パルボウイルスB19感染症 parvovirus B19 infection
パルボウイルスB19感染症
<疫学>
・アメリカ、アジア、ヨーロッパで感染率は同程度と推測されている。
・バルボウイルスB19感染症は小児期において特に多いが、成人になった後も感染は生じることはあり、高齢になるまでには多くのケースにおいて血清学的検査で陽性となる。
・温暖な気候であれば、通常は春などに流行が生じやすい傾向にある。
・ウイルスは飛沫感染で主に伝播し、家庭内における二次感染率は非常に高いと推測される。
・潜伏期間は4~14日間程度で、最長21日間程度の報告がある。
<伝染性紅斑(Fifth disease)>
・大抵のパルボウイルスB19感染は無症候性である。
・伝染性紅斑の一般的な症状としては”平手打ちされたような”頬部の紅斑(slapped cheek rash)であり、特に小児期の感染でみられる。皮疹はその後、体幹に出現して四肢に広がりやすい。
・パルボウイルス感染症の初期には発熱とインフルエンザ様症状がみられやすい。そして初感染から1-2週間後に発疹などがみられることがあり、これは皮膚などに免疫複合体が沈着することで生じる現象と考えられていて、この段階で血清学的にパルボウイルスB19に対する抗体(IgMなど)が検出されると考えられている。
・伝染性紅斑における発疹は消退することもあるが、日光や熱、運動などにより再度出現する場合もあり、ときに風疹などと紛らわしいこともある。なお、成人におけるパルボウイルスB19感染症では発疹が目立たないことが多い。
<関節痛>
・小児におけるパルボウイルスB19感染症で発疹が前景に立つことが典型であるのに対して、成人におけるパルボウイルスB19感染症では関節痛が目立つことがあり、関節”炎”をきたしている場合もある。
・対称性の関節痛は通常、手関節、足関節、膝関節に生じ、リウマチ因子(RF)が陽性となることもある。しかし、パルボウイルスB19感染症による関節痛は通常、数週間以内に軽快し、関節破壊に至ることはない。伝染性紅斑における発疹と同様に、パルボウイルスB19感染症における関節痛もまた免疫複合体の沈着が関与していると考えられている。なお、パルボウイルスB19感染症を発症した患者が将来的に関節リウマチを発症しやすくなるとは考えられていない。
<一過性の無形成発作(Transient aplastic crisis)>
・前提としてパルボウイルスB19は赤血球前駆細胞に感染して増殖する性質を有する。
・赤血球破壊が亢進しているような病態(遺伝性球状赤血球症や鎌状赤血球症など)を有するケースにおいて、パルボウイルスB19感染症が合併することにより、赤血球産生が停止することがあり、これにより重篤な貧血を来すことがある(Aplastic crisis)。
・パルボウイルスB19に対する抗体が産生されると、赤血球産生が再開されると考えられ、Transient aplastic crisisはSelf-limitedな病態ではあるが、ときに致死的な貧血を生じさせ、心不全などの合併症を伴う場合もある。なお、Transient aplastic crisisの状態にある患者の骨髄では成熟した赤血球前駆細胞が欠如していることが確認される。
・なお、血小板減少や汎血球減少も、パルボウイルスB19感染症のケースで報告例が存在する。実際、パルボウイルスB19は血球貪食症候群(HPS)を合併することがあるが、通常は良好な転帰を辿る。
<持続的なパルボウイルス感染症>
・抗体が産生されない場合、パルボウイルスB19による持続的な感染が生じることがある。
・持続感染の報告はAIDSが併存するケース、化学療法や免疫抑制剤の投与を受けているケース、臓器移植後のケースなどでなされている。
<胎児水腫>
・妊婦がパルボウイルスB19に感染し、経胎盤感染が生じると、流産や胎児水腫を誘発することがある。
・パルボウイルスは初期の赤血球産生部位である、胎児の肝臓において感染する。胎児水腫は恐らく重度の貧血と心筋炎の結果であり、うっ血性心不全の原因にもなる。
・妊娠中期における感染は胎児水腫の最大のリスクとなり得る。
診断
・パルボウイルスB19感染症の診断は血清学的検査(抗体の検出)によりなされる。
・パルボウイルスB19に対するIgM抗体は伝染性紅斑のほぼ全例で発症時に検出され、Transient aplastic crisis発症から数日以内に検出される。またIgM抗体は感染3~6ヶ月間程度は検出可能なレベルで維持される。なお、パルボウイルスB19に対するIgG抗体は有用性が低い。
治療
・小児および成人におけるパルボウイルスB19感染症のほとんどのケースで、特別な治療は不要で、支持的治療が基本となる。
・関節痛に対してはNSAIDsあるいは短期間に限定したコルチコステロイドを検討可能である。
・入院患者では検討は可能であるが、そういったケースを除けば感染者の隔離は現実的でない。
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<参考文献>
・Young NS, Brown KE. Parvovirus B19. N Engl J Med. 2004 Feb 5;350(6):586-97. doi: 10.1056/NEJMra030840. PMID: 14762186.