腎性貧血 renal anemia

腎性貧血

・慢性腎臓病(CKD)は腎におけるエリスロポエチン(EPO)産生が低下して、貧血が生じることがあり、これを腎性貧血(renal anemia)と呼ぶ。実際的にはEPO低下により、赤血球前駆細胞のアポトーシスが生じ、結果として網状赤血球、赤血球の産生が低下し、貧血が生じる。

・腎性貧血の有病率はCKDステージの進行とともに増え、StageG4あるいはG5の患者では過半数でみられる。

・糸球体濾過量低下がみられ、他の原因(出血や低栄養など)が特定されない場合に、腎性貧血を考慮する。

・腎性貧血を治療する意義は生活の質(QOL)の改善にある。現時点では明らかな腎予後、生命予後の改善効果があるとは断言できない状況にある。ただ、CRA症候群(Cardio-renal-anemia症候群)の予防に寄与する効果はあるかもしれない。

腎性貧血と鉄欠乏

・腎性貧血を想起した場合、貧血の他の原因がないかどうかを考慮することを前提としたうえで、まずは鉄欠乏状態にあるかどうかを確認する。そのための指標としてフェリチン、トランスフェリン飽和度(TSAT: Transferrin saturation)を測定する。

・単一の指標で鉄欠乏状態を判断することはときに困難であり、血清フェリチン、TSATの値を総合的に勘案して判断する。文献により差はあるが、一般的にフェリチン<50ng/mL、TSAT<20%であれば鉄欠乏状態の可能性が高く、鉄剤の投与が推奨される。

・血清フェリチン、TSAT、鉄剤の継続/中止の判断はESAで治療している際には少なくとも3か月ごとに評価をし直すべきである。ただし、出血性病態の合併が想定される場合などではさらに頻繁な確認が検討される。

腎性貧血の診療における推奨

・「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」では腎性貧血に関して以下のような推奨がなされている。

・また、EPO値のルーチンの測定はCKD患者の貧血の診断やマネジメントにおいて推奨されないと、Renal associationにおいて指摘されている(Grade1A)。むしろ、有効な赤血球造血がなされているかの判断は網状赤血球数の測定の方が有用かもしれない。

 <主な推奨事項>

・保存期CKD患者の腎性貧血に対するESA投与時にHb 13g/dL以上を目指さないことを推奨する(Grade 2B)。

・根拠となるエビデンスは不足しているが、目標Hbの下限値は10g/dLを目安と、個々の症例のQOLや背景因子、病態に応じて判断することを提案する(Grade D)。

・貧血を有するCKD患者に対して鉄欠乏状態があれば、鉄剤投与を推奨する(Grade 2B)。

薬物治療

・薬物治療としては赤血球造血刺激因子製剤(以下ESA)低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素阻害薬(以下HIF-PH阻害薬)とがある。

・2024年前半時点でHIF-PH阻害薬はESAに対して安全性、有効性ともに非劣性であるとされている。

ESA

・ESA投与初期段階ではHb値を毎月測定することを検討する。その後、維持期においては非透析患者では少なくとも3ヶ月に1回程度、透析患者では少なくとも毎月の測定を検討する。

・用量の増量については短くても4週間に1回程度を原則とする。ただし、減量はさらに短い頻度で行うことが可能である。Hb値が急激に上昇した場合は必要に応じて25%以上の減量を検討する。目安としては0.5g/dL/週を超えないように改善させるとよい。

・また、前述のようにHb13g/dL以上を目指さないことを原則とする。貧血の改善スピードが大きかったり、Hb13g/dL超に至ってしまったりすることで、死亡率や脳卒中の発症率が上昇することが示唆された研究があるため、これらの注意点が存在する。

・特にESAを使用していてHb高値がみられるケースにおいて、心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中など)、静脈血栓塞栓症などのリスクが懸念される場合がある。

・CKD患者においてESAの使用を開始する際に注意が必要なケースとしては活動性の悪性腫瘍が存在するケース、脳卒中、悪性腫瘍の既往があるケースが指摘されている。

・体重を考慮した用量でESAを1ヶ月間使用した際に、Hb値がベースラインから上昇しないケースをESA低反応性(ESA hyporesponsiveness)という。ESA低反応性のケースでは初回投与量の2倍を超える用量の投与を繰り返すことは推奨されない。

・高血圧症などが副作用として知られている。

HIF-PH阻害薬

・血栓症のリスクが上昇するため、Hb 11g/dL以上を目標にしないことが提案されている。

・ダプロデュスタット(ダーブロック®)などが使用可能。

・副作用として血圧上昇、血栓塞栓症などが知られている。直近3か月以内に心筋梗塞などの血管イベントを経験しているケースなどでは回避することが無難かもしれない。

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<参考文献>

・Mikhail A, Brown C, Williams JA, Mathrani V, Shrivastava R, Evans J, Isaac H, Bhandari S. Renal association clinical practice guideline on Anaemia of Chronic Kidney Disease. BMC Nephrol. 2017 Nov 30;18(1):345. doi: 10.1186/s12882-017-0688-1. PMID: 29191165; PMCID: PMC5709852.

・エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023

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