急性脊髄圧迫 acute spinal cord compression

急性脊髄圧迫の臨床的特徴

・急性脊髄圧迫(Acute spinal cord compression)は主に外傷、腫瘍、硬膜外膿瘍、硬膜外血腫などにより生じる。

・急性脊髄圧迫では四肢の左右対称性の麻痺、尿閉/尿失禁、障害レベル以下の感覚障害などがみられる。

・一般的に錐体路障害では腱反射亢進、Babinski反射が陽性となるが、急性かつ重度の脊髄圧迫の場合(特に外傷性)ではこれらの所見が明らかでないこともある。また、四肢に弛緩性麻痺がみられ、腱反射も減弱/消失し、血圧低下を伴うような病像を呈する場合があり、この状態が脊髄ショック(Spinal shock)と呼ばれる状態といえる。

局所的な頸部痛、背部痛が多くの急性脊髄圧迫でみられる。

・脊髄はL1~2レベルで終わり、それよりも尾側は馬尾にあたる。腰椎の病変などで馬尾の圧迫が生じると、弛緩性麻痺、尿失禁が生じ、しばしば脊髄ショックと類似した病像を呈する。

外傷性脊髄圧迫

 <総論>

・外傷による骨折や骨の後方への偏倚、椎間板ヘルニアの増悪などにより脊髄圧迫を生じることがある。

・脊椎のなかでも特に頸椎は胸郭による支えがないことなどにより、椎体の偏倚に関して脆弱である。また、頭部外傷により頸椎損傷を合併する場合もある。頸椎損傷では四肢麻痺、呼吸不全と重篤な症状を伴い得る。

 <評価>

・外傷性脊髄損傷の重症度の評価については、主にAIS(Association Impairment Scale)による5段階評価を利用することがある。

頸部痛がなく、頸部にも圧痛がみられず、可動域も完全に保たれているケースでは頸椎の不安定性は考えにくく、こういうケースにおいては頸部の画像検査は必須ではない。ただし、意識障害や酩酊状態がない状態での評価であることが重要である。

・外傷性脊髄圧迫を疑う患者では骨折などを評価する目的でまずCT撮像を行う。MRI撮像は椎間板ヘルニア、脊髄の浮腫、出血などを検出するために補完的な検査として有用。また、屈曲/伸展時の頸椎側面X線撮影で、変位がなければ、脊椎が安定していることが示唆される。

 <治療>

・高用量のmPSL静注が良好な結果を示すRCTが存在したが、その後にその結果に関して否定的な結果を示すtrialが複数あったことから、議論の分かれる部分となっている。

・受傷1週間程度は平均動脈圧 85~90mmHg程度を維持するために、必要性があれば循環作動薬を使用することもある。

 <手術>

・外傷性脊髄圧迫は脊柱管から骨片などを除去して、偏倚を矯正すること(除圧)で治療ができる。

・プロスペクティブスタディでは受傷24時間以内に外科的除圧を行った場合、手術がそれよりも遅れた場合よりも6か月後の神経学的予後が良好であったという結果が示されている。

腫瘍性の硬膜外脊髄圧迫

 <総論>

・転移性椎体腫瘍が硬膜外腔へ進展した際に、脊髄圧迫が生じることがある。一般的に背部痛脊椎叩打痛がみられ、これらの所見は神経学的初見がみられるよりも数週間ほど先行して確認され得る

・また疼痛は仰臥位で悪化する傾向にあり、夜間痛となり、就眠に支障が生じることもある。

・頻度が高い悪性腫瘍としては乳がん、前立腺がん、肺がん、非ホジキンリンパ腫、腎細胞癌、骨髄腫が挙げられる。

・圧迫が生じる部位としては胸椎(60%)、腰椎(25%)、頸椎(15%)が挙げられ、胸椎が頻度としては最多である。

 <評価>

・画像評価は可能であればGd造影MRI撮像が選択される(もちろんアレルギーや腎機能障害などがみられる場合は単純撮像で良い)。理想的には脊椎全体の評価を行えると良い。広範な撮像が困難な場合には診察から想定される障害高位の撮像を行う。

 <治療>

放射線治療外科的除圧により、麻痺の緩和と疼痛軽減が可能である。またグルココルチコイド投与も併用することがある。

・脊髄圧迫を伴わない、悪性腫瘍の椎体浸潤では放射線治療のみで対処できる場合もある。

・グルココルチコイドは神経障害、神経痛を軽減するが、最適な投与量についてコンセンサスは得られていない。

・放射線治療は脊髄圧迫の程度、脊椎の安定性など種々の状況を勘案して検討する。また、リンパ腫、骨髄腫、セミノーマは反応性が高い。

硬膜外膿瘍

 <総論>

胸椎レベルで生じることが頻度としては最多。膿瘍は連続する複数の高位にまたがって存在する場合がある。

・主な症状としては発熱、強い背部痛が挙げられる。

糖尿病、担癌状態、免疫抑制状態、腎不全、アルコール多飲などがリスク因子となる。

 <評価>

Gd造影MRI撮像で硬膜外膿瘍が明らかとなることもあるが、小さい感染巣の指摘は困難な場合がある。

膿瘍あるいは血液の培養検査からはS.aureusが検出されることが一般的であるが、そのほかに嫌気性菌なども起因菌となり得る。なお、髄液培養で起因菌が判明することは稀であり、髄液を汚染する可能性もあり、腰椎穿刺は回避した方が良い

・血液検査では通常、白血球増多、CRP上昇、赤沈亢進がみられる。

 <治療>

・あるケースシリーズでは抗菌薬のみによる治療を行うケースよりも、外科的にソースコントロールを行うケースの方がより良好な転機に至ることが示唆されている。

椎弓切除術による除圧は重度の麻痺が生じる前に行うと最も効果的とされる。

・抗菌薬治療は同定された(あるいは推定される)起因菌に基づいて決定する。投与期間などにコンセンサスは得られていない。

硬膜外血腫

・主な自覚症状としては強い背部痛、神経痛、麻痺などが挙げられる。

外傷性脊髄損傷において硬膜外血腫はしばしば合併する。しかし、抗凝固薬や抗血小板薬を投与されているケースでは明らかな外傷などがなくても発症することもある。

・脊髄圧迫を伴う場合には外科的な血腫除去術を検討する。

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<参考文献>

・Ropper AE, Ropper AH. Acute Spinal Cord Compression. N Engl J Med. 2017 Apr 6;376(14):1358-1369. doi: 10.1056/NEJMra1516539. PMID: 28379788.

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