輸血 transfusion

製剤毎の分類とその特徴

①赤血球液(RBC:Red blood cells):

 ・1パック2単位(Ir-RBC-LR-2)はヒト血液400mLから白血球および血漿を除去したうえで280mL/2単位となっている。なお、IrはIrradiatedを指し、移植片対宿主病(GVHD)を予防する目的の放射線照射がなされていることを意味している。

 ・緊急時はO型RBCを使用する。

 ・予測されるHb上昇幅(g/dL)は投与Hb量(g)÷循環血液量(dL)で求められる。なお、循環血液量(dL)は70mL/kg×体重(kg)÷100で概算が可能。おおむねRBC2単位で体重50kgの成人のHbは約1.5g/dLほど上昇する

 ・280mL/2単位約17,500円の費用が生じる。

 ・保存可能期間は献血採取日を1日目として、21日間とされている。

 ・投与速度は1単位あたり1~1.5時間程度とすることがあり、心不全などの併存疾患があれば、さらに遅くすることもある。

②血小板濃厚液(PC:Platelet concentrate):

・血漿から白血球を除去して、200mL/10単位となっている。

・緊急時はAB型PCを使用する。

・10単位の輸血により理論上は200÷体重(kg)(万/μL)の血小板増加が期待される。

200mL/10単位約81,000円の費用が生じ、特に高額である。

・保存可能期間は振盪させながら4日間とされている。

 基本的にストックはなく、使用前日に日本赤十字社へ予約し、当日に病院に搬送されて使用可能となる。

・投与速度は10単位あたり30分程度とすることがある。

③新鮮凍結血漿(FFP:Fresh frozen plasma):

・1パック2単位はヒト血液400mLから白血球を除去して、凍結させ、240mL/2単位となっている。

 ・0.9g(38mEq)のNaが含有されている。

 ・緊急時はAB型FFPを使用する。

 ・240mL/2単位約18,500円の費用が生じる。

 ・保存可能期間は180日間とされている。

 ・投与速度は2単位あたり30分程度とすることがある。

④アルブミン製剤:

・製剤としては等張製剤の「アルブミナー5%静注12.5g/250mL(1V)」と、高張製剤の「アルブミナー25%静注12.5g/50mL(1V)」とが存在する。主に等張製剤は循環血漿量の改善を、高張製剤は血漿膠質浸透圧の改善を各々期待して使用する。

3.7mg/mL(160mEq/L)のNaが含有されている。

⑤グロブリン製剤:

・「献血ヴェノグロブリンIH10%静注5g/50mL」として存在する。

・血漿から免疫グロブリンを抽出していて、検出感度以下のHBV、HCV、HIVが混入している可能性がある。

輸血の投与開始基準

輸血開始の目安(トリガー値)が定められていて、本邦では血液製剤の使用指針などが一つの指標として参考にできる。

慢性経過の貧血である場合には高度な貧血であっても必ずしも輸血を要するという判断とならない場合もある。原則として貧血により危急的な転帰を辿り得る場合(心不全の併存など)において輸血の必要性を検討する。

・なお、制限的輸血(Hb 7-8mg/dLを維持)非制限的輸血(Hb 9-10g/dLを維持)とがあり、前者は後者に比して予後を悪化させないことが知られている。ただし、急性経過の出血は確認時点でHbの低下に乏しかったとしても、その後に急激にHb低下を伴う場合もあるため、頻脈や脈圧低下などのバイタルサインの変動のほか、病歴なども加味して総合的に判断することが重要。また、虚血性心疾患、脳血管障害患者に対する制限的輸血のエビデンスは限定的で、輸血開始のトリガー値をHb 8~10g/dLに設定することも検討される場合がある。

<「血液製剤の使用指針」に基づく輸血の投与開始基準>

 ・RBC:ヘモグロビン(Hb) 7~8g/dL

 ・PC:血小板数(Plt) 2~5万/μLで、かつ止血困難なケース

    血小板数(Plt) 1~2万/μLのケース

    重篤になる可能性の高い出血部位が存在する(例えば網膜、中枢神経、肺、消化管)

 ・FFP:PT-INR>2.0

     APTT>基準値上限の2倍

フィブリノーゲン<150mg/dL

 ・アルブミン製剤:エビデンスに乏しい

事前の検査

・緊急的な事象を除き、原則として輸血は血液型検査の後に交差適合試験(クロスマッチ)を行って開始する。交差適合試験の結果を待つ余裕がない場合にはABO同型血で輸血を開始することがある。

・輸血を要する状況に変わることが予測される場合には検査用血液検体を採取し、ABO血液型とRho(D)抗原の判定を行っておく。

・なお、万が一の患者の取り違い事象を回避するために、交差適合試験に使用する血液検体は、血液型検査用の血液検体とは別に採取したものを利用する

交差適合試験用の検体(血漿および血清)は原則として輸血予定日に先立つ3日以内のものを使用することとされている。したがって、例えば連日などの頻度で輸血を受けているケースにおいては少なくとも3日ごとの検査用検体の提出が必要となる。

輸血関連合併症

・輸血により、溶血反応、アレルギー反応(アナフィラキシーを含む)、鉄過剰症、高カリウム血症、各種感染症、TRALI(輸血関連急性肺障害)、TACO(輸血関連循環過負荷)、輸血後GVHDなど、種々の合併症を起こす可能性が生じる。

・なかでもTRALI、溶血反応、TACOは輸血を受けた患者における、比較的頻度の高い死亡原因とされている。

・輸血開始10分程度以内に生じることが典型なものとして、溶血反応アナフィラキシーとが挙げられる。

 <溶血反応>

 ・ABO不適合輸血による血管内溶血が多くを占める。

 ・死亡率20%程度という報告もある。

 <輸血関連急性肺傷害(TRALI)>

・輸血関連急性肺傷害(TRALI: Transfusion-related acute lung injury)はFFP輸血やPC輸血により生じる非心原性肺水腫で、輸血中あるいは輸血6時間以内に生じる。

・TRALIの発症を疑えば、すぐに輸血を中止する。

・アナフィラキシーなどの他の要因を除外し、治療はARDSに準じる。

 <輸血関連循環過負荷(TACO)>

・輸血関連循環過負荷(TACO: Transfusion-associated circulatory overload)は多量の輸血による量負荷や、急速投与による速度負荷により、輸血中あるいは輸血6時間以内心原性肺水腫に至る状態を指す。

・心機能や腎機能などを総合的に勘案して、投与量や速度を調整することが大切である。

大量出血時の輸血(MTP:Massive transfusion protocol))

・たとえば循環血液量減少ショックが生じ、初期輸液療法に反応しない場合や、重症度が高いことが明らかな場合においては、初期輸液療法の評価を待たずに輸血を急ぐことがある。このとき大量出血により血小板や凝固因子も同時に多く失われるため、輸液やRBCのみでは希釈性の凝固障害が生じてしまう場合がある。このことを予防する観点で、RBCに加え、同時に十分量にFFPやPCを投与することが大切であり、RBC:FFP:PC=1:1:1程度となるようにすることがある。なお、前述のように血液型判定などを待つ時間的猶予がない場合にはO型RBC、AB型FFP、AB型PCを選択することとなる。ただし、異型輸血を実施した際には投与後の溶血反応などに注意しながら観察をする。

・急性期にはHb 10g/dL、Fib 150-200mg/dL程度を目標に輸血を行う場合もある。

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<参考文献>

・厚生労働省医薬・生活衛生局. 血液製剤の使用指針. 2019.

・Carson JL, Stanworth SJ, Dennis JA, Trivella M, Roubinian N, Fergusson DA, Triulzi D, Dorée C, Hébert PC. Transfusion thresholds for guiding red blood cell transfusion. Cochrane Database Syst Rev. 2021 Dec 21;12(12):CD002042. doi: 10.1002/14651858.CD002042.pub5. PMID: 34932836; PMCID: PMC8691808.

・Vlaar APJ, Dionne JC, de Bruin S, Wijnberge M, Raasveld SJ, van Baarle FEHP, Antonelli M, Aubron C, Duranteau J, Juffermans NP, Meier J, Murphy GJ, Abbasciano R, Müller MCA, Lance M, Nielsen ND, Schöchl H, Hunt BJ, Cecconi M, Oczkowski S. Transfusion strategies in bleeding critically ill adults: a clinical practice guideline from the European Society of Intensive Care Medicine. Intensive Care Med. 2021 Dec;47(12):1368-1392. doi: 10.1007/s00134-021-06531-x. Epub 2021 Oct 22. PMID: 34677620; PMCID: PMC8532090.

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