急性膵炎 acute pancreatitis

急性膵炎の原因

・複数ある原因のうち、胆石およびアルコール多飲は一般的な原因である。

・アルコール性膵炎の発症には長期間のアルコール使用が必要。アルコール摂取過多のケースにおける膵炎の生涯発症率は全体で2~5%程度と推定される。また、多くのケースで既に慢性膵炎を発症している。アルコールが急性膵炎を発症させる機序は複雑で、直接的な膵毒性と、免疫学的機序との両者が関与する。なお、摂取したアルコールの種類は関係しづらい

・薬剤性膵炎は全症例の5%未満に相当する。特に関係性が示唆される薬剤としてはアザチオプリン、バルプロ酸、ACE阻害薬、メサラジンなどが挙げられる。薬剤性膵炎は通常、軽症である。

・高TG血症により膵炎を発症する場合もあり、その場合は空腹時採血での血清TG値>1,000mg/dLであることが典型である。

・自己免疫的機序で膵炎を発症する場合もあり、閉塞性黄疸IgG4の上昇、ステロイド治療に対する反応性などが特徴となることもある。

・感染性の場合はCMV、ムンプス、EBV感染症によるものの頻度が比較的高い。

・医原性としてはERCP後の膵炎がよく知られている。

・急性膵炎の原因は特定できないことも多く、特発性急性膵炎と考えられる患者の割合は年齢とともに増加する。原因不明と考えられる膵炎のなかには遺伝子多型、喫煙を含む何らかの曝露因子による影響などの関与が想定される。

病的肥満および2型糖尿病は急性膵炎のリスクを増加させ、特に2型糖尿病患者では発症リスクが2~3倍増加することが知られている。

診断と分類

 <診断基準>

・以下3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する。ただし、慢性膵炎の急性増悪は急性膵炎に含める。

  • 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある
  • 血中または尿中に膵酵素の上昇がある
  • 超音波、CTまたはMRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある

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全身合併症としては臓器不全(呼吸不全、心不全、腎不全)や併存疾患の増悪(COPD、心不全、慢性肝疾患など)がある。

局所合併症としては膵周囲液体貯留、仮性嚢胞、膵壊死、被包化壊死(WON)などがある。また、静脈系の合併症として上腸間膜静脈(SMV)、脾静脈、門脈における血栓形成が知られている。

・臓器不全の持続と、感染性膵壊死との両者が併存する場合は死亡率が最も高い。

重症度判定

・以下の指標において「予後因子≧3点以上」または「造影CT Grade 2以上」が重症

<A.予後因子(各1点)>

  1. BE≦−3mEq/L, またはショック(sBP≦80mmHg)
  2. PaO2≦60mmHg(room air), または呼吸不全(人工呼吸管理が必要)
  3. BUN≧40mg/dL(or Cr≧2mg/dL), または乏尿(輸液後も1日尿量が400mL以下)
  4. LDH≧基準値上限の2倍
  5. 血小板数≦10万/mm3
  6. 総Ca≦7.5mg/dL
  7. CRP≧15mg/dL
  8. SIRS診断基準における陽性項目数≧3
  9. 年齢≧70歳

<B.造影CT Grade>

<1.炎症の膵外進展度>

  ・前腎傍腔:0点

  ・結腸間膜根部:1点

  ・腎下極以遠:2点

<2.膵の造影不良域>

  膵臓を3つの区域(膵頭部, 膵体部, 膵尾部)に分けて判定。

  ・各区域に限局している場合, または膵の周辺のみの場合:0点

  ・2つの区域にかかる場合:1点

  ・2つの区域全体を占める, またはそれ以上の場合:2点

・上記1および2のスコアを足して、

  ・1点以下:Grade 1

  ・2点:Grade 2

  ・3点以上:Grade 3

Pancreatitis Bundles 2021

・急性膵炎では特殊な状況以外では原則的に以下の全ての項が実施されることが望ましく、実施の有無を診療録に記載する。

  1. 急性膵炎診断時, 診断から24時間以内, および24~48時間の各々の時間帯で, 厚生労働省重症度判定基準の予後因子スコアを用いて重症度を繰り返し評価する。
  2. 重症急性膵炎では診断後3時間以内に適切な施設への移送を検討する。
  3. 急性膵炎では診断後3時間以内に病歴、血液検査、画像検査などにより、膵炎の成因を鑑別する。
  4. 胆石性膵炎のうち、胆管炎合併例、黄疸の出現または増悪などの胆道通過障害の遷延を疑う症例には早期のERCP+ESTの施行を検討する。
  5. 重症急性膵炎の治療を行う施設では造影可能な重症急性膵炎症例では初療後3時間以内に造影CTを行い、膵造影不良域や病変の拡がりなどを検討し、CT Gradeによる重症度判定を行う。
  6. 急性膵炎では発症後48時間以内はモニタリングを行い、初期には積極的な輸液療法を実施する。
  7. 急性膵炎では疼痛のコントロールを行う。
  8. 軽症急性膵炎では予防的抗菌薬を使用しない
  9. 重症急性膵炎では禁忌がない場合には診断後48時間以内に経腸栄養(経鼻でも可)を少量から開始する。
  10. 感染性膵壊死の介入を行う場合にはステップアップ・アプローチを行う。
  11. 胆石性膵炎で胆嚢結石を有する場合には膵炎沈静化後胆嚢摘出術を行う。

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・Pancreatitis Bundlesを7項目あるいは8項目以上遵守した場合は致命率が低かったという2016年の本邦における全国調査の結果が示されていて、Bundleの実施がガイドラインでは推奨されている(強い推奨, エビデンスの確実性:低)。

・本文中に含まれる「ステップアップ・アプローチ」は感染性膵壊死の存在が疑われるケースで検討する。ドレナージが必要であれば発症から4週間以内でも可能であるが、ネクロセクトミーは可能であれば発症から4週間以上経過し、壊死が完全に被包化されWON(被包化膵壊死)となってから行うことが望ましい。全身状態が安定していれば、保存的治療の継続も検討される場合がある。

・なお、「診断時」「診断から24時間以内」「診断から24~48時間以内」に予後因子スコアを用いた重症度判定を繰り返すことが推奨されている。たとえば最初の48~72時間の間に、Cre値やHt値が上昇したり、十分な輸液蘇生を行ってもSIRSが続いたりするようなケースでは重症膵炎がさらに進行していることも懸念される。

マネジメント

 <輸液療法>

・急性膵炎では著明なサードスペースへの体液移動、循環血液量減少が生じる。最初の24時間に積極的な輸液を行うことが死亡率の低下に繋がることを示唆するレトロスペクティブ研究があり、現在のガイドラインでは早期かつ積極的な輸液が支持されている。

・積極的な輸液は症状発現後12~24時間において特に重要で、24時間以降において利益が小さいと考えられている。晶質液の投与は1時間あたり200~500mL、または1時間あたり5~10mL/kg程度を目安に行うこが推奨されていて、通常、最初の24時間以内に2,500~4,000mLとなることが多い。

・輸液療法のデメリットは体液貯留のリスクが上昇することである。過剰な輸液は腹部コンパートメント症(ACS)、敗血症、死亡のリスクを高める。したがって、輸液療法は循環血液量減少の程度と、心機能や腎機能も加味して実施する必要があり、忍容性に応じて積極的な輸液療法を選択することとなる。過剰輸液を回避するための指標としてはBUN、Ht、中心静脈圧、心拍数、血圧、尿量などが挙げられるが、いずれも単独での利用は信頼性に欠け、複数の指標を用いた総合的判断が重要。

 <栄養療法>

・経腸栄養は感染予防策として重要で、非経腸栄養と比較して、膵感染と関連した合併症発症率、多臓器不全の合併率を低下させることが知られている。なお、経腸栄養は発症早期に開始することが推奨され、特に入院後48時間以内に少量からであっても開始することが推奨される。

・臓器不全や局所合併症がないような、軽症の急性膵炎では仮に疼痛が完全に消失がなく、膵酵素が基準値内に復帰していなくても、経口摂取を早期から進めることが推奨され、低脂肪食を開始することが多い

・経管栄養(経鼻投与が一般的)は症状が重篤な場合や経口摂取が困難な場合に選択される。なお、RCTおよびメタ解析により、経管での胃内への栄養投与と、十二指腸への栄養投与とでは臨床的に同等であることが示されている。

・経静脈栄養はあくまで経口摂取ができず、経管栄養にも忍容性が乏しいと考えられるケースで検討することとなる。

 <抗菌薬治療>

・感染性膵壊死の発症は死亡リスクの上昇をもたらすが、RCTやメタ解析によると予防的抗菌薬治療の有益性は示されていない。

あくまで感染が疑われるか、感染が確認されない限り、急性膵炎の成因や重症度によらず、予防的抗菌薬治療は推奨されない

 <内視鏡治療>

・ERCPは主に胆石性膵炎の患者に実施され、胆石性膵炎に合併する胆管炎を疑う所見がある際に実施される。

・ERCPはそういった所見がない限りは有益とはいえない。

 <液体貯留や壊死に対する治療>

・急性膵周囲液体貯留は治療の必要はないと考えられている。

・症候性の膵仮性嚢胞は主に内視鏡的治療が検討される。

・壊死性膵炎には膵壊死および膵周囲脂肪壊死が含まれ、4週間以上経過すると被包化壊死に至る場合もある。無菌性の膵壊死は周囲の臓器に影響を及ぼさない限り(例:十二指腸や胆管などの閉塞)、治療対象とならない。

・一方で、感染性膵壊死は治療が必要である。感染性膵壊死は膵炎発症2週間以内での発症は頻度としては低い。感染の起因菌は通常、単一菌によって生じ、GNR、Enterobacter属、ブドウ球菌を含むグラム陽性菌が関与する場合がある。発熱、WBC増多、腹痛などで想起され、CTでは壊死腔にAirの存在がみられる場合がある。治療は抗菌薬治療を行い、全身状態が安定しない場合にはドレナージを検討する場合がある。

 <PPIの投与>

・急性膵炎に対してルーチンでのPPI投与は行わないことが推奨されている

・ただし、急性胃粘膜病変や胃十二指腸潰瘍などの上部消化管出血を合併するケースにおいてはPPIの投与を考慮する必要がある。

・本邦におけるDPCデータを用いた約10,000人の重症膵炎のケースを対象にした検討で、PPI投与と致命率との検討がなされ、PPIの使用は致命率に影響を与えていなかったことが示唆されている。ただし、PPIの使用に関して、致命率以外のアウトカムについて検討した報告はない。

 <蛋白分解酵素阻害薬の投与>

・急性膵炎において蛋白分解酵素阻害薬による生命予後および合併症発生に対する改善効果は示されていない。メタ解析では膵炎の致命率、仮性嚢胞や腹腔内膿瘍の発生率に影響を与えないことが示された。

・また、在院日数を短縮させる有効性も示されておらず、重症膵炎のみの検討でも有用性は示されていない

急性膵炎の長期的影響

・急性膵炎の発症後、膵の外分泌および内分泌機能の障害が20~30%程度の患者でみられ、おおむね1/3~1/2の患者で慢性膵炎に移行する。

・慢性膵炎への移行や、急性膵炎の再発のリスクは初回の発作の重症度、膵壊死の程度、急性膵炎の原因などによる。特に長期にわたるアルコール摂取過多、喫煙は慢性膵炎への移行リスクを大きく高める。

再発予防

胆嚢摘出術により胆石性膵炎の再発防止が図れる。

・手術適応にない患者に対して、内視鏡的乳頭括約筋切開術を行うことで、胆石性膵炎の再発リスクは減少するが、その後の急性胆嚢炎や胆道仙痛のリスクは減少しない可能性が指摘されている。

・アルコール関連膵炎の場合はその後も飲酒を続けることで、膵炎の再発、あるいは慢性膵炎への移行が生じるリスクが高い。禁酒によりそのリスクは大きく軽減可能。また、喫煙もともにリスク因子であるため、禁煙を進めることは重要

・高TG血症による膵炎の場合は脂質異常症に対する治療により膵炎を予防することが可能。

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<参考文献>

・Forsmark CE, Vege SS, Wilcox CM. Acute Pancreatitis. N Engl J Med. 2016 Nov 17;375(20):1972-1981. doi: 10.1056/NEJMra1505202. PMID: 27959604.

・急性膵炎診療ガイドライン2021 第5版 金原出版株式会社

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