎症性ミオパチーと同様に、歩行能力の改善、転倒予防、関節拘縮の予防などを目的にリハビリテーションは有効である。

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<参考文献>

・Dalakas MC. Inflammatory muscle diseases. N Engl J Med. 2015 Apr 30;372(18):1734-47. doi: 10.1056/NEJMra1402225. PMID: 25923553.

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