麻疹 measles

麻疹のワクチンについての内容に関しては、以前「成人の麻疹ワクチン接種(キャッチアップも含む)」という記事でまとめたため、本記事では一部割愛します。

世界における麻疹

・2000年から2017年までの間に、世界で報告される麻疹の年間罹患率は83%ほど減少している。また、この期間において麻疹のワクチン接種により2,110万人の死亡が予防できたと算出されています。

・麻疹の報告数が多い国としてはマダガスカル、ウクライナ、インド、ブラジル、フィリピン、ベネズエラ、タイ、カザフスタン、ナイジェリア、パキスタンなどが挙げられています。

・麻疹が流行する原因の一つは麻疹ワクチンの接種が進まない地域があることが挙げられています。

臨床症状

・典型的にはまず発熱”3C(cough(咳嗽), coryza(鼻汁), conjunctivitis(結膜炎))”を伴う2~4日間の前駆期から始まります。もちろん3Cは全てが揃うとは限りません。

発熱の2~4日後には特徴的な発疹が出現します。通常ははじめに顔面と頭部に、次に体幹と四肢に出現します。

・そのさらに3~5日後には発疹は消退し、合併症を起こさなければ発疹が出現後7日以内に軽快します。

・口腔内の所見としてはKoplik斑が有名で、頬粘膜の青白色の小斑点のように確認できます。Koplik斑は約7割のケースで確認可能で、発疹が出現する1~2日前に出現し、発疹が出現してからも1~2日間程度は確認できるようです。

合併症

・主な合併症としては中耳炎(7~9%)、肺炎(1~6%)、下痢(8%)、感染後脳炎(1000人に約1人)、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)などが知られています。

・SSPEは麻疹発症から5~10年後に発症する進行性の変性疾患で、リスク因子としては乳児、20歳以上の成人、栄養不良(特にVit.A欠乏)、免疫不全(担癌、HIV感染症など)があります。

・なお、麻疹に特有な重篤な合併症としては急速進行性脳炎(麻疹封入体脳炎)、巨細胞性肺炎があり、これらは主に免疫不全患者において稀にみられます。

妊娠中の麻疹

・妊娠中の麻疹感染は流産、早産、低出生体重児、母体死亡などのリスク増加と関連しています。

診断

・臨床経過、症状、身体所見などから疑わしい場合は血液検査で麻疹特異的IgM抗体を測定することを検討します。なお、IgM抗体は麻疹の診断に関して、感度 83~89%、特異度 95~99%という報告もあります。

・なお麻疹IgM抗体は発疹出現後72時間以内の約25%では検出されないことに留意して検査結果を解釈することが大切です。なお、発疹出現後4日目からはほぼ全例でIgMが検出可能と考えられています。

・なお、尿、血液、鼻咽頭拭い検体での麻疹ウイルスPCR検査は麻疹IgMが検出される前でも、感度94%、特異度99%で診断可能です。私見ですが、PCR検査を迅速に実施できる検査体制にある病院は必ずしも多くないと思われます。一方で、麻疹IgM抗体は外注検査にはなるかもしれませんが、提出可能なことも多いと思います。

・主な鑑別診断としては風疹、デング熱、ヒトパルボウイルスB19感染症、HHV-6感染症などが挙げられます。

治療/管理

・特異的な抗ウイルス薬による治療法はなく、あくまで支持療法が基本となります。

・特に発展途上国では麻疹で入院した乳幼児の死亡率や合併症リスクを低減させるために、ビタミンA投与を行うことがあります。6ヶ月以下の乳児では5万単位、6~11ヶ月齢では10万単位、12ヶ月齢以上の小児では20万単位の用量で投与することもあります。

・麻疹が疑われた患者は外来で可能な限りトリアージし、入院中の患者では空気感染を防ぐための隔離を行うことが推奨されます。

・なお、抗ウイルス薬(リバビリンなど)が重症な麻疹患者などで使用されることがあるようですが、その有益性や危険性については現時点ではコンセンサスが得られていないようです。今後のエビデンスの蓄積が待たれる部分と思います。

・自宅で経過観察ができるような場合は他者へ感染伝播させることを防ぐために、発疹出現してから4日間は自宅隔離とすることが望ましいです。

曝露後予防(PEP)

・禁忌に該当せず、ワクチン接種歴がない、あるいは1回のみの接種に留まっている場合は計2回となるように接種することが望ましいです。なお、2回接種した麻疹ワクチンの効果は大多数において生涯続くと考えられています。

・免疫グロブリン製剤の投与は生後12ヶ月未満の乳児、麻疹に対する免疫能がないと思われる妊婦、重度の免疫不全者などにおいて検討されます。体重30kg未満の患者の場合は0.5mL/kgの用量で筋注し、30kg以上の患者の場合は400mg/kgの用量で静注することが推奨されています。ただし、免疫グロブリン製剤の効果はあくまで急場を凌ぐためのものであり、その後にワクチン接種をすることが望ましいです。

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<参考文献>

・Strebel PM, Orenstein WA. Measles. N Engl J Med. 2019 Jul 25;381(4):349-357. doi: 10.1056/NEJMcp1905181. Epub 2019 Jul 10. PMID: 31184814.

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