喫煙の影響と禁煙治療 no smoking
喫煙が健康に与える影響
・喫煙は様々な臓器に悪影響を及ぼし、予防可能な死亡原因の第一位に据えられている。喫煙に関連した疾患により20世紀には1億人の命が失われたと推定されている。
・厚生労働省の2022年国民生活基礎調査によると、喫煙率は男性で25.4%、女性で7.7%とされていて、経時的に減少傾向に至っている。
・年代別にみると、男性は40代が34.6%と最も高く、50代、30代と続く。女性では50代の12.0%が最も高く、40代、30代と続く。
・数ある施策のなかでタバコ関連疾病予防に有効とされているのはタバコ税を上げること、公共空間において禁煙化を進めることとされている。
・また、たとえば禁煙外来などにおいて医師が患者の禁煙を支援する際のアプローチ法としては「5Aアプローチ」が知られている。
5Aアプローチ
・禁煙の支援を進めるにあたってのアプローチ法として「5A アプローチ」が知られていて、その名のとおり、5つのステップから成る。
・ステップ1(Ask)では全ての外来において喫煙をしているかどうかを確認する。
・ステップ2(Advise)では全ての喫煙者に対して禁煙を明確に勧奨する。
・ステップ3(Assess)では喫煙者の禁煙に関する意欲やモチベーションなどを把握する。
・ステップ4(Assist)では禁煙に関する意欲のある患者に対して、禁煙治療に関する情報提供を行い、支援をする。
・ステップ5(Arrange)では次の外来予約を取得して、必要に応じて専門医療機関への紹介なども検討する。
・適宜、行動変容のステージモデルも参照することも有用で、ステージごとで介入の実際が異なる場合がある。
禁煙治療と保険診療
・禁煙治療は一定の基準を満たした喫煙者に対して行われ、12週間に5回の治療で保険診療の適応となる。なお、受診時期は初回診療、2週間後、4週間後、8週間後、12週間後となる。
・2020年度からは加熱式たばこを利用している患者も禁煙治療の対象として認められている。
・いわゆる、かかりつけ患者の場合は初回から最終回(5回目)の診療までの全ての外来をオンライン診療で行うことも認められている。
・ニコチン依存症治療用アプリ及びCOチェッカーが新たに保険適用となっている。2024年06月時点ではチャンピックス®を利用しているケースにおいて、アプリの保険適用が認められている。
・禁煙補助薬(薬物治療)とカウンセリングの併用は、どちらか一方のみを行う場合よりも効果的であり、可能であれば両方を行うべきとされている。また、患者に呼吸機能検査の結果を知ってもらうことで、12か月後の禁煙率が上昇する可能性もあるかもしれない。
・禁煙の初回保険算定日から1年を超えた日からでなければ、再度保険算定をすることはできないことなっている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<禁煙治療を保険診療で行えるケース>
以下の要件をすべて満たした方は12週間に5回の禁煙治療に健康保険が適用される。
- ニコチン依存症に係るスクリーニングテスト(TDS)で5点以上、ニコチン依存症と診断された方。
- 35歳以上の場合、ブリンクマン指数が200以上の方。
- 直ちに禁煙することを希望されている方。
- 「禁煙治療のための標準手順書」に則った禁煙治療について説明を受け、当該治療を受けることを文書により同意された方。
禁煙補助薬
・国内で承認されている禁煙補助薬としてはニコチネル®TTS(貼付製剤)、チャンピックス®(バレニクリン)がある。
<ニコチネル®TTS>
・経皮的にニコチンを吸収させ、禁煙を促す効果が期待される。
・1日1回の貼付製剤。主に上腕部や腹部、腰背部に貼付するが、ときに皮膚刺激がみられる場合もあり、可能であれば同一部位への連続した貼付は避けたほうが無難かもしれない。
・主な用法としては、はじめにニコチネルTTS30(ニコチン含有量:52.5mg)を4週間、次にニコチネルTTS20(含有量:35mg)を2週間、次にニコチネルTTS10(含有量:17.5mg)を2週間、1日1回貼付する。
・副作用として不眠などが生じる場合もある。またニコチンを含むため心疾患の患者には注意で、不安定狭心症や心筋梗塞後3か月以内の方や脳血管障害発症初期の方などでは禁忌とされている。
<チャンピックス®>
・ニコチンそのものは含有していないものの、脳内のニコチン受容体を刺激させ、少量のドパミン放出を促すことで喫煙時に似た爽快感を誘発させる効果が期待される。
・はじめの1週間は喫煙しながら内服が許され、喫煙に対する欲求を徐々に緩和させていける効果が期待されている。
・まずは禁煙開始日を定め、その1週間前から服用を開始する。内服1~3日目は0.5mg錠を1日1回食後、4~7日目は0.5mg錠を1日2回朝夕食後に内服する。8~84日目は1mg錠を1日2回朝夕食後に内服することとなる。
・なお、禁煙に成功した場合は12週間の追加投与(1mg錠 1日2回朝夕食後)が認められている。
・悪心、不眠、悪夢などの副作用が指摘されている。チャンピックスを服用する場合は自動車の運転などは行わないように説明することが重要。運転などを行う場合はチャンピックスでなく、ニコチネルTTSの方を優先的に選択するべき。
・精神疾患の病状悪化を招く場合があるとされている。以前、FDA(米国食品医薬品局)が警告をしていたが、その後の臨床試験で因果関係は明らかでないとし、警告自体は解除されている。
・腎機能用量が定められていて、腎機能障害のある場合は用量調節を要する。
ニコチンガム
・OTC製剤としてニコチンガム(商品名:ニコレット)が発売されている。
・主にニコチン依存症の離脱症状(易怒性、集中力低下など)を緩和する目的でも使用される。なお、離脱症状のピークは禁煙2~3日後とされる。
・また喫煙への強い欲求(Cravingともいう)が生じた際に頓用で使用することも有効な場合がある。
・ガムを噛む際にはゆっくりと30~60分間程度かけて噛むようにする。頬と歯肉の間にしばらく挟んでおくという使い方もあるようである。
・1日の総使用量は24個を超えないようにし、通常は1日4~12個程度から始めて漸減させる。使用期間は3か月間までとする。
―――――――――――――――――――――――――――――――
<参考文献>
・Hays JT, McFadden DD, Ebbert JO. Pharmacologic agents for tobacco dependence treatment: 2011 update. Curr Atheroscler Rep. 2012 Feb;14(1):85-92. doi: 10.1007/s11883-011-0211-2. PMID: 22002681.
・Barboza JL, Patel R, Patel P, Hudmon KS. An update on the pharmacotherapeutic interventions for smoking cessation. Expert Opin Pharmacother. 2016 Aug;17(11):1483-96. doi: 10.1080/14656566.2016.1197203. Epub 2016 Jun 20. PMID: 27267498.