HPVワクチン (ヒトパピローマウイルスワクチン)
HPV(ヒトパピローマウイルス)とは
・HPV(ヒトパピローマウイルス)は性的接触のある女性であれば50%以上が生涯で一度は感染するとされているウイルスで、子宮頸がんのほか、肛門や膣、外陰部、口腔、副鼻腔などにおける癌の原因になる。
・HPVには150種類以上の型が存在するが、特に16, 18, 31, 45型による癌で全体の過半数を占める。子宮頸がんでは特に16, 18型が多い。
・本邦では小学校6年〜高校1年生相当(12~16歳)の女性を対象に定期接種化されている。本邦では接種後に発生した有害事象として複合性局所疼痛症候群(CRPS)などが問題視され、接種勧奨が差し控えられている状況があったが、令和3年11月に専門家の評価により「HPVワクチンの積極的勧奨を差し控えられている状態を終了させることが妥当」とされた。実際、HPVワクチンとの関連性は明らかでなく、接種による利益は明らかであるため、対象者には広く接種がなされることが望ましいと考えられる。
・性交によりHPV感染が生じても多くは免疫機能により排除され、子宮頸がんに至るのはおおむね1,000人に1~2人とされている。そして、HPVワクチンにより子宮頸がんの約50~80%を予防できると考えられている。
HPVワクチンの定期接種とキャッチアップ接種
・前述のとおり、小学校6年〜高校1年生相当(12~16歳)の女性を対象に定期接種化されていて、無料で接種が可能。
・またキャッチアップ接種も行われている。
①誕生日が1997年04月02日~2008年04月01日)
②過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない
の両者の条件を満たす方が対象となり、該当者は2022年04月〜2025年03月の3年間でHPVワクチンを公費で接種できる。
HPVワクチンの種類
・公費で接種可能なHPVワクチンとしては3種類存在し、2価ワクチン(サーバリックス®)、4価ワクチン(ガーダシル®)、9価ワクチン(シルガード9®)が挙げられる。シルガード9®は本邦でも2021年02月から発売された。
・2価ワクチン、4価ワクチンは計3回の接種を要する。一方で、9価ワクチンは15歳よりも前に接種を開始した場合において計2回の接種で完了できる。なお、9価ワクチンの初回接種が15歳を超えてなされた場合は計3回の接種が原則となる。
・接種スケジュール:
①2価ワクチン(サーバリックス®):
・0, 1, 6か月の計3回接種
②4価ワクチン(ガーダシル®):
・0, 2, 6か月の計3回接種
③9価ワクチン(シルガード9®):
・1回目の接種が15歳以前の場合:0, 6ヶ月の計2回接種
・1回目の接種が15歳以降の場合:0, 2, 6ヶ月の計3回接種
・HPVワクチンは初回の性行為の前に接種できると最も効果が大きいと考えられている。ただし26歳までであればHPVワクチンにより子宮頸がんの前癌病変を予防できる効果も示されている。実際、日本産婦人科学会も「10~14歳の女性」に最も推奨していて、次に「15~26歳の女性」に推奨している。なお、推奨される年齢であっても妊娠中の接種は安全性および有効性が確立していないため、接種は推奨されていない。
・シルガード9®は4価ワクチンでカバーする6, 11, 16, 18型に加えて、発癌に関連する31, 33, 45, 52, 58型を追加でカバーし、肛門癌の予防効果も期待できる。
・なお、サーバリックス®あるいはガーダシル®での接種が完了している方はシルガード9®による追加接種の必要性は現時点では明らかでない。
・また陰茎癌や尖圭コンジローマの予防などを目的とした男性への接種は現時点では公費対象とはなっておらず、自己負担となる。また、男性への接種にはガーダシル®が適用を有している。
子宮頸がん検診
・本邦では20歳以上での検診を推奨されていて、上限は示されていない。なお、USPSTFでは21~65歳で子宮頚部細胞診のみの場合では3年おきの検査を推奨している。
・本邦では欧米に比して検診受診率が低いことが示されていて、接種機会に医療者が繋げられるような働きかけを個別に行うことも大切と思われる。
・また性交歴がない方であっても検診の受診が推奨されていて、その根拠として母親からの垂直感染が生じている可能性などが挙げられている。
・また喫煙などはHPV持続感染のリスクともされているため、併せて禁煙指導を行うことも重要。
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<参考文献>
・Markowitz LE, Dunne EF, Saraiya M, Chesson HW, Curtis CR, Gee J, Bocchini JA Jr, Unger ER; Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Human papillomavirus vaccination: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). MMWR Recomm Rep. 2014 Aug 29;63(RR-05):1-30. Erratum in: MMWR Recomm Rep. 2014 Dec 12;63(49):1182. PMID: 25167164.
・Lei J, Ploner A, Elfström KM, Wang J, Roth A, Fang F, Sundström K, Dillner J, Sparén P. HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer. N Engl J Med. 2020 Oct 1;383(14):1340-1348. doi: 10.1056/NEJMoa1917338. PMID: 32997908.
・日本産科婦人科学会, 他. 産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020.