可逆性脳血管攣縮症候群 RCVS
RCVSとその疫学/誘因
・可逆性脳血管攣縮症候群(以下RCVS: Reversible cerebral vasoconstriction syndrome)は雷鳴頭痛を繰り返し、ときに痙攣や神経学的脱落所見を伴い、可逆性の分節状の脳血管攣縮を認める疾患である。
・性行為や労作、Valsalva手技、感情などが誘引となり、典型的には1~2週間にわたって雷鳴頭痛を繰り返す。
・雷鳴頭痛(thunderclap headache)の原疾患としては最多で、くも膜下出血とほぼ同頻度とする報告もある。なお、雷鳴頭痛は一般的に出現60秒以内にピークに達する激しい頭痛と定義される。
・あらゆる年齢に生じ得るが、特に20~50歳代(平均42~45歳)に好発する。また女性に多いとされる。
・RCVSは誘因がみられず自然発生するケースもあるが、特定の誘因をもとに二次性に発症するケースが25~60%を占める。誘因としては入浴、ストレス、性行為、体位変換、労作、咳嗽、Valsalva手技などが知られる。
・RCVSでは片頭痛の既往を有するケースが20~40%でみられることが知られている。これは片頭痛治療薬がRCVSを惹起し得るという点に関係していると思われる。
病態生理
・RCVSの明らかな病態生理は依然として不明である。一説ではRCVSの発症には交感神経過興奮が関係するとされている。
・またRCVSはPRESを合併するケースもみられることから、血管内皮細胞の障害が関係しているとする仮説もある。
診断基準
・2012年にDucrosらが提案した診断基準が存在するため、以下に示す。ただし、前向き研究での検証はなされていない。
- 神経学的徴候や症状を伴う、または伴わない重度の急性の頭痛
- 発症1か月後に新たな症状が出現しない単相性の経過
- 動脈瘤性のくも膜下出血を示す所見がない
- 髄液検査所見が正常かそれに近いこと(蛋白<80mg/dL、白血球<10/mm3、ブドウ糖:正常)
- 血管造影またはCTA/MRAで直接的または間接的に示された分節性の脳血管攣縮所見の存在
- 発症12週間以内に血管造影所見が直接的または間接的に完全に、あるいは実質的に正常化すること
臨床症状/所見
・雷鳴頭痛はRCVSの特徴的な症状で、94~100%で確認可能で、雷鳴頭痛が唯一の症状であるケースが70~76%程度存在するとされている。
・頭痛の持続時間には幅があり、数分以内におさまることもあるが、典型的には3時間以内におさまる。
・雷鳴頭痛のほかに、悪心/嘔吐、複視、血圧上昇、光/音過敏などの症状がみられる場合もある。
・片頭痛を併存する患者においても「いつもの片頭痛の頭痛」とは異なるという風に説明される場合もあり、Red flag signとしても有名なように”平時と異なる頭痛”は警戒度を上げる重要な情報ということが示唆される。
・高血圧がみられる場合が多いが、頭痛に伴う反応なのか、脳血管攣縮による反応なのかは不明。
検査
・血液検査では白血球数などは基準値内か、上昇していても軽度に留まる。また炎症反応を含めて、特に異常所見がみられないことが典型である。
・髄液検査でも異常所見が一般的に認められない。
・一般的にはMRAやCTAなどにより、脳血管攣縮所見(string and beads appearance)を指摘することが診断に役立つ。
・MRAなどの検査で脳血管攣縮が明らかとなるのは発症から1週間以上経過してからであることが多いとされている。実際、RCVS患者の最大1/3では症状発現1週間で脳血管攣縮所見は描出されないという報告がある。脳血管攣縮の消失には数週間から数ヶ月を要するケースもあり、症状が消失した後も攣縮所見が確認される場合もある。
合併症
・神経学的脱落所見(視覚障害、片麻痺、構音障害など)、痙攣、脳出血/くも膜下出血(円蓋部に多い)、脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)、可逆性後頭葉白質脳症(PRES)などを合併することがある。なお、PRESについての詳細の記載は割愛するが、一般的に頭部MRI撮像では後頭葉を中心にT2WI、FLAIR像で高信号領域として捉えられる。
・脳梗塞は典型的には大脳半球の分水嶺領域に生じやすい。
・ときに頸動脈解離を伴う場合があり、頸部痛を伴うケースでは念頭に置いて対応する。
・RCVSでは全身性の痙攣を伴う場合はあるが、痙攣が持続することは稀であり、一般的に長期の抗てんかん薬による管理は不要である。
・出血性合併症は発症1週間以内に生じることが多い。なお、TIAや脳梗塞などの虚血性合併症は出血性合併症よりも平均8日間程度遅延して生じやすい。
治療
・RCVSに対する治療の多くは後方視的研究によって提案されていて、質の高いRCTなどにより定められたものでない。
・一般的に推奨される治療法としては、想定される誘因の回避して安静にする、鎮静薬による疼痛軽減、血圧管理、発作予防のための治療が挙げられる。
・ベラパミル、ロメリジンなどのカルシウム拮抗薬が投与されることで、頭痛を含む症状緩和に役立つことが前方視的/後方視的研究で示されている。また、カルシウム拮抗薬の投与は4~12週間程度続けることもある。ただし、カルシウム拮抗薬の使用が脳卒中を含む各種合併症に有効であるとは示されていない。
・RCVSに対するステロイド治療は予後を悪化させる可能性が示唆されている。
予後
・ほとんどのRCVS患者の予後は良好とされ、通常はSelf-limitedな経過をたどる。典型的には発症3~4週間以内には症状は消失する。再発も稀である。
・ただし、産褥期に発症するRCVSは多領域にわたる脳梗塞、頭蓋内出血などの予後不良な経過をたどるケースも一部存在することが示されていて、注意が必要である。
中枢神経原発血管炎(PACNS)について
・RCVSの鑑別疾患は複数あるが、そのうちの一つとして中枢神経原発血管炎(PACNS: primary angiitis of the central nervous system)が挙げられる。
・PACNSはRCVSと異なり、ステロイド治療などを早期に開始しなければ、しばしば劇症化するため、鑑別が重要である。
・性差などを含めて、RCVSとPACNSは病像が異なる部分があることに留意する。RCVSは典型的には若年から中年の女性に好発するのに対して、PACNSは高齢の男性に後発する。また髄液検査も鑑別に有用でRCVSでは髄液検査で異常所見はみられないが、PACNSでは細胞数、蛋白数の増多が80~90%でみられる。また、PACNSはMRIで異常所見がみられる頻度が高い。
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<参考文献>
・Miller TR, Shivashankar R, Mossa-Basha M, Gandhi D. Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome, Part 1: Epidemiology, Pathogenesis, and Clinical Course. AJNR Am J Neuroradiol. 2015 Aug;36(8):1392-9. doi: 10.3174/ajnr.A4214. Epub 2015 Jan 15. PMID: 25593203; PMCID: PMC7964694.
・Miller TR, Shivashankar R, Mossa-Basha M, Gandhi D. Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome, Part 2: Diagnostic Work-Up, Imaging Evaluation, and Differential Diagnosis. AJNR Am J Neuroradiol. 2015 Sep;36(9):1580-8. doi: 10.3174/ajnr.A4215. Epub 2015 Jan 22. PMID: 25614476; PMCID: PMC7968777.