傍腫瘍性症候群 paraneoplastic syndrome

傍腫瘍性症候群とは

傍腫瘍性症候群(Paraneoplastic syndrome)とは一般的に、悪性腫瘍を背景に産生されるホルモンやペプチドによる代謝異常で種々の症状が誘発される症候群である。

・根本的な治療は悪性腫瘍に対する治療を行うことと考えられている。

SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)

・SIADHは低張性低ナトリウム血症を特徴とし、がん患者の1~2%で合併する。

・ときに評価は容易でないが、他疾患との鑑別に体液量の評価は重要。SIADHでは体液量が正常であること(euvolemic)が典型であるが、吸収不良症候群、過剰な利尿状態、副腎機能不全、塩類喪失性腎症(RSWS)、中枢性塩類喪失症候群(CSWS)などの疾患では体液量が減少していること(hypovolemic)が典型である。

・そのほか、SIADHらしい検査所見としては低ナトリウム血症が存在するにも関わらず、ADHが検出感度を超えていること、血清BUN低値(概ね10mg/dL未満)、血清尿酸低値、尿中Na濃度高値(>40mmol/L)、尿浸透圧>100mOsm/kgなどが挙げられる。

・低ナトリウム血症の程度や尿中排泄の程度にもよるが、一般的には1,000mL/日 未満程度での水分制限を行うことがある。

高カルシウム血症

・がん患者でみられる高カルシウム血症の約80%は腫瘍産生性のPTHrPによる影響と考えられおり、主に扁平上皮がんでみられやすい。

・稀に特定のリンパ腫によるビタミンD産生や、PTHの異所性産生の影響で高カルシウム血症がみられることがある。

・可能であれば、高カルシウム血症の原因となる薬剤(サイアザイド系利尿薬、活性型ビタミンD製剤など)は中止する。

・支持療法としてはまずは細胞外液による腎排泄促進を優先する。また、ゾレドロン酸などのビスホスホネート製剤(BP製剤)を使用する場合もあるが、即効性には乏しく、投与数日以内に効果が発揮されることとなる。なおBP製剤による破骨細胞の骨吸収阻害作用は最大で3週間程度続く場合がある。

・また、リンパ腫や骨腫瘍性細胞を背景にした高カルシウム血症では副腎皮質ステロイドが有効な場合もある。この場合のステロイド治療では腫瘍に対する直接的な効果のほか、消化管でのカルシウム吸収を抑制することを期待している。

Cushing症候群

・Cushing症候群の約5~10%は腫瘍随伴性であり、腫瘍随伴性のCushing症候群の約50~60%は神経内分泌腫瘍(肺小細胞がん、気管支カルチノイド)により生じる。

・SIADHや高カルシウム血症とは異なり、癌と認識される前に、Cushing症候群の症状を呈する場合があることが知られている。

・臨床的には高血圧症、低カリウム血症、筋力低下、全身性の浮腫などが特徴。

中心性肥満は非腫瘍性のCushing症候群において、より一般的とされていて、腫瘍性ではみられにくい

・検査所見としてはベースラインの血清コルチゾール値が29μg/dLを超え、尿中遊離コルチゾール値が47μg/24hrを超えることが典型とされる。

・腫瘍随伴性Cushing症候群(=異所性Cushing症候群)と下垂体性Cushing症候群とを区別するためには高用量デキサメタゾン試験が有用で、そのほかCT撮像なども加味して判断する。

・原則通り、原疾患である悪性腫瘍に対する治療は行うことが望ましいが、それに加えてステロイド産生を阻害させるための治療を加えることがある。具体的にはケトコナゾール、ミトタン、メチラポンなどが選択され得る。

低血糖

・腫瘍随伴性低血糖症は頻度としては稀。

・主にインスリン産生性膵がん非膵島細胞腫瘍により生じる。後者により生じる低血糖症をNICTH(Non-islet cell tumor hypoglycemia)と呼ぶ。

・NICTHは主に腫瘍細胞がIGF-2を産生することにより生じ、低血糖発作時の血液検査で、血清インスリン低値(<1.44~3.60μIU/mL)、血清Cペプチド低値(<0.3ng/mL)、GHおよびIGF-1低値などを特徴とする。

・一方で、インスリノーマでは血清インスリン、血清Cペプチドは上昇することが典型。

・NICTHにおいても原則通り、原疾患である腫瘍に対する治療が根本治療となる。慢性経過の低血糖エピソードに対しては、コルチコステロイドなどの薬物治療なども検討は可能。

腫瘍随伴性神経症候群

・腫瘍随伴性神経症候群(PNS:Paraneoplastic neurologic syndromes)は腫瘍細胞と神経系細胞との間の免疫学的な交差反応で生じると考えられている。

・悪性腫瘍に対する治療が成功しても必ずしも神経学的所見の改善がみられるとは限らない

・PNSは稀で、がん患者全体の1%未満で生じる。ただし、特定の悪性腫瘍においてPNSの発生率は高いことが知られている。たとえば、肺小細胞がんの最大5%、リンパ腫あるいは骨髄腫患者の最大10%で、PNSを発症する。そのほか、神経芽腫、奇形腫、胸腺腫などでもPNSがみられることがある。

・PNSは障害部位別で、中枢神経系(例:辺縁系脳炎、腫瘍随伴性小脳変性症)神経筋接合部(例:Lambert-Eaton症候群(LEMS)、重症筋無力症(MG))末梢神経系(例:自律神経障害、亜急性感覚神経障害)に影響を及ぼし得る。

・PNSの診断には血清学的検査(特異的抗体など)、画像検査、脳波検査、神経伝導検査、筋電図検査、脳脊髄液検査などが検討可能。PNSと考えられる患者の約30%では血清検査、髄液検査のいずれにおいても抗体が検出されない。

・抗体としては抗CV2抗体、抗Ma2抗体、抗Ri抗体、抗Yo抗体、抗VGCC抗体、抗AchR抗体などが知られている。

・原疾患に対する治療のほか、免疫抑制治療(ステロイド、免疫抑制薬など)、リツキシマブ、IVIG、血漿交換などを検討する場合もある。

・各論的な内容は参考文献のTable 2によくまとめられている。

腫瘍随伴性皮膚/リウマチ症候群

・皮膚およびリウマチ性の腫瘍随伴性症候群の多くは、悪性腫瘍を伴わずに発症することも多い。

・各論的な内容は参考文献のTable 3によくまとめられている。たとえば、リウマチ性多発筋痛性(PMR)を臨床的に疑った場合には腫瘍随伴性症候群の可能性も同時に想定することが多いが、特に白血症、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群(MDS)、大腸がん、肺がん、腎細胞がん、前立腺がん、乳がんが関係することがあることが記載されている。

黒色表皮腫は主に腋窩頚部の肥厚した色素沈着で特徴である。黒色表皮腫は非がん患者で特にインスリン抵抗性を有する患者にみられやすいが、がんでは特に胃がん(腺癌)でみられやすいことが知られている。

皮膚筋炎では近位筋の筋力低下や、上眼瞼のヘリオトロープ疹、ゴットロン丘疹などで特徴づけられるが、がんでは特に乳がん、卵巣がん、肺がん、前立腺がんでみられやすい。診断にはCK上昇、筋電図検査、筋生検が検討される。

肥大性骨関節症(HOA)は長管骨に骨膜下吸収像がX線撮影で確認され、慢性経過の関節腫脹、関節痛などを特徴とする疾患である。約90%が腫瘍随伴性で、他には肺線維症、心内膜炎、バセドウ病、炎症性腸疾患などに関連して発症することが知られている。

白血球破砕性血管炎は主に血液悪性腫瘍、肺がん、消化管がん、尿路がんでみられやすい。白血球破砕性血管炎は病態として、循環する腫瘍関連抗原に対して、小血管の免疫複合体の沈着が生じ、炎症を惹起することに起因すると考えられている。ただし、白血球破砕性血管炎の多くは腫瘍随伴性ではないため、病理学的に証明された後の、年齢相応なレベルを超えた悪性腫瘍のスクリーニングは一般的には推奨されない

腫瘍随伴性天疱瘡では主に有痛性の粘膜障害、手掌/足底/体幹の多形性発疹により特徴づけられる。一般的にはB細胞性リンパ腫で合併しやすい。

Sweet症候群の20%は腫瘍随伴性に発症して、特に急性骨髄性白血病をはじめとした血液悪性腫瘍に関連することが多い。固形がんでは乳がん、泌尿器/生殖器がん、消化器がんでみられやすい。Sweet症候群では顔面/体幹/四肢に有痛性の皮疹がみられ、好中球増多、発熱を伴うことがある。

腫瘍随伴性血液症候群

好酸球増多では腫瘍に起因するサイトカインにより生じることがある。その他に二次性好酸球増多の原因にはアレルギー性、寄生虫感染、リウマチ性疾患などが挙げられ、必要に応じて鑑別を要する。腫瘍随伴性であれば、特に血液悪性腫瘍、肺がん、消化器がん、婦人科がんでみられやすい。

顆粒球減少の10%は腫瘍随伴性と考えられていて、主に肺がん(特に肺大細胞がん)、脳腫瘍、消化管がん、乳がん、腎がん、婦人科がんと関連しやすい。

血小板増多は一般的には感染症、脾摘後、鉄欠乏性貧血などでみられ得る。腫瘍随伴性の場合は消化管がん、乳がん、婦人科がん、リンパ腫、腎がん、前立腺がん、膠芽腫、頭頚部がん、悪性中皮腫が関連しやすい。

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<参考文献>

・Pelosof LC, Gerber DE. Paraneoplastic syndromes: an approach to diagnosis and treatment. Mayo Clin Proc. 2010 Sep;85(9):838-54. doi: 10.4065/mcp.2010.0099. Erratum in: Mayo Clin Proc. 2011 Apr;86(4):364. Dosage error in article text. PMID: 20810794; PMCID: PMC2931619.

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