ショック shock
ショックとは
・ショックの定は文献により表現は様々であるが、主に酸素の需要供給におけるバランスが崩れ、末梢組織が低酸素状態に至っていることを指す。
・血圧低下はショックの概念において必須なものでなく、あくまで末梢の酸素供給が乏しい状況を反映する。
・詳細な数値、計算式は割愛するが、酸素供給量(DO2: Delivery O2)は原則として①前負荷(循環血液量) ②後負荷(末梢血管抵抗(SVR)) ③心筋収縮特性 ④心拍数(HR) ⑤ヘモグロビン(Hb) ⑦動脈血酸素飽和度(PaO2) で規定される。
・ショックの前兆としては頻脈や脈圧低下が知られている。
ショックの分類
・ショックは主に①血液分布異常性ショック ②循環血液量減少性ショック ③心原性ショック ④閉塞性ショック の4つに大別され、頻度としては①と②とで大多数を占める。また、ときに輸液を制限する必要があるのは③と④である。
・血液分布異常性ショックの原因としては敗血症性ショック(最多)、神経原性ショック、アナフィラキシーショック、副腎不全、肝不全、脚気などが存在する。
・循環血液量減少性ショックの原因としては外傷、消化管出血、凝固障害、薬剤性(抗血小板薬、抗凝固薬)、肺胞出血、下痢/嘔吐などが挙げられる。
・心原性ショックの原因としては心筋梗塞、心筋炎、急性心不全、心筋症、不整脈(房室ブロックなど)、心タンポナーデ、弁膜症などが挙げられる。
・閉塞性ショックの原因としては肺塞栓症、脂肪塞栓症、緊張性気胸などが挙げられる。
・敗血症性ショックは血清乳酸値>2mmol/Lで、平均血圧(MAP)≧65mmHgを維持するのに昇圧薬を必要とする状態を指す。
・神経原性ショックでは心臓および血管平滑筋における交感神経と副交感神経の調節の不具合により生じ、典型的にはsBP<100mmHgで、かつ徐脈(HR<60bpm)のようなバイタルサインがみられる。また、脊髄反射が消失することもある。
診察/マネジメント
・3 windows of bodyという考え方がある。これはつまり、組織低灌流の所見として①腎臓 ②脳 ③皮膚 に着目するべきという概念である。
・腎臓への灌流が低下すると尿量減少が生じる。一般的に0.5mL/kg/hr以上の尿量を保つことが指標とされる。
・脳への灌流が低下すると意識障害が生じる。経時的な意識レベルの改善は灌流の改善を反映する場合もあり、適切に評価を行えることが重要。
・皮膚への灌流が低下することで末梢冷感やLibedo recomosa(網状皮斑)が生じる。またCRT(capillary refill time)が延長することも知られていて、敗血症性ショックに関するガイドラインでもCRTを指標にすることは推奨されている。
・ABCの確保を優先することを前提としたうえで、ショックに関する初期対応では超音波検査を用いたRUSHが有効とされている。
・ショックの可能性を認識した際には可能であれば2本以上のルートを確保し、晶質液を全開投与とする場合も多い。たとえば敗血症性ショックの”1時間バンドル”では30mL/kg以上の細胞外液を急速投与することが推奨されている。
・輸液反応性の評価としては本来的には心拍出量を評価する。ただし、血圧上昇の有無で代用する場合もある。またPassive Leg Raising test(PLR test)も有用と知られている。PLR testは下肢を挙上させることで1回心拍出量(CO: Cardiac output)増加がみられれば輸液反応性があると判断する方法で、具体的には2~3分間ほど30~45度程度でヘッドアップした状況から、2~3分間ほど45度程度で下肢挙上させて、COが10%以上増加するかを確認する。そのほか下大静脈径なども一つの指標とする。
・昇圧薬としては強いα1受容体刺激作用のあるノルアドレナリンを一般的に使用する。ノルアドレナリンを使用する際には事前に十分な細胞外液の補充がなされていることが重要で、それが不十分な場合には血圧が上がりにくく、かつ臓器虚血を来す場合があり、注意を要する。投与法の一例としては「ノルアドレナリン5A(5mg/5mL)+生食45mL」を0.05γから開始とする。
・血液分布異常性ショックに対してはまずは輸液を前述したような量で急速投与を行いつつ、必要に応じてノルアドレナリンで後負荷を上昇させることを検討する。なお、アナフィラキシーショックの場合、一般的にアドレナリン筋注が初期治療として推奨される。
・循環血液量減少性ショックではまずは補液で前負荷を補うが、貧血の改善を目指すことも酸素供給量(DO2: Delivery O2)の改善につながるため、輸血の準備も急ぐこととなる。
・心原性ショックに対しては原疾患に応じた治療を検討する。急性心筋梗塞であればカテーテル治療の準備を、不整脈であれば必要に応じて除細動などを検討する。
・閉塞性ショックでは原疾患による閉塞の解除を優先する。
RUSH protocol
・RUSHとはRapid ultrasound for shock and hypotensionの略で、超音波検査でPump(心臓)、Tank(体幹部)、Pipe(血管)の評価を行うことでショックの原因を高い感度および特異度で推定できる。
<Pump>
・Pumpに関する評価では心エコーを行い、主に①心嚢液貯留の有無 ②心収縮が過収縮か低収縮か ③右心負荷所見の有無(D-shapeなど) を確認する。
・過収縮がみられ、心腔内が小さい場合は循環血液量減少性ショック、閉塞性ショック、血液分布異常性ショックが疑われる。
・一方で、低収縮がみられ、心腔内が大きい場合は心原性ショックが疑われる。
<Tank>
・Tankに関する評価では主に①下大静脈短径と呼吸性変動 ②腹腔内および胸腔内のEcho free spaceの有無 ③肺の評価(B-line/Sliding sign/Seashore sign(Mモード)) を確認する。
・下大静脈の呼吸性変動が乏しく、かつ虚脱している場合は循環血液量減少性ショックが疑われる。
・下大静脈の呼吸性変動が乏しく、かつ拡張している場合は心原性ショック、閉塞性ショックが疑われる。
・Echo free spaceはFAST同様に肝腎境界、右胸腔、脾腎境界、左胸腔、膀胱直腸窩を確認する。
・肺についてはB-lineが一肋間において3本以上みられる場合をMultiple B-lineとも呼び、肺水腫の存在が疑われる。この場合は心原性ショックの存在が疑われる。また胸膜の呼吸性変動がみられることをSliding sign陽性とするが、この所見がみられない場合は気胸を疑う。そのほか、MモードでSeashore signがみられない場合には気胸を疑う。
<Pipe>
・Pipeに関する評価では主に①大動脈解離/大動脈瘤の評価(傍胸骨/胸骨上窩/腹部) ②大腿・膝窩静脈における血栓の評価 を確認する。
・動脈内にFlapがみられる場合には大動脈解離が疑われる。
・下肢静脈については血栓がない場合には容易に圧潰することが多い。
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<参考文献>
・Standl T, Annecke T, Cascorbi I, Heller AR, Sabashnikov A, Teske W. The Nomenclature, Definition and Distinction of Types of Shock. Dtsch Arztebl Int. 2018 Nov 9;115(45):757-768. doi: 10.3238/arztebl.2018.0757. PMID: 30573009; PMCID: PMC6323133.
・Richards JB, Wilcox SR. Diagnosis and management of shock in the emergency department. Emerg Med Pract. 2014 Mar;16(3):1-22; quiz 22-3. PMID: 24883457.