入院患者における上部消化管出血の予防

上部消化管出血の病態生理

・胃粘膜ではプロスタグランジン、一酸化窒素(NO)が胃粘膜上皮を保護する粘液層の維持に役立っている。

・重篤な患者では炎症などによる微小循環障害が虚血、胃内pHの低下が誘発され、胃粘膜バリアが破綻することで、消化管出血が起こしやすくなる。

ICU患者における上部消化管出血のリスク因子

・ICUに入院する患者における臨床的に重要な上部消化管出血の予測因子については複数の研究がなされている。

・ある大規模他施設研究では48時間以上の侵襲的換気(出血に関するOdds比: 15.6(95%CI: 3.0~80.1))、凝固障害(Odd比: 4.5(95%CI: 1.8~10.3))という2つの独立したリスク因子が示された。

・また、別の大規模他施設研究では多疾患併存状態(Odd比: 9(95%CI: 2.7~28.8))、肝疾患(Odd比: 7.6(95%CI: 3.3~17.6))、腎代替療法(Odd比: 6.9(95%CI: 2.7~17.5))、急性凝固障害(Odd比: 1.4(95%CI: 1.2~1.5))などがリスク因子として示されたが、交絡因子の影響は除外しきれない。

非重症/入院患者における上部消化管出血のリスク因子

・非重症な入院患者における上部消化管出血の発生率はICU入院患者と比べるとはるかに低く、17,707人の内科患者を対象とした4年間の観察では出血率は0.4%であった。

・急性腎障害で入院していた514人の患者を対象とした研究では40人(7.8%)に臨床的に重要な出血がみられた。

・内科病棟および外科病棟における入院患者を対象とした研究は数が限られていて、リスクの予測因子は様々である。たとえば急性腎障害患者に焦点を当てた研究では重度の全身性疾患重度の腎機能障害重症の血小板減少、肝硬変が出血リスクと関連していたと報告している。

・また一般内科の入院患者17.707人の患者では出血の主なリスク因子は抗凝固療法クロピドグレルの使用であった。

・75,723人の入院患者を対象とした研究では明らかな出血の独立したリスク因子として、60歳以上、男性、肝疾患、急性腎不全、敗血症、予防的抗凝固療法、凝固障害などが挙げられた。

ICU患者における上部消化管出血の予防

 <メリット>

・ネットワークメタアナリシスにより、PPIが出血リスクを減少させることが示されている。なお、PPI vs H2RA(出血に関するOdd比: 0.4(95%CI: 0.2~0.7))、PPI vs プラセボ(Odd比: 0.2(95%CI: 0.1~0.6))、PPI vs スクラルファート(Odd比: 0.3(95%CI: 0.1~0.7))という結果であった。

 <デメリット>

・酸分泌抑制薬による予防が院内感染症を増やす懸念がある。

・ネットワークメタアナリシスではPPIまたはH2RAによる肺炎の増加について中等度の質のエビデンスが得られている。しかし、信頼区間の間隔は広く、統計学的有意差は示されなかった。

・PPIの使用に焦点を当てた2件の小規模RCTではCDI(CD腸炎)の発生について研究しているが、サンプル数が少なく、結果は参考所見に留まる(感染症発症に関するRelative risk: 2.2(95%CI: 0.3~15.0))。ICUに入院する408人の患者を対象にした研究ではCDIの特立した予測因子としてPPIへの曝露期間が長いこと(Odd比: 2.0(95%CI: 1.2~3.4))、抗菌薬の使用(Odd比: 2.5(95%CI: 1.2~5.2))が挙げられた。

非重症/入院患者における上部消化管出血の予防

 <メリット>

DAPT(Dual Anti-Platelet Therapy)ではPPIの使用により消化管出血のリスクが減少することが示されている。

・内科および外科病棟の入院患者におけるストレス潰瘍の予防を評価したRCTは少ない

・シメチジン(H2RA)またはスクラルファートによる治療に無作為に割り付けられた139人の患者を含むtrialでは臨床的に重要な出血はスクラルファート投与群の3%でみられたが、シメチジン投与群の患者では生じなかった。また、37,966人の入院患者を対象とした研究ではPPIは臨床的に重要な出血のリスクを減少させられた(Odd比: 0.58(95%CI: 0.37~0.91))。

 <デメリット>

・胃酸分泌抑制薬の使用により院内肺炎の増加に関連することが示されている。PPIの使用はリスク増加に関して統計学的有意差が示され(Odd比: 1.3(95%CI: 1.1~1.4))、一方でH2RAでは有意差が示されなかった(Odd比: 1.2(95%CI: 0.98~1.4))。

・また10,307例の院内CDI発症に関するReviewでは内科および外科病棟の入院患者においてPPIがリスク因子となることが示された(Odd比: 1.8(95%CI: 1.5~2.1))。また感染の再発とも関連していた(調整Odd比: 1.5(95%CI: 1.2~1.9))。

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<参考文献>

・Cook D, Guyatt G. Prophylaxis against Upper Gastrointestinal Bleeding in Hospitalized Patients. N Engl J Med. 2018 Jun 28;378(26):2506-2516. doi: 10.1056/NEJMra1605507. PMID: 29949497.

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