グルココルチコイド誘発性の副腎不全の診断と治療 glucocorticoid-induced adrenal insufficiency
欧州内分泌学会(ESE)と内分泌学会(ES)により共同作成されたガイドラインで、内容の一部を抜粋して記載する。
主な推奨事項
<ステロイドの漸減/ステロイド誘発性副腎不全の診断・アプローチ>
・3~4週間以内のステロイド治療の場合、投与量に関わらず漸減は不要である。HPA軸(Hypothalmic-Pituitary-Adrenal軸)抑制の懸念は小さいため、検査をせずに中止が可能。
・長期のステロイド治療を受けている患者における漸減はステロイドが処方された対象の疾患がコントロールされていて、ステロイドが必要ない場合にのみ試みるべき。このような場合、ステロイドは生理的な一日量に近づくまで漸減させる(例:PSL 4~6mg/日など)。
・ステロイド漸減中には副腎不全の発症に注意する。重篤な副腎不全がみられた場合にはステロイドを漸減前の直近の用量まで増量させて、漸減期間を延長させることが可能。
・超高用量のステロイドを使用しているケースや、基礎疾患に対してステロイド治療が必要なケースでは副腎不全に関するルーチンの検査を行わないことを推奨する。
・長時間作用型ステロイド(デキサメタゾン、ベタメタゾンなど)を使用しているケースではその長時間作用型ステロイドが不要になった場合に、短時間作用型ステロイド(ヒドロコルチゾン、プレドニゾロンなど)に置換するべきである。
・HPA軸の状態を確認したい場合はまずは早朝の血清コルチゾール値の確認を推奨し、その値が高いほどHPA軸は保たれていることを示す。以下がその指標である。
- コルチゾール>300nmol/L or 10μg/dLで、ステロイド治療を安全に中止できる場合はHPA軸が保たれていることを示唆する。
- コルチゾールが150~300nmol/L or 5~10μg/dLの場合は生理的な量のステロイド投与を継続し、数週間から数カ月後に早朝血清コルチゾールを再測定することを推奨する。
- コルチゾール<150nmol/L or 5μg/dLであれば、生理的な量のステロイド投与を継続し、数カ月後に早朝血清コルチゾールを再測定することを推奨する。
・ステロイドの中止を目指しているが、生理的な1日量に相当するステロイドを服用しているにも関わらず、1年以内にHPA軸の回復がみられないケースでは内分泌専門医の診療を受けるべきである。またステロイドを使用中で、副腎クリーゼの既往がある患者も内分泌専門医の診療を受けるべきである。
・ステロイド誘発性副腎不全の患者ではフルドロコルチゾン(フロリネフ®)を使用しないことを推奨する。
※なお早朝血清コルチゾールとは午前08時~09時の間に測定したものを指す。
<ステロイド誘発性副腎不全のケースにおける副腎クリーゼの診断と治療>
・現在または直近でステロイドを使用した患者で、ステロイド誘発性副腎不全が除外されていない場合には、ストレス下においてステロイドカバーを行うことを推奨する。
・ステロイドの内服はストレスの程度が軽度で、血行動態が安定していて、遷延する嘔吐や下痢の徴候がない場合に使用するべきである。
・ステロイドの静注はストレスの程度が中等度から高度で、全身麻酔または局所麻酔下の処置を行う場合、血行動態が不安定だったり、遷延する嘔吐や下痢の徴候がみられたりするケースで使用するべきである。
ステロイド誘発性副腎不全
・HPA軸の抑制は慢性的な外因性ステロイド治療の避けられない影響であり、副腎機能の回復は個人差が大きい。
・低用量のステロイド(PSL 2.5~7.5mg/日)であっても、心血管疾患、重症感染症、高血圧症、糖尿病、骨粗鬆症と骨折、2型糖尿病を併発することで総死亡率が増加することが示唆されている。
・ステロイドは視床下部によるCRH、下垂体によるACTHの産生をそれぞれ阻害することで、HPA軸の活性を抑制する。これにより最終的に副腎皮質の萎縮をもたらす。
・ステロイドを生理的な1日量以上で投与すると、HPA軸は抑制される可能性が生じる。ステロイド治療中止後のHPA軸の抑制の程度とその持続性は治療期間、個人の感受性、ステロイドの用量により規定される。なお、経口、吸入、鼻腔内、関節内など、投与経路によらずHPA軸は抑制される可能性がある。
ステロイドの漸減
・前述のとおり、ステロイドはその投与対象となった基礎疾患がステロイド治療を必要としない場合にのみ漸減を行うべきである。
・一般的にステロイドの漸減は1日の総投与量が多い場合(例: PSL 30mg/日以上)でより早く、より大きく減量が可能。またステロイドの1日の総投与量が生理的な1日量(ヒドロコルチゾン 15~25mg/日以上、プレドニゾロン 4~6mg/日以上)に近づくにつれて、より遅く、より小さく減量するべきである。
・コントロールがなされていない高血圧症、糖尿病、精神病などの合併症がある患者では生理的な1日量に相当するまでのステロイドの漸減をより早く行う必要がある。
・なお、生理的な1日量に至るまでは副腎機能の確認は不要である。
・ステロイドの漸減を開始して間もない時期にはACTHおよびコルチゾールは抑制されたままである。しかし、ステロイドの漸減を進めていくと視床下部と下垂体が回復し始め、ACTHの産生が増加する。ACTHの増加は副腎皮質の機能回復を促し、コルチゾールの増加につながる。
・エキスパートのなかにはステロイドの用量を生理的な1日量に相当する量をわずかに上回る量(例: PSL 7.5mg/日)まで、急速に減量させ、そこからさらに段階的に減量することを推奨する者もいる。
<ステロイドの漸減の例(以下PSL換算)>
・PSL>40mg/日で内服しているケース:1週間ごとに5~10mgを減量
・PSL 20~40mg/日で内服しているケース:1週間ごとに5mgを減量
・PSL 10~20mg/日で内服しているケース:1~4週間ごとに2.5mgを減量
・PSL 5~10mg/日で内服しているケース:1~4週間ごとに1mgを減量
・PSL 5mg/日で内服しているケース:副腎不全の徴候や検査が陰性であれば4週間ごとに1mgを減量
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<参考文献>
・Beuschlein F, Else T, Bancos I, Hahner S, Hamidi O, van Hulsteijn L, Husebye ES, Karavitaki N, Prete A, Vaidya A, Yedinak C, Dekkers OM. European Society of Endocrinology and Endocrine Society Joint Clinical Guideline: Diagnosis and therapy of glucocorticoid-induced adrenal insufficiency. Eur J Endocrinol. 2024 May 2;190(5):G25-G51. doi: 10.1093/ejendo/lvae029. PMID: 38714321.