トルソー症候群 Trousseau syndrome

Trousseau症候群とは

・Trousseau症候群(トルソー症候群)は1865年にArmand Trousseauにより初めて報告された。

・現在は”がん関連血栓症”として認識されていて、担癌患者では血液過凝固状態にあることが発症に関連していると考えられている。

臨床所見

・Trousseau症候群には深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症(PE)、非細菌性心内膜炎に伴うDIC、動脈血栓症が含まれ、なかでも最も頻度が高いのは静脈血栓塞栓症(VTE)とされています(※VTEはDVTとPEとが含まれる概念)。

・VTEはがん患者の4~20%に合併すると報告されている。

・NBTEは心臓のいずれの弁にも生じ得るが、特に僧帽弁、大動脈弁に生じやすい。なお、特に肺腺癌、肺扁平上皮癌におけるNBTEの発症率は各々13%、8.6%とされていますが、肺小細胞癌では稀とされる。

・動脈血栓症は特に上肢、下肢、脳動脈での報告が多い。大脳上皮には凝固促進因子であるトロンポプラスチンが比較的多く分布することなどにより、脳動脈が侵されやすいと考えられています。

リスク因子

・病態生理は完全に解明されているわけではない。

・一般的な血栓症のリスク因子でもある、高齢、寝たきり、血栓症の既往、肥満などもTrousseau症候群のリスク因子に相当する。

・また、抗がん剤治療が血栓症リスクを高めることも知られている。なかでも、白金製剤、ホルモン剤、タモキシフェン、G-CSF製剤などが血栓症のリスクを高め得る。

・悪性腫瘍のなかでも、脳腫瘍、血液腫瘍、膵癌、胃癌、卵巣癌、子宮癌、肺癌、腎細胞癌などの腺癌において、VTE発症リスクが最も高い。また進行した転移性腫瘍は、転移を伴わない腫瘍に比較してVTEのリスクが高い。

・また、Khoranaスコア≧3点のハイリスク患者では予防的抗凝固療法も検討可能という報告もある。ただし、台湾人のデータをもとに作成されたClinical prediction ruleであり、全てのアジア人にも適用可能かどうかの吟味は不十分かもしれず、そのことに留意することが望ましい。特にアジア人は出血リスクが比較的高いことにも留意することが大切です。

マネジメント

・急性VTE患者に対する初期治療は、悪性腫瘍が併存していないケースと治療方針は変わらない。治療法としては低分子ヘパリン、未分画ヘパリン、フォンダパリヌクス、ワルファリン、DOACなどが選択肢に上がる。未分画ヘパリンと比較して、低分子へパリンは、出血のリスクを増加させることなく、治療3ヶ月後の死亡率を統計学的に有意に減少させるというエビデンスも存在するが、日本では流通の関係性などで低分子ヘパリンは治療の選択肢とはならない。

・非癌患者と比べて、担癌患者では悪性腫瘍そのものに起因する大出血の発生率が比較的高いことにも留意する必要がある。そして、血栓塞栓症の再発リスクも担癌患者の方が高いことが知られている。

・なお、ワルファリンも急性VTEの長期管理にも使用されることがある。ただし、ワルファリンの有効性は十分とはいえない面もあり、PT-INRが至適範囲に維持されていても、癌患者における再発リスクは非癌患者の約3倍とされている。

・DOACは癌患者のVTE治療、再発予防に有効である。DOACはワルファリンよりも薬物相互作用などが少なく、PT-INRのモニタリングも不要であり、使用しやすい。リバーロキサバン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)は初回から内服での治療も可能。エドキサバン(リクシアナ)は急性期の未分画ヘパリン治療の後に利用することが一般的。

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<参考文献>

・Ikushima S, Ono R, Fukuda K, Sakayori M, Awano N, Kondo K. Trousseau's syndrome: cancer-associated thrombosis. Jpn J Clin Oncol. 2016 Mar;46(3):204-8. doi: 10.1093/jjco/hyv165. Epub 2015 Nov 6. PMID: 26546690.

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