SAPHO症候群
SAPHO症候群とは
・滑膜炎(Synovitis)、ざ瘡(Acne)、膿疱(Pustulosis)、骨肥厚(Hyperostosis)、骨炎(Osteitis)の頭文字をとってSAPHO症候群と呼び、主に骨関節症状と皮膚症状により特徴づけられる。1987年にChamotらにより初めて提唱されたスペクトラム疾患といえる。
・特に骨炎、骨過形成の病態が中核を形成し、ときに不可逆的な骨関節障害に至る。
・ほとんどのSAPHO症候群で皮膚病変がみられ、それは主に掌蹠膿疱症、重度のざ瘡として表現される。全身症状がみられないわけではないが、頻度としては稀である。
・日本人の年間有病率は10万人あたり0.00144人に相当。
・正確な病態生理は判明していないが、自己免疫学的機序、感染症の関与などが想定されている。
・胸肋鎖骨過形成症(SCCH)、慢性再発性多発骨髄炎(CRMO)、慢性非感染性骨髄炎(CNO)などもSAPHO症候群の一表現型という見方もある。
臨床像
・前述のように骨炎、骨過形成が中核的な症状に相当し、一般的には複数箇所に影響を及ぼす。最もよく侵される部位としては前胸壁(頻度として65~90%)で、その後に体軸関節(脊椎、仙腸関節を含む)、四肢の長管骨、下顎骨などが次ぐ。
・前胸壁については胸鎖関節、胸肋関節、肋鎖靱帯が侵されやすい。
・患者の32~52%が体軸関節病変を有し、脊椎や殿部の疼痛として自覚される。体軸関節の症状を有する患者群では通常、より重症度が高く、積極的な治療の適応となりやすい。
・末梢骨、末梢関節病変はSAPHO症候群の65~83%程度でみられる。
・ほとんどのケースで皮膚病変がみられ、主に掌蹠膿疱症や重度なざ瘡を伴う。掌蹠膿疱症は乾癬の特殊型として認識されていて、慢性経過かつ再発性で、無菌性の小膿疱、小水疱が特徴的である。中国人を対象としたコホート研究では94.6%で皮膚病変がみられ、そのうち91.9%が掌蹠膿疱症で、14.3%が重症ざ瘡、15.8%が尋常性乾癬であった。
・発熱や炎症性マーカーの上昇などの所見は稀であるが、ときに伴う。
・その他の関節外症状として、炎症性腸疾患、肺疾患、静脈血栓症(最も頻度が高いのは鎖骨下静脈血栓症)、硬膜肥厚、ぶどう膜炎などを合併することがある。
診断
・診断方法を示すようなガイドラインは存在しない。
・Kahnらにより1994年に提唱されて、2003年に改定された診断基準も利用可能。
<Kahnらによる診断基準(2003年改定)>
・以下の5つのうちの1つ以上に該当すること。
- 掌蹠膿疱症、尋常性乾癬に伴う骨関節病変
- 重度のざ瘡に伴う骨関節病変
- 無菌性骨過形成症/骨炎
- 慢性再発性多巣性骨髄炎(CRMO, 小児)
- 慢性腸疾患に伴う骨関節病変
※なお、感染性骨炎、骨腫瘍、非炎症性骨関節病変を除外すること。
主な鑑別診断
・滑膜炎(Synovitis)に関する主な鑑別疾患:関節リウマチ(RA)、脊椎関節炎(SpA)
・ざ瘡(Acne)に関する主な鑑別疾患:Behçet病、PAPA症候群
・膿疱(Pustulosis)に関する主な鑑別疾患:Sneddon-Wilkinson症候群、Sonozaki症候群、膿疱性乾癬、乾癬性関節炎(PsA)
・骨肥厚(Hyperostosis)に関する主な鑑別疾患:びまん性特発性骨過形成症(DISH)
・骨炎(Osteitis)に関する主な鑑別疾患:慢性細菌性骨髄炎、Ewing肉腫、骨肉腫、転移性骨腫瘍、Paget病
血液検査
・炎症反応(CRP、赤沈(ESR)など)の上昇は疾患の活動期においてみられやすい。
・IgG4の上昇はSAPHO症候群の23%でみられるという報告があり、高い疾患活動性と関連する。
画像検査
・画像検査としてはX線撮影、CT撮像、MRI撮像、骨シンチグラフィー、PET-CTなどが挙げられる。
・X線撮影、CT撮像では骨肥大所見や骨炎を評価できる場合がある。X線撮影では長管骨の変化を捉えられる。またX線撮影では捉えきれない骨関節病変をCT撮像で検出できる。また胸鎖靱帯付着部の骨過形成をCT撮像で明瞭に示すことができる。
・MRI撮像で疾患初期および活動期における評価はCT撮像よりも優れる。骨髄浮腫所見(T1WIで低信号、T2WI、DWIで高信号)は疾患活動性が高いことを反映する場合がある。
・骨シンチグラフィーでは複数の骨関節病変を一度に把握することができる利点がある。特に胸鎖関節、胸骨角における高い取り込み像はSAPHO症候群に特徴的といえる。ただし、骨シンチグラフィーは疾患活動性の評価には適しているとはいえない。
・PET-CTは骨転移との区別に有用な場合がある。PET-CTが疾患活動性の評価に適しているかどうかはさらなる検討が必要な状況にある。
治療
・現在まででSAPHO症候群の治療に関する研究の多くは症例報告、ケースシリーズ、コホート研究によるもので占められ、RCTに基づくエビデンスは不足している。したがって、コンセンサスの得られた治療はないことが前提となる。
・治療の第一目標は骨痛や皮疹などの臨床症状の改善である。第二に治療により関節病変の進行や関節機能の低下を遅らせ、長期的にQOLを保つことである。
・現在までに検討される治療薬としてはNSAIDs、csDMARDs、ステロイド、ビスホスホネート製剤、生物学的製剤(抗TNF-α抗体製剤など)、抗菌薬がある。
・NSAIDsはSAPHO症候群の症状管理において第一選択とされていて、速やかに効果を示すことが多い。しかし、骨炎が広範な場合にはNSAIDs単独では限定的な症状緩和に留まる場合もある。
・csDMARDsは第二選択薬の位置を占める。csDMARDsによる治療反応性は個人差が大きい。末梢の関節病変があり、体軸関節病変が比較的少ないケースではMTXが有効である場合がある。しかし、骨炎、骨髄炎などに関するMTXの有効性は不明である。
・ステロイドは即効性があるが、一時的な効果に留まる。皮膚病変を治療する際には再発が生じる傾向もあり、その場合は以前よりもさらに重症度が高まることもあるようである。
・ビスホスホネート製剤は破骨細胞の活性を抑制させ、抗炎症作用を発揮する。SAPHO症候群においては特にパミドロン酸の静脈投与の有効性が報告されていて、骨痛と皮膚病変の両方が部分的に、または完全に寛解したという報告もある。
・生物学的製剤については特に抗TNF-α抗体製剤使用の報告が多い。インフリキシマブ、アダムリマブによる治療は骨関節病変および皮膚病変に対して有効性が証明されている。しかし、抗TNF-α抗体製剤による治療中に新たな皮膚病変を発症する報告もある。抗IL-6薬であるトシリズマブの使用はある程度の有効性が示されているが、一方で病変の悪化や伸展といった報告例も少なくない。現時点ではトシリズマブはSAPHO症候群に対する薬剤としては慎重な姿勢をとるべきである。
・抗菌薬については特に重度のざ瘡がSAPHO症候群の誘引となるという説に基づき、使用が検討される場合がある。テトラサイクリン系抗菌薬、CLDM、AZMはざ瘡の一部の症例に有効と報告されるが、他の症状に対してはほとんど有効性がない。
予後
・SAPHO症候群は典型的には再発寛解型の経過を辿る。そして、新たな皮膚病変や骨関節症状が出現し、長期化する場合もある。
・SAPHO症候群の予後は一般的に良好であるが、椎体あるいは鎖骨に病的骨折を有する患者の予後は楽観視できないこともある。
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<参考文献>
・Liu S, Tang M, Cao Y, Li C. Synovitis, acne, pustulosis, hyperostosis, and osteitis syndrome: review and update. Ther Adv Musculoskelet Dis. 2020 May 12;12:1759720X20912865. doi: 10.1177/1759720X20912865. PMID: 32523634; PMCID: PMC7236399.