急性心筋炎 acute myocarditis
心筋炎の分類
・心筋炎とは心筋を主座とした炎症性疾患で、様々な病態を含む概念で、感染症、薬物曝露、免疫系の賦活などが関連して生じることがある。なお、心膜にまで炎症が波及すると心膜心筋炎と呼ばれる。
・心筋炎には急性心筋炎のほかに、慢性心筋炎をはじめとした病型が存在するが、主に急性心筋炎についてまとめる。なお、急性心筋炎のなかには急激な経過で血行動態の破綻をきたし、致死的な転帰を辿り得るものがあり、特に劇症型心筋炎と呼ばれる。
・急性心筋炎の多くはウイルスなどの感染症を契機に発症し、主に発症から30日未満の心筋炎を急性心筋炎という。
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急性心筋炎の疫学/原因
・ある報告では10万人あたりの心筋炎の有病率は35~39歳において男性では約6人、女性では約4人とされている。発症時の年齢の中央値は30~45歳程度ともされている。
・心筋炎の原因としてはウイルス感染、リウマチ性疾患(SLEなど)、薬剤性(免疫チェックポイント阻害薬など)、ワクチンなどが挙げられる。なかでも主な原因はウイルス感染で、患者の18~80%で感冒症状、消化器症状などの前駆症状を伴うとされている。また、発展途上国においてはシャーガス病、デング熱などによる急性心筋炎もみられる。
自覚症状
・前述のように感冒症状などの前駆症状がみられることがある。
・成人の急性心筋炎患者でみられる主な症状としては胸痛(82~95%)、呼吸困難(19~49%)、失神(5~7%)などが挙げられる。
身体所見
・軽症の急性心筋炎では身体所見が乏しいこともある。
・不整脈を示唆するような脈拍異常の有無を確認する。
・皮疹がみられる場合はライム病による心筋炎や、好酸球性心筋炎、サルコイドーシスによる心筋炎の可能性も想定する。
・免疫チェックポイント阻害薬に関連する心筋炎では複視がみられることもある。
・心不全徴候(内頚静脈の拍動高の上昇など)を確認し、末梢環流が保たれているかどうかも確認する。
検査
・典型的には血清トロポニン、CRPなどが上昇する。特に高感度トロポニンは64~100%で上昇がみられる。CRPは54~99%で上昇がみられたという報告がある。
・心電図検査における異常所見は62~96%でみられ、主にST-T segmentの変化が典型である。58~70%でST上昇がみられる。
・心エコー検査では壁運動異常(典型的には下壁、側壁)がみられることがある。ただし、発症初期ではLVEFは約75%のケースで保たれているとされていて、その後、経時的に低下するケースもあるため、慎重な解釈が必要。なお、LVEFの低下がみられず、心伝導異常を伴う心筋炎ではライム病、サルコイドーシス、免疫チェックポイント阻害薬による心筋炎である可能性が想定される。
・確定診断には心内膜心筋生検(EMB: endomyocardial biopsy)や心臓MRI(CMI: cardiovascular MRI)が主に用いられる。
・EMBは必須ということはないが、特に心室性不整脈、Ⅱ度/Ⅲ度房室ブロック、内科的治療に抵抗性のあるケース、心原性ショックを伴うケースでは診断を確定させ、かつ巨細胞性心筋炎などの高リスクな組織型を除外するためにEMBをより積極的に検討する場合がある。
治療
・治療は臨床経過、重症度、病因などにより総合的に決定される。
・NSAIDsは使用が検討される。ただし、NSAIDs投与により炎症性の心筋障害とLVEF変化を軽減させるというエビデンスはみられていない。
・β遮断薬も使用されることがあり、心臓死リスクを軽減させる可能性が示唆されている。
・心室性不整脈、Ⅱ度/Ⅲ度房室ブロックなどを伴う急性心筋炎ではペースメーカー、抗不整脈薬、除細動が必要になる場合もある。
・LVEFが低下し、血行動態が保たれているケースではARNIやβ遮断薬をはじめとした心保護薬の治療も検討される。
・ステロイド投与による治療に関しては見解が一定していない。一部、急性心筋炎に対するステロイドを含む免疫抑制治療が有効性を示唆した研究は存在するが、少なくとも質の高いエビデンスは乏しい。ただし、巨細胞性心筋炎やサルコイドーシスによる急性心筋炎や好酸球性心筋炎の場合はステロイド治療が行われることがある。
予後
・合併症を伴わない急性心筋炎に関しては院内死亡率はおおむね0%とされている。しかし、合併症を伴う急性心筋炎を含めると、急性心筋炎による死亡率は約1~7%といわれている。
・また19~90か月の追跡期間内に、心筋炎の再発や心室性不整脈が約3~9%で発生する。
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<参考文献>
・Ammirati E, Moslehi JJ. Diagnosis and Treatment of Acute Myocarditis: A Review. JAMA. 2023 Apr 4;329(13):1098-1113. doi: 10.1001/jama.2023.3371. PMID: 37014337.
・2023年改訂版 心筋炎の診断・治療に関するガイドライン