肺非結核性抗酸菌症(肺MAC症) non-tuberculous mycobacterial disease
非結核性抗酸菌(NTM:non-tuberculous mycobacterial)とは
・非結核性抗酸菌(NTM)は結核菌(M.tuberculosis)と抗酸菌(M.leprae)を除く、190種以上のマイコバクテリウムの総称を指す。
・非結核性抗酸菌は自然界に広く存在する。そのため、細菌が検出された場合、その全てが起因菌とは限らない。
・NTM症は免疫不全者のみならず、健常者にも発症する。
・感染臓器で考えると、①肺病変 ②播種性感染症 ③リンパ節炎 ④皮膚軟部組織感染症 の4つに大別可能で、特に肺病変のタイプが多く、本記事では主に肺病変について記載する。
・起因菌として、大多数を占めるのがMAC(M.avium complex)、M.kansasiiである。皮膚軟部組織感染症の起因菌としてはMabscessus、M.chelonae、M.fortuitumなどが特に知られる。
・最も重要な鑑別疾患は肺結核が挙げられる。そのほか、非定型肺炎、真菌症(ABPAなど)、COPD、びまん性汎細気管支炎(DPB)をはじめとした副鼻腔気管支症候群(SBS)、サルコイドーシス、悪性腫瘍なども鑑別疾患となる。
NTM感染症を疑うケース
・臨床症状は非特異的。
・肺非結核性抗酸菌症では主に慢性/再発性の咳嗽がみられる。また、ときに全身症状(発熱、易疲労感、体重減少、寝汗など)、胸痛、呼吸困難などがみられることもあり、特に病状が進行している場合に全身症状を伴うことが多い。
・肺非結核性抗酸菌症の患者では気管支拡張症やCOPDなどの慢性肺疾患を背景に生じることがある。
・細菌感染症を疑って抗菌薬治療を行うも改善に乏しい場合などで、臨床症状や画像所見に応じて、NTM感染症を疑うことがある。
肺非結核性抗酸菌症の診断基準
<臨床的基準(以下の両者が必要)>
・肺病変の存在。胸部X線写真で結節性・空洞陰影、高解像度CTで多発性の結節陰影を伴う気管支拡張症の変化。
・他の疾患を除外していること。
<生物学的基準>
・次の4つから1つが該当:①菌が2回の別々の喀痰から検出される。もし検出されない場合には塗抹と培養とを繰り返す。 ②気管支洗浄液から1回の陽性。 ③(経気管支的その他により得られた)肺組織に所見(肉芽腫性炎症や抗酸菌など)を認め、さらに非結核性抗酸菌を培養で検出する。 ④組織学的な所見に加えて気管支洗浄液で1回以上、培養が陽性。
・培養結果が頻回には陽性にならず、環境により汚染の可能性があるときなどは専門家に相談する。
・肺非結核性抗酸菌症を疑われるにも関わらず診断基準を満たすに至らない場合は診断が確定するか否定されるまで経過観察をする。
・肺非結核性抗酸菌症の診断が確定しても治療が必要でないこともある。治療によるメリットやデメリットを考慮する。
肺MAC症の病型分類と治療
・病型分類として
①結節・気管支拡張型(NB型:nodular bronchiectatic)
②線維空洞型(FC型:fibrocaviary)/空洞性NB型(caviary NB型) の2つに大別される。
・(非重症)NB型の治療としては、A法(「CAM 800mg or AZM 250mg」+「EB 10~15mg/kg(max 750mg)」+「RFP 10mg/kg(max 600mg)」の3剤を連日投与」あるいはB法(「CAM 1,000mg or AZM 500mg」+「EB 20~25mg/kg(max 1,000mg)」+「RFP 600mg」の3剤を週3回投与)を検討することが可能。
・FC型/caviary NB型/重症のNB型の治療としてはA法に加えて、初期3~6ヶ月において(「SM≦15mg/kg(max 1,000mg) 週2~3回筋注」or 「AMK 15mg/kg 連日 or 15~25mg/kg 週3回点滴」)のいずれかを併用。なお、50歳以上の場合はAMK 8~10mg/kg 週2~3回(max 500mg)に減量することを検討可能。
・なお空洞を有するケースではAMKによる治療を要することもあり、難治性の場合はAMK吸入治療(ALIS)が適応となる。
・なお、肺MAC症においても薬物感受性試験の結果は重要。CAM耐性(MIC≧32μg/mL)がある場合は有効性が期待できないことが多い。
・薬物治療による副作用は比較的よく経験され、治療の中止の原因となり得るため、各薬剤についての副作用に熟知しつつ、注意しながら経過観察する。
・外科的治療が検討される場合もあるが、明確な適応は確立していない。
治療効果判定
・臨床症状、X線所見、喀痰培養検査などにより総合的に評価される。通常は臨床的に3~6ヶ月以内に改善がみられることが典型的。
・臨床症状の改善は治療効果判定における重要な指標となる。ただし、臨床症状の変化と、画像所見や微生物学的検査の変化とは必ずしも相関しないことに留意する。
・また前述したようにCOPDなどの慢性肺疾患を背景にして発症することも多いため、肺非結核性抗酸菌症に対する治療を終了した際に、臨床症状が完全に消失しているとは限らない。
・肺非結核性抗酸菌症では喀痰培養もモニタリングすることがあり、1~2ヶ月ごとに培養を提出しておくことも推奨されている。培養が陰性化した場合は薬物治療が有効性を発揮したという間接的な指標になり得て、治療期間を決定する要素の一つとなる。もしも自己喀出が困難な場合はネブライザーなどによる喀痰誘発を試みることもある。なお、治療効果判定目的での気管支鏡検査を行うことは通常は必要ない。
・治療の目標は治療中の12ヶ月間、培養陰性が続くこととされている。ただし、それ以上の期間の治療を行うことがよいとする意見もある。
・画像検査はしばしば実施されるが、最適とされる撮影間隔は確立されていない。
抗MAC抗体
・ELISA法でMACに対するIgA抗体を検出することが可能。
・メタアナリシスではCut off値を0.7U/mLとした際に、感度69%、特異度90%と報告されている。仮に陰性であっても肺MAC症の除外には至らないが、陽性であれば検査後確率はそれなりに高まる。ただし、あくまで補助診断として利用することが原則とされている。
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<参考文献>
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・レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版