線維筋痛症 fibromyalgia

線維筋痛症の病態と疫学

・線維筋痛症(fibromyalgia)とは全身の結合組織や筋肉の疼痛を特徴とする疾患で、関節周囲組織、筋肉、腱の付着部位などのびまん性の疼痛やこわばりを訴える疾患である。

・病態の全てが解明しているわけではないが、多様な心身症状が遷延する原因として中枢性感作による疼痛(centralized pain)が関係していると想定されている。

・患者の80-90%は女性で、特に40~50歳前後で好発するといわれている。

・有病率は一般人口の2%程度と考えられていて、稀な疾患とはいえない。

・原発性(一次性)と二次性とに区別される。二次性は主に他のリウマチ性疾患(関節リウマチなど)、整形外科的疾患などに続発するものを一般的に指す。

・家族歴もみられることが多く、本邦では家族歴を有するケースが4%程度とされている。

・非炎症性疾患であるため、原則としてCRPやESRは基準値内にある。また自己抗体や画像所見も特に認められないのが典型的である。

臨床症状

・全身の関節周辺組織、筋、腱の骨付着部などにおいて疼痛、筋の痙攣などを自覚する。

・ときに痛みを伴わない程度の刺激で強い疼痛を自覚する場合もある。つまり、アロディニア(allodynia)を伴う場合がある。

・精神症状として、集中力の低下、思考力の低下などがみられることがある。

・筋のこわばりを自覚する場合もあるが、一般的に朝に症状が強い。また、コルチコステロイドに対する反応性は乏しい。

・疼痛は局所で始まることがあるが、経過とともに全身性に広がることがある。また、しばしば移動性の疼痛となる。

検査所見

・一般的な血液検査(血算、生化学)に加え、甲状腺機能や赤沈の確認などを行うことが多い。

・リウマチ因子(RF)、抗核抗体(ANA)をルーチンで確認する必要はない。ただし、リウマチ性疾患を疑う所見などがあれば、確認をすることがある。

診断基準

・類似する病像を呈する疾患を除外することを進めつつ、1990年の米国リウマチ学会(ACR)分類基準を参考にしながら、圧痛の有無などを確認する。診断基準ではなく、分類基準であることに留意するべきなのかもしれない。またこの分類基準は線維筋痛症の診断に関して感度88%、特異度81%であったという報告がある。

・分類基準に定める18箇所の圧痛箇所のうち、11箇所以上に圧痛が認められれば、線維筋痛症と診断する場合がある。ただし、疼痛の部位と程度にはケースによりばらつきがある

・また、前述の11箇所以上の圧痛が存在することは診断に必須ではなく、むしろ記載された圧痛箇所に圧痛を伴わない線維筋痛症は稀ではないという見方もある。

・圧痛は4kg程度の圧力を基本とする。指標としては爪床が白くなる程度の圧力とされている。

・圧痛箇所は①後頭部/後頭下腱膜付着部 ②下部頸部/C5-7頚椎間前方 ③僧帽筋部位 ④棘上筋部位/肩甲骨棘部の上方 ⑤第2肋骨部位/肋軟骨接合部 ⑥肘外側上顆2cm遠位部 ⑦臀筋部位/四半外側部 ⑧大転子部位/転子突起後部 ⑨膝関節部位/上方内側 であり、それぞれにおいて左右対称に存在し、計18箇所に相当する。

・また2010年に米国リウマチ学会(ACR)が新たな予備診断基準を作成しており、そちらも参考にすることが可能。

主な鑑別診断

・主な鑑別診断としてはシェーグレン症候群、慢性疲労症候群、種々のミオパチー、HIV感染症、末梢神経障害をきたす疾患群、脊柱管狭窄症、緊張型頭痛、薬剤性(スタチン、アロマターゼ阻害薬など)をはじめ、多岐にわたる。

・ただし、全ての鑑別疾患を網羅的に除外する必要はないと思われ、あくまで病歴、臨床症状、身体所見などから総合的に可能性が想定されるものを除外することが重要。

治療

・まずは機能性疾患であり、筋や関節の拘縮を生じさせないように日常生活をなるべく続けながら、根気強く治療を行うプロセスが重要である。

・非薬物療法、薬物療法を併用することが一般的。

・非薬物療法としては患者/家族教育、運動療法、精神/心理療法、鍼灸治療などが知られている。特にエビデンスレベルAに相当するのは有酸素運動、レジスタンス運動、水中運動、瞑想、認知行動療法(CBT)が挙げられている。エビデンスレベルBに相当するのは鍼治療が挙げられ、エビデンスレベルCに相当するのは温泉療法、温熱療法などが挙げられる。

・薬物療法は多岐にわたるが、デュロキセチン(サインバルタ®)、プレガバリン(リリカ®)、アミトリプチリン(トリプタノール®)、ミルナシプラン(トレドミン®)、トラマドール(トラマール®, ワントラム®)、トラマドール/アセトアミノフェン配合剤(トラムセット®)がエビデンスレベルAであり、特に使用が強く推奨されているのはデュロキセチン、プレガバリン、トラマドール、トラマドール/アセトアミノフェン配合剤である。

・そのほか、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン®)はエビデンスレベルが低いものの、使用を考慮してもよいこととなっている。また、補助的に漢方薬(疎経活血湯、牛車腎気丸、芍薬甘草湯など)を併用することも提案されている。

・睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群など)、気分障害、全般性不安障害などが併存するケースでは併存疾患も適切に管理することで予後が改善する場合がある。

合併症

緊張型頭痛、顎関節症、過敏性腸症候群、間質性膀胱炎、過活動膀胱などを合併しやすい。また、全般性不安障害、気分障害などの精神疾患が併存する場合もある。

・また自殺企図を伴う場合があり、注意を要する。

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<参考文献>

・Macfarlane GJ, Kronisch C, Dean LE, Atzeni F, Häuser W, Fluß E, Choy E, Kosek E, Amris K, Branco J, Dincer F, Leino-Arjas P, Longley K, McCarthy GM, Makri S, Perrot S, Sarzi-Puttini P, Taylor A, Jones GT. EULAR revised recommendations for the management of fibromyalgia. Ann Rheum Dis. 2017 Feb;76(2):318-328. doi: 10.1136/annrheumdis-2016-209724. Epub 2016 Jul 4. PMID: 27377815.

・Arnold LM, Bennett RM, Crofford LJ, Dean LE, Clauw DJ, Goldenberg DL, Fitzcharles MA, Paiva ES, Staud R, Sarzi-Puttini P, Buskila D, Macfarlane GJ. AAPT Diagnostic Criteria for Fibromyalgia. J Pain. 2019 Jun;20(6):611-628. doi: 10.1016/j.jpain.2018.10.008. Epub 2018 Nov 16. PMID: 30453109.

・Wolfe F, Smythe HA, Yunus MB, Bennett RM, Bombardier C, Goldenberg DL, Tugwell P, Campbell SM, Abeles M, Clark P, et al. The American College of Rheumatology 1990 Criteria for the Classification of Fibromyalgia. Report of the Multicenter Criteria Committee. Arthritis Rheum. 1990 Feb;33(2):160-72. doi: 10.1002/art.1780330203. PMID: 2306288.

・日内会誌 108: 2077-2087, 2019.

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