PTTM(Pulmonary tumor thrombotic microangiopathy) 肺腫瘍血栓性微小血管症
肺腫瘍血栓性微小血管症(PTTM)とは
・肺腫瘍血栓性微小血管症(PTTM: Pulmonary tumor thrombotic microangiopathy)とは悪性腫瘍による血液凝固能上昇を背景にして、肺動脈に微小な血栓症が生じることで、進行性の呼吸不全、肺高血圧症をきたす疾患である。
・ケースによっては症状出現から数週間以内に進行性に臨床状態が悪化することも多い。
疫学
・とあるシステマティックレビューをもとに、記載するが、地域によって異なる可能性は当然残る。
・平均年齢:56歳
・性別:男性 56%、女性44%
・喫煙歴のある割合 57%
・原疾患となる悪性腫瘍の種類:胃がん(59%)、乳がん(10%)、肺がん(6.3%)、尿路上皮がん(3.8%)、卵巣がん(2.5%)。印象としては比較的、腺癌が多い。
・原発と考えられる悪性腫瘍の診断後、PTTMを発症するまでの平均期間は3.5年程度。
臨床症状/バイタルサイン
・低酸素血症(95%)、呼吸困難(94%)、咳嗽(85%)、易疲労感(73%)は比較的頻度が高い症状にあたる。
・PTTMでみられる咳嗽は主に乾性咳嗽であるが、咳嗽がないケースも少数ながら存在する。
・呼吸困難は初期においては労作時呼吸困難が目立つが、病勢の進行により安静時呼吸困難に変わる。呼吸困難は主に肺高血圧症を反映している可能性が高い。
身体所見
・肺高血圧症に伴う右心負荷所見に注意することは重要で、つまり外頚静脈怒張、内頚静脈の拍動高の上昇、下腿浮腫などを確認することは有用と思われる。
検査所見
<血液検査>
・Dダイマー上昇:95%
・貧血:84%
・血小板減少:77%
・DICと診断された割合:48%
・そのほか、LDH高値などもみられることが多い。血小板減少はDICによる消費性の減少や、悪性腫瘍の骨髄浸潤による造血能低下などを反映しているかもしれない。
<胸部X線撮影>
・何らかの異常所見を認めた割合:70%
・胸部X線撮影では異常所見がみられないことも多いことがわかる。例えば「胸部X線撮影で異常が乏しいのに、低酸素血症がみられる場合に肺血栓塞栓症の可能性を想起する」というClinical pearlも一般に知られているはずで、胸部X線撮影で所見がない場合でも臨床的に疑わしい場合はさらなる精査を検討する。
<胸部CT撮像>
・縦隔and/or肺門リンパ節腫脹:91%
・結節影:86%
・すりガラス影:82%
・特に胃癌では縦隔あるいは肺門リンパ節腫脹のみられる割合が高い。
・結節影は典型的には小葉中心性の分布でみられ、悪性腫瘍の血行伝播を反映しているものと考えられる。
・縦隔/肺門リンパ節腫脹は恐らく小葉間におけるリンパ管を介した腫瘍細胞の排出が反映されている。
<経胸壁心エコー(TTE)>
・肺高血圧所見:89%
・肺動脈楔入圧(PCWP):平均値15mmHg など
<その他の検査>
・PTTMの診断目的にFDG-PETや換気血流シンチグラフィーを行うこともある。
・また右心カテーテル検査により肺動脈からの血液を採取することができ、腫瘍細胞の存在が明らかとなるケースもある。ただし、全体的な臨床像からPTTMの尤度が高いと考えられるケースにおいては右心カテーテル検査などが必須とはいえない。
CTEPHとPTTMとの違い
・慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH:Chronic thromboembolic pulmonary hypertension)とPTTMとは臨床的に複数の共通点を有するが、同時に鑑別に有用な差異もあり、そちらを認識しておくことがときに重要。
・共通点としては両者が肺高血圧症とそれに伴う右心不全徴候を示すことがある点が挙げられる。
・鑑別点としてはCTEPHでは肺動脈の拡張がよりみられやすく、肺梗塞を示す楔状の造影不良域がみられることがある点が挙げられ、これらの所見は一般的にPTTMではみられにくい。また、PTTMでは血栓内に腫瘍細胞の存在が病理学的に証明されることがあり、このことはCTEPHとの鑑別に有用。
・換気血流シンチグラフィーはPTTM、CTEPHのいずれにおいても異常所見を示すことがあり、鑑別に有用である可能性は比較的低い。
・心エコーや右心カテーテル検査による評価を行うことは検討してよいが、両疾患の鑑別に有用とまではいえない。
・肺生検は癌やPTTMの既往のあるCTEPHの鑑別に役立つ場合もあるが、全身状態が不安定なケースも多く、周術期合併症のリスクなども考慮すると、少なくともルーチンでの実施は推奨されない。
治療
・PTTMの治療法としては化学療法と抗凝固療法とが検討されることがある。
・今後、さらにPTTMの病態生理などの解明が進めば、より有効な治療法が判明する可能性があるが、現時点ではイマチニブやベバシズマブ、TS-1などの有効性を示す研究も一部存在する。
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<参考文献>
・Godbole RH, Saggar R, Kamangar N. Pulmonary tumor thrombotic microangiopathy: a systematic review. Pulm Circ. 2019 Apr-Jun;9(2):2045894019851000. doi: 10.1177/2045894019851000. PMID: 31032740; PMCID: PMC6540517.