脊髄梗塞 spinal cord infarction

脊髄梗塞とその疫学

・脊髄梗塞(spinal cord infarction)とは血管の閉塞や血流低下などにより生じる脊髄の虚血性壊死を指す。特に脊髄腹側の梗塞を前脊髄動脈症候群といい、脊髄背側の梗塞を後脊髄動脈症候群という。疫学的にはほとんどが前脊髄動脈症候群で占められる。

60~70歳に好発する。

原因を特定できないケースが20~40%存在する。

臨床症状/所見

・前脊髄動脈が閉塞すると突発完成の背部痛が生じる。

・また、脊髄前角/側索/脊髄視床路が障害されることで下肢の対麻痺や、障害レベル以下の解離性感覚障害、膀胱直腸障害などが生じ得る。

・ときに背部痛が生じてから、四肢麻痺あるいは対麻痺が数分~数時間程度で完成する場合もある。

・典型的には突発~急性発症の下肢の対麻痺がみられるが、片麻痺場合もある。患者の最大33%で片側性の症状であったという報告もある。神経所見が理論的に説明しがたい状況であっても安易に否定しないことが重要かもしれない。

血管解剖

・脊髄は主に1本の前脊髄動脈2本の後脊髄動脈とで栄養されている。

・脊髄の腹側2/3を前脊髄動脈が、背側1/3を後脊髄動脈がそれぞれ栄養している。

・前脊髄動脈は前正中裂に沿って縦走し、その穿通枝を介して脊髄の腹側2/3を栄養する。後脊髄動脈脊髄の背側両外側に存在して、脊髄後索を栄養する

頸髄~上部胸髄(C1~Th3)椎骨動脈から、下部胸髄~腰髄肋間動脈、腰動脈(←いずれも大動脈より分枝)から、脊髄円錐部内腸骨動脈からそれぞれ栄養されている。

・胸腰部での1本の脊髄根動脈は特にAdamkiewicz動脈と呼ばれ、脊髄の尾側1/3を栄養する血管で、典型的には第7肋間~第2腰動脈のいずれか1本から分枝する。また、左側から起始することの方が多いとされている。

胸髄は特に虚血に対して脆弱であり、下位胸髄(Th10付近)が好発部位である。諸説あるが、胸椎は他の部位と比較して成長度合いが大きく、中心溝動脈の密度が低い(Critical zone)ため、虚血に弱いとされているようである。

主な原因

大動脈解離の合併症として生じることがある。

胸部大動脈瘤の手術の合併症、塞栓性の病態(感染性心内膜炎、心房細動など)、血管炎(梅毒、全身性血管炎(PANなど)、PACNSなど)、脊髄動静脈奇形/脊髄硬膜動静脈瘻、血液凝固亢進状態(悪性腫瘍、抗リン脂質抗体症候群など)などが他に原因として挙げられる。

・手術の合併症として生じる場合、術中に生じるケースが約50%で、残りの約50%は術後12~48時間後に生じやすい。

画像所見

・急性期には浮腫を伴い、脊髄が腫大する。脊髄MRI撮像を行うと、髄内の血管支配領域にほぼ一致してT2WI、DWIで高信号を呈し、ADCmapで低信号がみられることが典型である。

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<参考文献>

・Vuong SM, Jeong WJ, Morales H, Abruzzo TA. Vascular Diseases of the Spinal Cord: Infarction, Hemorrhage, and Venous Congestive Myelopathy. Semin Ultrasound CT MR. 2016 Oct;37(5):466-81. doi: 10.1053/j.sult.2016.05.008. Epub 2016 May 6. PMID: 27616317.

・Kramer CL. Vascular Disorders of the Spinal Cord. Continuum (Minneap Minn). 2018 Apr;24(2, Spinal Cord Disorders):407-426. doi: 10.1212/CON.0000000000000595. PMID: 29613893.

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