内頸動脈解離/椎骨動脈解離 cervical artery dissection
頸動脈解離とその疫学/病態生理
・頸動脈解離(cervical artery dissection)には主に内頸動脈または椎骨動脈における解離が含まれる。
・主に50歳未満での脳卒中の原因となり得る疾患。
・年間発症率は10万人あたり2.6人程度という報告もある。
・どちらかといえば女性に多い疾患で、57%程度を占める。
・季節性も指摘されることがあり、冬季に発症しやすい。
・動脈壁は内膜、中膜、外膜の3層構造で成るが、内膜の裂け目に偽腔が形成され、そこに血液が流入することで生じるという病態生理が想定されている。一般的に虚血性脳卒中を誘発することが多い。
・約30~40%の症例で、発症前に何らかの機械的ストレスが加わっていると考えられている。交通事故のような大きな要因も影響するが、重いものを持ったり、頭を急に動かしたり、咳をしたりといった軽微な機序でも発症に関連することがあると言われている。
発症の素因/リスク因子
・先天性の結合組織に影響を伴う疾患は頸動脈解離のリスク因子となり、具体的にはMarfan症候群、Ehlers-Danlos症候群などが挙げられる。
・線維筋性異形成もリスク因子とされている。線維筋性異形成は動脈壁の肥厚による狭窄を特徴とする非動脈硬化性の血管疾患で、主に50歳未満の女性に好発する。
・また直近の感染症による炎症由来の血管壁の脆弱化も関係している可能性を示唆する報告もある。
・そのほか片頭痛は軽動脈解離と関連する。5つの症例対照研究(n=630)のメタアナリシスでは片頭痛の発症が頚動脈解離のリスクを2倍に高めるということが示された。
臨床症状
・臨床症状は責任血管などにより異なり、例えば失神や単眼性視力低下などは内頸動脈の解離を疑わせる。
・頭痛は主な特徴で、66~71%のケースでみられる。一般的には前頭部や側頭部の頭痛は内頸動脈解離で、後頭部や後頚部の頭痛は椎骨動脈解離でそれぞれ認められやすい。
・典型的には頭痛が突然発症で出現し、疼痛は片側性(解離側と同側)で、数日間以上持続する。ときに片頭痛や群発頭痛と誤解される場合がある。
・診断には頭痛と神経症状の発現との関連性が重要である。なお、頭痛は脳卒中とほぼ同時に起こることもあるが、数時間から数日程度、頭痛が先行して出現する場合もある。
・あるコホート研究では内頸動脈解離の38%、椎骨動脈解離の13%においてそれぞれHorner症候群が認められたと報告されている。交感神経線維は内頸動脈に沿って走行するため、眼瞼下垂、縮瞳といったHorner症候群の所見は内頸動脈解離でよりみられやすい。ただし、顔面の汗腺を支配する神経線維は外頸動脈に沿って走行するため、顔面の発汗低下の所見は通常みられないのが特徴とされる。なお、椎骨動脈解離におけるHorner症候群の発症機序は異なり、脳幹における交感神経線維の虚血により生じていると考えられている。
・また耳鳴(ときに拍動性の耳鳴と表現される)は約11%でみられ、内頸動脈解離でよりみられやすい。
検査所見
・一般的にCTAやMRAによる画像診断が一般的である。両者は同程度の診断精度とされている。
・頸部の超音波検査は安価で侵襲性が低い検査で、スクリーニングとして有用かもしれない。動脈の外径の拡大、内膜Flapなどが描出されることがある。ただし、偽陰性のリスクは低いとはいえず、検者の技量にも影響される点には留意する必要がある。
・MRI撮像の意義は主に脳梗塞の有無とその領域の評価ができること、T1WIで血管壁内の血腫の評価(高信号)ができることなどが挙げられる。ただし、血腫を示唆する高信号は発症72時間以内では認められないこともある。
マネジメント
・マネジメントの目的は脳卒中の発症、神経学的後遺症を予防することなどにある。
・内科的治療としては抗血栓薬が基本となる。内科的治療が選択できない、あるいは無効なケースでは血管内ステント留置術が選択される場合がある。
・発症初期は適応があれば血栓溶解療法を行う場合もある。もちろん理論的には血栓溶解療法は出血を助長させたり、頸動脈解離における血行動態を悪化させたりする可能性がある。しかし、現在ではいくつかの大規模な観察研究において、頸動脈解離に関連する虚血性脳卒中に血栓溶解療法を使用することは必ずしも危険とはいえないということが示唆されつつあるようである。
・解離で傷害された血管壁はその後の血栓塞栓症の発症のリスクとなる。脳卒中の再発予防を目的に、抗血小板薬と抗凝固薬のいずれが適切かという点には議論がある。2010年の内頸動脈解離に関するCochrane reviewでもいずれかの薬剤の優位性を示せなかった。
・また抗血栓薬による治療期間も議論のある部分である。2017年に示されたEuropean Stroke Organisationによるコンセンサスステートメントでは解離を起こした動脈が再開通していて、かつ症状の再燃がないケースでは6~12ヶ月の治療を推奨している。同時に、動脈瘤や狭窄が残存するケースではそれよりも長期の治療が推奨された。2021年のAmerican Stroke Associationでは3~6ヶ月の治療が妥当と示していて、一定の見解は得られていないようである。
・DOAC(Direct oral anticoagulant)については研究データが一部限られている。頸動脈解離149例を対象としたレトロスペクティブ研究ではDOAC(26%)、ワルファリンor低分子ヘパリン(47%)、抗血小板薬(27%)を比較し、結果、脳卒中の再発率は同程度と報告された。ただし、出血性合併症はDOACにおいてより低い結果であった。
・血管内治療としては血管内ステント留置術を選択する場合がある。European Stroke OrganisationとAmerican Stroke Associationのガイドラインでは内科的治療を行ったうえで、虚血イベントが再発するケースでは血管内治療を行うことが推奨されている。
・発症後、数週間から数ヶ月程度は激しい運動などは回避することが無難と思われる。
頭蓋内と頭蓋外とにおける頸動脈解離
・頭蓋内における動脈解離の場合、頭蓋外における頸動脈解離よりもくも膜下出血(SAH)
を合併する割合が高い。
・頭蓋内における動脈解離でSAHを合併したケースでは最大40%で、発症後数日以内に再出血を起こすという報告もある。
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<参考文献>
・Keser Z, Chiang CC, Benson JC, Pezzini A, Lanzino G. Cervical Artery Dissections: Etiopathogenesis and Management. Vasc Health Risk Manag. 2022 Sep 2;18:685-700. doi: 10.2147/VHRM.S362844. PMID: 36082197; PMCID: PMC9447449.
・Clark M, Unnam S, Ghosh S. A review of carotid and vertebral artery dissection. Br J Hosp Med (Lond). 2022 Apr 2;83(4):1-11. doi: 10.12968/hmed.2021.0421. Epub 2022 Apr 23. PMID: 35506728.