骨粗鬆症 osteoporosis

骨粗鬆症の定義と疫学

・WHOは骨粗鬆症を「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である」と定義している。つまり、骨密度(骨量)だけでなく、骨質も影響するということが読み取れる。

・実際、骨強度骨密度骨質の2つの要因から成り、概して骨密度が7割程度骨質が3割程度を占めると考えられている。骨密度はBMD: Bone mineral density)のことであって、比較的わかりやすい。骨質は微細構造、骨代謝回転、微小骨折、骨組織の石灰化度などによる要素で規定される。

主なリスク因子:女性、低骨密度、既存骨折、生活習慣(喫煙、飲酒など)、転倒を惹起する要因、加齢、併存疾患(甲状腺機能異常など)など。

・一般住民の40歳以上の骨粗鬆症の有病率は腰椎L2~L4で男性3.4%、女性26.5%であった。

・非椎体骨折のうち、特に大腿骨近位部骨折はADL低下に結びつきやすい。実際、生命予後に影響することが示唆されていて、メタ解析によると大腿骨近位部骨折後1年の死亡リスクは非骨折者に比して男性で3.7倍、女性で2.9倍に高まることが知られている。また、大腿骨近位部骨折以外の非椎体骨折であっても、死亡リスクは男女とも約1.7倍高くなるという報告もある。

・骨粗鬆症の治療の目標は骨粗鬆症に伴う骨折を予防し、可能な限り生活の質を維持、改善することにある。

FRAX

・2008年にWHOが発表したツールで、以降10年間の骨折確率を見積もる評価法FRAX®が存在し、インターネットなどでの検索により無料で使用が可能である。FRAXでは主要な骨粗鬆症性骨折(Major osteoporotic)として大腿骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折、上腕骨近位部骨折、臨床椎体骨折を含めている。

”臨床骨折”とは腰背部痛などの明らかな臨床症状がみられ、X線撮影などにより骨折が確認されたものを刺す。なお、臨床症状の有無とは無関係にX線撮影などで椎体の変形が確認されたものを”形態骨折”という。臨床骨折は全椎体骨折の1/3に過ぎず、椎体骨折の多くは臨床症状を伴わないものであることが知られている。

・FRAXは特に「脆弱性骨折がなく、骨密度がYAMの70~80%の場合」において、「FRAXの10年間の主要骨粗鬆症性骨折確率15%以上」で、薬物治療開始をすることが提示されている。ただし、この基準は原則として75歳未満のケースで適用するものである。

骨粗鬆症を疑うケースと検討する検査

・前述したような骨粗鬆症のリスク因子を複数有するようなケース閉経後の女性などで骨粗鬆症を疑う場合がある。

・またUSPSTFでは①65歳以上の女性 ②65歳未満で骨折リスクを有する女性 において骨粗鬆症のスクリーニングを推奨している(Grade B)。

・医療面接ではリスク因子や続発性骨粗鬆症(COPDや甲状腺機能異常など)を疑う所見がないかに注意しながら聴取する。

・続発性骨粗鬆症を疑う所見があれば、検査前確率に応じて血液検査などで評価を進める。また、血液検査では肝機能、腎機能、血糖やCa、Pなども確認することが多い。

・骨密度検査ではDXA(dual-energyX-ray absorptiometry)法が用いられる。DXA法は腰椎および大腿骨近位部における確認は精度が最も高いと考えられている。次点で、橈骨遠位端における確認が挙げられる。なお、DXA法ではないが、第2中手骨をX線撮影することでその透過性の程度から骨密度を評価する方法もあるが、あくまで標準的な検査は前述の腰椎および大腿骨近位部におけるDXA法での確認である。

・前述のように、原則として骨密度は腰椎または大腿骨近位部における確認を優先する。また複数部位で測定した場合は、より低い%またはSD値を採用する脊椎変形が目立つなどで腰椎の測定が困難な場合には大腿骨近位部の骨密度の利用を優先する場合がある。

診断

・診断に関しては主に①脆弱性骨折の有無 ②骨密度 でなされる。

大腿骨近位部骨折あるいは椎体骨折が証明されれば、骨密度に関わらず骨粗鬆症と診断される。それ以外の場合では診断に関して骨密度検査を行うことが必要となる。

・脆弱性骨折とは軽微な外力により発生した非外傷性骨折を指す。軽微な外力とは一般的には立った姿勢からの転倒か、それ以下の外力を指す。

・診断基準における「その他の脆弱性骨折」には肋骨、骨盤(恥骨、坐骨、仙骨を含む)、上腕骨近位部、橈骨遠位端、下腿骨が含まれる。

 <原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年改訂版)>

 <Ⅰ.脆弱性骨折がある場合>

  1. 椎体骨折または大腿骨近位部骨折あり
  2. その他の脆弱性骨折があり、骨密度がYAMの80%未満

<Ⅱ.脆弱性骨折がない場合>

  1. 骨密度がYAMの70%以下または−2.5SD以下

薬物療法の開始基準

以下の場合は薬物療法の開始を検討する。

  1. 前述の原発性骨粗鬆症の診断に至るケース
  2. 脆弱性骨折がなく、骨密度がYAM 70~80%で、なおかつ「FRAXの10年間の主要骨折の確率>15%」のケース
  3. 脆弱性骨折がなく、骨密度がYAM 70~80%で、なおかつ「大腿骨近位部骨折の家族歴がある」ケース

・なお、前述のとおり、FRAXは原則として75歳未満の方を対象に利用することが想定されている点に留意する。

非薬物療法

・薬物療法を利用する場合においても、非薬物療法との併用によってさらに有効な治療効果が得られると考えられる。

・非薬物療法としては主に運動、食事(十分なカルシウム、ビタミンKの摂取など)、禁酒/節酒、禁煙、転倒を惹起する要因の評価などが挙げられる。

・そのほか日に当たる時間を増やすことで内因性の活性化ビタミンの増加が期待できる。

・また転倒リスクがあれば、そちらに介入することも大切である。ケースによるが、例えば白内障の治療や、自宅の環境調整(導線の工夫、段差の改修など)、靴を滑りにくいものに変えるなどが挙げられる。

各薬物治療の特徴

 <ビスホスホネート製剤>

・骨粗鬆症に由来する骨折は特に70歳以上では大腿骨近位部骨折のリスクが増加することが知られている。したがって、70歳以上では特に大腿骨近位部骨折の抑制効果が示されているビスホスホネート製剤(BP製剤)、特にアレンドロン酸、リセドロン酸を選択することが検討される。なお、椎体骨折、非椎体骨折、大腿骨近位部骨折のいずれも有意に減らすことが示されているBP製剤としてはアレンドロン酸、リセドロン酸、ゾレドロン酸の3種が挙げられる。ミノドロン酸、イバンドロン酸椎体骨折の抑制効果は示せているが、それ以外の骨折についてはエビデンスに乏しい

・カルシウム補充を目的にカルシウム製剤(アスパラ-CAなど)を併用する場合もある。また、多くのBP製剤のエビデンスは活性化ビタミンD製剤の併用下で形成されているため、BP製剤を使用する際は可能な限り、カルシウム製剤でなく、活性化ビタミンD製剤を併用することが理想と思われる。また、食事からのカルシウム補充を促すことも大切。

・食道傷害を防ぐために、起床時に180mLの水とともに服用して30分間程度は臥位を避けて過ごさなければならないため、それができない方には利用はできない。また同様の理由で食道通過障害があるケースも利用は避けるべき。内服後の姿勢維持ができないなどの理由で内服製剤が利用できない場合には注射製剤の利用が検討可能である。注射製剤としてはアレンドロン酸、ゾレドロン酸が利用可能で、月1回製剤と年1回製剤とが選択できる。なお、ゾレドロン酸の注射製剤では約1/3の頻度でインフルエンザ様症状が一時的にみられ得る。

・週1回製剤と月1回製剤とでは後者の方が服薬アドヒアランスは高いと考えられる。内服で、月1回の投与が可能な製剤としてはリセドロン酸、ミノドロン酸が挙げられる。アレンドロン酸は月1回投与ができないが、ゼリー製剤がある点が特徴。

・BP製剤は顎骨壊死非定型骨折などの合併症が知られている。

・薬価は他剤に比してBP製剤は概して安価で済む。特にアレンドロン酸が最も安価で、次点でリセドロン酸が挙げられる。

・薬剤としてはアレンドロン酸(フォサマック®、ボナロン®)、リセドロン酸(ベネット®、アクトネル®)、ミノドロン酸(リカルボン®、ボノテオ®)、イバンドロン酸(ボンビバ®)、ゾレドロン酸(リクラスト®)などで知られる。ちなみに、ゾレドロン酸として知られるゾメタ®悪性腫瘍による高カルシウム血症に適応があるが、骨粗鬆症治療には用いられない

 <抗RANKL抗体製剤>

・抗RANKL抗体製剤のデノスマブも大腿骨近位部骨折および椎体骨折の抑制効果が示されている。

6ヶ月に1回、皮下注で投与する。

・なお投与中止後には骨吸収が一過性に亢進して、むしろ多発性の椎体骨折などが生じることがある。したがって、投与中止後にはBP製剤などの骨吸収抑制薬の使用を考慮する。なお、デノスマブを投与後にゾレドロン酸に切替えることで、骨量減少をある程度抑えられるという報告もある。またロモソズマブへの切替えも検討可能である。ただし、テリパラチド(フォルテオ®、テリボン®)への切替えは著明な骨量減少を惹起するため、原則として禁忌である。

・薬剤としてデノスマブ(プラリア®)が知られている。

 <活性化ビタミンD3製剤>

椎体骨折の抑制効果が示されている。効果としてはアルファカルシドールよりもエルデカルシトールの方がさらに大きいかもしれない

・薬剤としてはエルデカルシトール(エディロール®)、アルファカルシドール(ワンアルファ®)、カルシトリオール(ロカルトロール®)などで知られる。

 <選択的エストロゲン受容体モデュレーター薬(SERM)>

椎体骨折の抑制効果が示されているが、非椎体骨折の抑制効果は示せなかった。

血栓症が副作用として知られ、プラセボ薬に比してリスクは約3倍という報告もある。

・薬剤としてはラロキシフェン(エビスタ®)、バゼドキシフェン(ビビアント®)が知られている。

 <副甲状腺ホルモン製剤>

重症の骨粗鬆症に使用を検討する。骨密度増加効果はBP製剤と比較しても強く、椎体骨折の抑制効果は他剤よりも大きいと考えられている。

大腿骨近位部骨折の抑制効果についてはエビデンスがない

・フォルテオは最長で24ヶ月までの投与である。

・フォルテオは連日の自己注射を要するため、外来での指導を要する。テリボンは週1回、外来での注射も可能。

・オスタバロは2021年03月に本邦でも製造販売承認を取得している。同薬はPTHrPの類縁物質で、テリパラチド製剤よりも1型PTH受容体への親和性が異なると考えられている。オスタバロは連日の自己注射を要する薬剤で18か月までの投与が可能。

他剤に比べて高価

・薬剤としてはテリパラチド(フォルテオ®、テリボン®)、アバロパラチド(オスタバロ®)が知られる。

 <ヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体製剤>

・ロモソズマブは2019年03月に本邦で使用可能となった薬剤で、スクレロスチンを阻害することで骨芽細胞による骨基質産生を促し、骨形成を促進させることで薬効を得る。また骨形成効果に加えて、骨吸収抑制効果も併せ持つ点で他剤と一線を画している。

・日本人6,000人以上を対象にしたFRAME trialでは腰椎、大腿骨近位部のいずれにおいてもプラセボ薬と比較して有意に骨密度を増加させたことが報告された。ただし、骨密度上昇は代用アウトカムであることには留意するべきで、また、ロモソズマブ投与12か月後における腰椎の骨密度変化率は最小有意変化(LSC)を上回ったものの、大腿骨近位部における骨密度変化率はLSCを下回ったという報告もある。また、デノスマブとBP製剤を1年以上使用したケースではロモソズマブの腰椎における骨密度上昇効果は低下させる可能性も示唆されている。ロモソズマブに関するエビデンスは今後さらに集積されると思われる。

・ロモソズマブは月1回、皮下注で投与し、12か月継続することが原則となる。なお、過去1年以内に虚血性心疾患や脳血管障害の既往があるケースでは投与を避けることとなっている。

他剤に比べて高価

・薬剤としてはロモソズマブ(イベニティ®)が知られている。

非定型骨折とDrug holiday

・長期間にわたるBP製剤服用患者では特に大腿骨転子下および骨幹部の骨折が報告され、非定型大腿骨骨折(AFF: Atypical femoral fracture)と呼ばれる。

・一般的にBP製剤の服用期間が長いほど発生リスクが高まると考えられている。また欧米人に比して、アジア人ではその発生リスクが高いことも知られている。

・ただし、発生率は絶対的に高いとはいえず、アレンドロン酸については1年間の使用で0.2/10,000人年、8年間の使用で13/10,000人年と報告されている。

・非定型骨折を特に懸念して、BP製剤の休薬、つまりDrug holidayという概念がある。原則としてBP製剤は種類を問わず5年間の使用後にDrug holidayを設けることを検討する。

アレンドロン酸の場合は1~2年間ほどのDrug holidayを設けることを検討する。約2年間の休薬でも骨量は保たれるものの、それ以上の休薬では骨折リスクは上昇に転じると考えられている。

リセドロン酸休薬後の効果消失が比較的早いため、Drug holidayは6~12か月とするべきという見方もある。また、ゾレドロン酸Drug holidayは3年間が妥当という見方もある。

ビスホスホネート製剤と顎骨壊死

・BP製剤服用中に生じる顎骨壊死をビスホスホネート関連顎骨壊死(BRONJ: Bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw)と呼ばれる。ただし、BP製剤以外の骨吸収抑制薬剤でも顎骨壊死が生じるため、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ: Antiresorptive agent-induced osteonecrosis of the jaw)と総称されることもある。

・BP製剤での治療をしている患者における顎骨壊死の頻度は高いとはいえず、その発生率は0.001~0.01%という報告もある

・BRONJの発生は感染が契機と考えられているため、口腔内衛生を保てるような働きかけは重要と思われる。また口腔内不衛生のほかにBRONJのリスクと考えられているものには飲酒、喫煙、糖尿病、ステロイド使用、肥満、抗がん剤の投与などが相当する。

・歯科治療の際に少なくとも一律に休薬期間を設ける必要はないと考えられている。ただし、これからBP製剤を導入する予定のケースで、抜歯などの比較的大きな侵襲性を伴う歯科治療を行う場合は処置後の創傷治癒が確認されるまで投与の開始を延期することを検討する

・また既にBP製剤を定期服用していて、侵襲的な歯科治療が必要になったケースについては、服用期間と顎骨壊死のリスク因子、骨折リスクなどを総合的に勘案して休薬の方針について決定する。服用期間が3年未満でリスク因子がない場合原則として休薬をせずに継続する。もしも休薬を決めた際のその期間は明確に定められていないが、本邦のガイドラインでは3ヶ月間を推奨されている。

高齢者におけるビスホスホネート製剤の導入

・冒頭で記載したとおり、高齢者においては大腿骨近位部骨折の1年後の死亡リスクが高まることが知られていて、骨粗鬆症治療の意義は小さくないと考えられる。

・あるメタ解析ではBP製剤による治療を受けた女性100人のなかで1人の非椎体骨折を防ぐために必要な期間は約12か月と報告されている。

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・Lewiecki EM. Osteoporosis: Clinical Evaluation. 2021 Jun 7. In: Feingold KR, Anawalt B, Blackman MR, Boyce A, Chrousos G, Corpas E, de Herder WW, Dhatariya K, Dungan K, Hofland J, Kalra S, Kaltsas G, Kapoor N, Koch C, Kopp P, Korbonits M, Kovacs CS, Kuohung W, Laferrère B, Levy M, McGee EA, McLachlan R, New M, Purnell J, Sahay R, Shah AS, Singer F, Sperling MA, Stratakis CA, Trence DL, Wilson DP, editors. Endotext [Internet]. South Dartmouth (MA): MDText.com, Inc.; 2000–. PMID: 25905277.

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・骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版, ライフサイエンス出版, 2015

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