急性尿閉 urinary retention
尿閉とは
・尿閉とは十分な量の尿を自力で排出ができない状態を指し、男性により多い。
・病因としては閉塞性が最も多く、前立腺肥大症(BPH)による尿閉が53%を占める。そのほかの病因としては感染性、炎症性、神経性などが存在する。
・薬剤性の尿閉の頻度も高いため、内服薬(漢方、サプリメントを含む)の聴取を初期評価の時点で忘れないようにする。また、排尿後の残尿量測定は重要で、文献にもよりますが残尿量が50~100mL以上ある場合は排尿障害の存在が示唆される。
・急性尿閉の初期対応としては原因精査と並行して、尿道カテーテル留置などによる尿路閉塞の解除を行う。また、前立腺肥大症による尿閉が疑われるケースでは尿道カテーテル挿入時あるいは少なくとも抜去前におけるα1遮断薬の内服開始が推奨されます(エビデンスレベルA)。
初期評価
・詳細な病歴聴取はもちろん重要。そのほか内服薬(漢方、サプリメントを含む)の把握を欠かさない。
・身体診察では腹部診察や直腸診も行う。尿閉では腹部膨隆がみられることがあるが、膨隆の頂点が臍部でなく、さらに尾側の下腹部に頂点があることが特徴で、視診で”当たり”が付けられることがある。また膀胱の聴性打診もときに有用。恥骨結合の直上に聴診器(膜型)を置き、肋骨下縁から恥骨結合上縁に向かうように打診をしていく。すると、膀胱が存在する部分に差し掛かると、打診音が鋭く、大きく変わることに気づく。音が変化した部位と恥骨結合上縁との距離が測定して、その距離が8cm以上であれば、約90%の確率で膀胱内に少なくとも250mL以上の尿貯留があることが示唆される。
・そのほか腱反射や筋トーヌスなどの神経学的所見の評価もときに鑑別に有用。
・臨床検査としては前述したように、超音波検査での排尿後残尿量の評価は有用。尿閉が疑われれば、尿道カテーテル留置をして、速やかに尿路閉塞を解除しつつ、貯留していた尿量の計測も行うべき。そのほか、検査前確率に応じて、頭蓋内や脊髄の画像検査を検討することとなる。
・なお、尿閉が解除された後には、閉塞後利尿といって、急激な利尿が生じることがあるため、特に高齢者などでは細胞外脱水などに注意する。そのほか閉塞解除後には尿閉による膀胱粘膜伸展を反映した血尿が一時的にみられることもある。
閉塞性の尿閉
・前述のように、前立腺肥大症が最も一般的な原因とされる。
・男性におけるその他の原因としては前立腺がん、包茎などが挙げられる。
・女性における原因としては膀胱、直腸、子宮などの骨盤臓器脱などが挙げられる。
・また男女ともに尿路結石、尿道狭窄、血尿によるタンポナーデ、膀胱がんなどが挙げられる。
・そのほか、便秘による尿路圧迫による影響や、骨盤内腫瘤性病変による尿路圧迫による影響で尿閉をきたす場合もある。
感染性/炎症性の尿閉
・男性では前立腺炎、亀頭包皮炎などが原因として挙げられる。
・女性では膣カンジダ症、ベーチェット症候群などが原因として挙げられる。
・また腰仙部の帯状疱疹に伴う尿閉なども鑑別に挙がる。
医原性の尿閉
・薬剤性の尿閉は比較的頻度が高く、内服薬のチェックは重要である。
・抗コリン作用のある薬剤(向精神病薬、抗ヒスタミン薬、市販の総合感冒薬など)による尿閉はよく知られている。
・そのほか、カルシウム拮抗薬では膀胱の平滑筋収縮力を低下させて尿閉をきたすことがあることも知られている。NSAIDsはPG合成を阻害することにより、排尿筋の収縮が低下して、尿閉の原因になり得る。
・また術後尿閉は入院中で手術を経験した患者の2~14%にみられる。
神経原性の尿閉
・尿閉は多くの神経学的疾患で生じることがある。
・脳血管障害の場合は溢流性尿失禁に至ることもしばしば経験される。
・神経因性膀胱の患者では尿閉による腎盂腎炎や腎障害のリスクが有意に高まる。
<自律神経/末梢神経の障害>
・自律神経障害、糖尿病、ギラン・バレー症候群、帯状疱疹ウイルス、ライム病、骨盤骨折、悪性貧血、急性灰白髄炎(ポリオウイルス感染症)、脊髄損傷など
<大脳の障害>
・脳血管障害、脳振盪、多発性硬化症、脳腫瘍、正常圧水頭症、Parkinson病、多系統萎縮症など
<脊髄の障害>
・椎間板ヘルニア、脊髄髄膜瘤、多発性硬化症、二分脊椎、脊髄血腫/膿瘍、脊髄損傷、脊柱管狭窄症、脊髄梗塞、横断性脊髄炎、馬尾症候群など
<その他>
・妊娠中あるいは産褥期においては尿閉リスクが増加する。妊娠中は約200人に1人の頻度で、産褥期には約10人に1人の頻度でそれぞれ尿閉がみられることがある。
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<参考文献>
・Serlin DC, Heidelbaugh JJ, Stoffel JT. Urinary Retention in Adults: Evaluation and Initial Management. Am Fam Physician. 2018 Oct 15;98(8):496-503. PMID: 30277739.
・Guarino JR. Auscultatory percussion of the urinary bladder. Arch Intern Med. 1985 Oct;145(10):1823-5. PMID: 4037944.