非HIV感染患者におけるニューモシスチス肺炎(nonHIV-PCP)の予防治療
ニューモシスチス肺炎(PCP)とは
・PCPは主にHIV感染者をはじめとした免疫不全者で発症する。
・一般的な症状としては進行性の呼吸困難、乾性咳嗽、発熱などが知られる。
・身体所見として頻脈、頻呼吸、低酸素血症はみられやすいが、聴診所見で異常が認識されないことも多い。
・HIV-PCPでは菌量が多いものの、臨床症状はnonHIV-PCPと比較すると軽症であることが多く、死亡率は10~20%という報告もある。
・一方で、nonHIV-PCPでは進行性の呼吸状態悪化をきたすことが比較的多く、死亡率は30~60%と高い。
PCP発症リスクが高い患者
・PCPの予防治療が推奨されるハイリスク患者は以下のようなケースなどが知られている。
- HIV/AIDS患者でCD4数<200/μL
- 固形臓器および造血幹細胞移植を受けた患者
- 抗がん剤治療を受けた患者、特に高用量ステロイド治療(PSL≧20mg/日または等価用量を1ヶ月以上使用)
- PSL≧20mg/日 または 等価用量を必要とする一部のリウマチ性疾患患者 など
・多くの固形がん患者ではPCP発症率は恐らく低いと考えられている。ただし、原発性あるいは転移性の悪性腫瘍で、ステロイド治療を受けている患者ではPCP予防治療を行うことを検討してもよいほど、PCP発症リスクが高まっている場合もある。
・リウマチ性疾患のなかで、特にPCP発症リスクが高いのは多発血管炎性肉芽腫症である。
・慢性閉塞性肺疾患、炎症性腸疾患、皮膚疾患などでステロイド治療を受けている患者についてはPCP発症リスクなどのエビデンスは不十分。同様に、血液悪性腫瘍、抗TNF-α製剤をはじめとした生物学的製剤に伴う、PCP発生リスクなどのエビデンスも十分とはいえない。ただし、急性リンパ芽球性白血病はPCP発生率は比較的高い。
PCPの発症予防
・PCP予防の治療薬としては基本的にはST合剤 1錠/日(または2錠/回を3回/週)を選択する。
・代替薬として、ペンタミジン吸入300mg 1~2回/月、アトバコン 1500mg/日も使用されることがあるが、特にアトバコンは高価。
・ST合剤はPCP発症の予防に有効で、PCPの発生率を85%減少させた(RR 0.15(95%CI:0.04~0.62))。全死因死亡率は予防治療により有意には減少させなかったが(RR 0.71(95%CI:0.28-1.8))、PCP関連死亡率は統計学的に有意に、83%減少させた(RR 0.17(95%CI:0.03~0.94))。
・なお、主にがん患者において、ST合剤による予防治療を検討する際に骨髄抑制を予防するための葉酸製剤(ロイコボリン)を併用するべきかという懸念があるが、併用により好中球減少などを予防できるかどうかは判然としていない。
発症予防治療による有害事象
・ST合剤によるPCP発症予防治療を行った群(介入群)と、介入なしの群とでは有害事象の発生率において統計学的有意差はみられていない。ただし、コクランレビューで解析されたtrialのなかには介入群で治療中止を余儀なくするような有害事象の発生は存在しているのは事実。また、それがST合剤によるものとは限らず、基礎疾患や化学療法により誘発された可能性も残る。
・ST合剤 1錠/日を連日内服する方法と、ST合剤 2錠/回を3回/週で内服する方法とで、PCP発症率に統計学的有意差はみられず、また有害事象の発生率においても有意差はみられていない。なお、有害事象としての皮疹は連日投与群で発生頻度が低かったが、統計学的有意差はみられなかった(RR 0.51(95%CI:0.23~1.16)。白血球減少は連日投与群で頻度が高かったが、こちらも統計学的有意差はみられなかった(RR 2.78(95%CI:0.60~13.0)。
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<参考文献>
・Stern A, Green H, Paul M, Vidal L, Leibovici L. Prophylaxis for Pneumocystis pneumonia (PCP) in non-HIV immunocompromised patients. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Oct 1;2014(10):CD005590. doi: 10.1002/14651858.CD005590.pub3. PMID: 25269391; PMCID: PMC6457644.