在宅酸素療法(HOT)の適応とエビデンス Home oxygen therapy
HOTの適応
・在宅酸素療法(HOT:Home oxygen therapy)の適応としては以下の2つのいずれかに該当して、医師が必要性が高い状況にあると判断したケースとなる。
- PaO2≦55torr
- 運動負荷時あるいは睡眠時にPaO2≦60torr
・本来的にはパルスオキシメーターでの値でなく、動脈血を利用した酸素分圧を確認することが望ましいように思われる。
HOTの導入を検討するケース
・比較的検討する場面として多いのはCOPDなどの慢性肺疾患をもつ患者において、何らかの急性疾患で入院に至り、そちらが治療による軽快した後も、酸素飽和度90%以上を維持するために酸素投与を必要とする状況が続いている場合ではないかと思われる。
・HOT導入の際、チューブの長さがどれぐらい必要か(寝室やトイレまでチューブを届かせる必要がある)、転倒のリスクがどれほどか、器械の設置位置をどこが適切か、などを検討する必要性が高く、状況によっては家屋評価を行う場合もある。また、自宅に設置する酸素発生装置以外に、もしも携帯型酸素発生装置や酸素ボンベを利用するならば、カニュレの繋ぎ変えを患者やその家族が行えるかどうかなどにも検討がなされる。
・そのほか喫煙をしているケースでは火事などのリスクから原則としてはHOTの適応とはならない。HOTを検討するケースでは禁煙を勧める必要があり、またそもそもCOPDをはじめとした慢性肺疾患の進行抑制の観点においても禁煙は重要。現時点ではHOT開始前に一定期間の禁煙が必要とするコンセンサスは存在しない。
HOTによる有害性
・鼻腔の乾燥とそれに伴う粘膜出血、チューブに足がもつれてしまうことによる転倒、火事などが挙げられる。
HOTに関わる費用
・HOTで使う器械や酸素、メンテナンス費用などは医療保険の対象となる。
・1割負担の場合で約7,700円/月、3割負担の場合で約23,000円/月程度の費用がかかる(2024年04月時点での保険点数を参照)。
・前述したとおり、器械の設置や取り扱いが可能かという観点での検討のほか、経済的負担面での検討も重要なケースもある。
HOTのエビデンス
・HOTに関する、いわゆるランドマークStudyとしてはNOTT試験とMRC試験とが知られる。
・安静時における重度の低酸素血症(PaO2≦55torr、SpO2≦88%)に関して、15時間/日以上の酸素吸入により、2年死亡率および5年死亡率が低下することが知られている。
・安静時における中等度あるいは軽度の低酸素血症のケース(つまり先に示したPaO2よりも高いケース)、および運動時や就寝中のみにおいて低酸素血症をきたすケースでは、HOTの生命予後改善効果は示せず、入院、増悪、QOL、運動能力向上などのアウトカムにおいても改善を示せなかった。
・また、NOTT試験、MRC試験に組み込まれている患者は70歳未満の男性で、重大な合併症がない方が多く、一般化しがたいという言及がなされることもある。
・間質性肺疾患(ILD)などの、COPD以外の慢性肺疾患におけるHOTの有効性についてはエビデンスが不足している面もある。
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<参考文献>
・Ahmadi Z, Björk J, Gilljam H, Gogineni M, Gustafsson T, Runold M, Ringbæk T, Wahlberg J, Wendel L, Ekström M. Smoking and home oxygen therapy: a review and consensus statement from a multidisciplinary Swedish taskforce. Eur Respir Rev. 2024 Jan 31;33(171):230194. doi: 10.1183/16000617.0194-2023. PMID: 38296345; PMCID: PMC10828833.