地域社会におけるGERD様症状の評価と治療

・論文名:Assessment and treatment of reflux-like symptoms in the community: a multidisciplinary perspective

はじめに

・胸やけなどのGERD様症状はCommonな症状であり、その主な原因として肥満、加齢に伴う逆流防止機能の低下、食事、心理的要因などがある。

・GERD(胃食道逆流症)の診断が広く行われるようになり、PPIが安易に処方されるようになった。何よりもまずPPIを処方するような戦略は主に3つの理由で不適切と考えられ、その理由として①症状の頻度、強さなどを勘案せず、全ての症状を”疾患”として同一視していること ②胃酸逆流以外の要因を考慮していないこと ③無害な症状をいたずらに医療化して捉えることで、患者の恐怖心や過敏性を増長させて、しばしばQOLを低下させ、医療利用を促進させてしまっていること が理由として挙げられる。

・胸やけなどの症状が胃酸関連疾患であるという還元主義的な発想はあまりに単純である。本来は症状の一因となる食事、ライフスタイル、心理社会的要因などを認識して、対処する必要がある。しかし、このような非薬物療法的戦略には質の高いエビデンスがないことが、一つの障壁となっている。

患者に症状の多因子性について相談する

・患者は胃酸の過剰な逆流が症状を引き起こすGERDの概念を認識していることがある。しかし、食道裂孔ヘルニア、下部食道括約筋(LES)圧の低下、肥満、弱い食道蠕動などの異常が食道炎の重症度に寄与することもあれば、実際には知覚調節因子なども症状形成に影響を与えていることが知られている。

・患者が症状を有害なものと解釈すると、中枢性感作が生じ、知覚が過敏になり、症状が増幅される場合がある(本文ではfight-flight-freeze responseと表現)。

患者自身が症状の誘引を認識できるようにする

・患者の食行動やライフスタイルなどの特徴、リスク因子を特定することは個々人に適した助言を行うことに役立つ。

食行動としては早食い、多い食事量、満腹を超えて食べてしまう、食事時刻と就寝時刻が近い、などがリスク因子となる。夕食から就寝までは2~3時間以上の時間を空けることはときに助言として有用。また、右側臥位で寝ると、左側臥位で寝る場合に比べて、食後および就寝中の胃酸逆流が増加することが知られている。

食事要因としては脂質や辛味が強いもの、酸味が強いもの(柑橘類を含む)、アルコール/コーヒー/炭酸飲料/

チョコレートの摂取過多、などがリスク因子となる。

ライフスタイルとしては体重増加、窮屈な衣類、喫煙、過度な運動、などがリスク因子となる。

感情的/行動的要因としては高ストレス環境、神経質、などがリスク因子となる。

・薬剤としては降圧薬(CCBなど)、勃起不全治療薬などがリスク因子となる。

機能性胸やけ/食道知覚過敏若年、そして女性に多い。知覚過敏により胸やけが生じている場合には同様の機序により、他にも腰痛、四肢痛、頭痛、めまいや、機能性ディスペプシアが併存することがある。また、これらの病態ではPPIに対する治療反応性が良好といえないにも関わらず、PPIの使用量が比較的多いことが、スペインの134の地方薬局を対象とした研究で報告されている。

セルフケアにつなげるためのアプローチ

逆流症状が様々な要因により生じることの認識をもってもらうことにより、生活習慣のリスク因子を是正させる非薬物治療と、制酸薬による治療との併用が有効であることの患者理解を助ける。また、機能性胸やけ、食道知覚過敏は心理的要因により悪化をきたす場合もあるため、通常、症状が軽減することを説明して、安心感を与えることは大切である。

・助言は個別性に応じて工夫することが有効で、たとえば夜間に症状が目立つ患者に対して、夕食と就寝時刻の間を3時間以上空けるようにと助言するよりも、患者の1日の過ごし方を把握したうえで、夕食の時間を決めることの方がより有効かもしれない。また、推奨される食事量が示された視覚的な資料を提供することで、食事の適量や、バランスのとれた食事がよりイメージしやすくなるかもしれない。運動を指導することもときに有用であるが、1日あたりの運動時間の目標を設定したり、フィットネスアプリや地元の取り組みがあればそれを提案したりすることも良い。

・中枢性感作により感覚過敏に至っているケースに対処できることも重要。マインドフルネスによるストレス軽減、認知行動療法などにより不安や症状の軽減に繋がることが示されている。そのほか社会的処方も逆流症状の改善に関連性がある。また、患者の取り巻く状況に応じて、有用なサービス利用につなげることもときに重要で、例えば住宅制度の利用支援、雇用やボランティアの機会の紹介、社会的孤立を軽減させるためのコミュニティの紹介などが挙げられる。逆流様の症状は不安症状や抑うつ症状を伴う患者でみられることもあり、状況によっては抗うつ薬治療が有効な場合もある。

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<参考文献>

・Kahrilas PJ, Anastasiou F, Barrett K, Beh L, Chinzon D, Doerfler B, López-Pintor E, Maimin J, Mendive JM, Taft T, Hungin AP. Assessment and treatment of reflux-like symptoms in the community: a multidisciplinary perspective. Br J Gen Pract. 2024 Apr 25;74(742):232-235. doi: 10.3399/bjgp24X737349. PMID: 38664044; PMCID: PMC11060810.

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