リフィーディング症候群 Refeeding syndrome

refeeding症候群とは

・refeeding症候群とは主に飢餓状態にある患者に栄養投与がなされることを契機に電解質異常やそれに伴う臨床症状を呈する症候群を指します。

・主には低リン血症、低マグネシウム血症、低カリウム血症、Wernicke脳症/Korsakoff症候群のリスクを伴うビタミンB1欠乏、低血糖などが生じ得ます。

・なかでも低リン血症は栄養投与(特に炭水化物)を開始した後にみられることがあり、致死的な転帰を辿る原因となることもあります。なお、低リン血症は非経口的な栄養摂取よりも、経口/経腸栄養によって、より生じやすいと考えられています。

・西暦70年頃、ローマ軍によりエルサレムが包囲された際の記録に、“they all on the sudden overfilled those bodies that were before empty, and so burst asunder, excepting such only as were skillful enough to restrain their appetites, and by degrees took in their food”, “death was observed in those who overindulged but not in those who restrained their appetite”と記載があり、恐らくrefeeding症候群であったものと考えられています。

病態生理

・過剰な栄養投与により急激なグルコースの補充がなされると、インスリン分泌が促進され、グルコース、ビタミンB1、カリウム、マグネシウム、リンの細胞内シフトが促進されます。ビタミンB1は飢餓状態で既に枯渇していますが、それをさらに助長させることとなります(詳細に記載するともう別の機序もありますが、簡潔な記載に留めています)。

低リン血症

・refeeding症候群の主な特徴ともされるのが低リン血症です。

・低リン血症ではATPが減少するため、多くの代謝経路が滞ることとなります。

・なお、経口摂取を含む経腸栄養の成人患者と非経腸栄養の成人患者とでは、前者の方が低リン血症をきたす可能性が高いことが示唆されていて、統計学的有意差も示されている。理由としては経腸栄養の方がよりインスリン分泌を促進させやすいためと考えられています。

・低リン血症による症状としては以下のようなものが挙げられます。

 <筋肉>

 ・呼吸不全、横紋筋融解症

 <心臓>

 ・心不全、血圧低下、不整脈、致死的不整脈

 <血液>

 ・WBC、RBC、Pltの減少および機能低下、溶血

 <神経>

 ・脱力、腱反射消失、錯乱、運動失調、振戦、意識障害など

 <肝臓>

 ・肝機能障害による諸症状

ビタミンB1欠乏

・ビタミンB1の体内貯蔵量は最大7日間程度と考えられています。

・ビタミンB1欠乏によりATP生成が不十分になり、ピルビン酸が乳酸に変換されるため、乳酸アシドーシスに至る場合があります。

Wernicke脳症では意識障害、眼球運動障害、運動失調の三徴が有名ですが、全てが揃うとは限りません。

・また不可逆的な病態であるKorsakoff症候群に進行する場合もあります。Korsakoff症候群では長期的な記憶は比較的保たれますが、短期記憶が障害され、作話などがみられる場合があります。

・そのほか、高拍出性心不全(脚気心)をきたすこともあります。主に心筋のエネルギー代謝障害や末梢神経障害による末梢血管拡張が原因で心不全をきたすと考えられています。

・Wernicke脳症などを疑う場合は原則としてビタミンB1製剤(チアミン)の静注で治療を試みます。

Na/Kポンプの活性化

・refeeding症候群ではNa/Kポンプが活性化することにより、結果として肺水腫急性心不全高血圧症などをきたすことがあります。したがって、refeeding症候群における比較的初期から頻呼吸頻脈が生じやすいことが知られています。飢餓状態にあるような患者は本来、洞性徐脈を呈することが多いため、60回/分以上の脈拍程度であっても相対的な頻脈と認識し、refeeding症候群を発症している可能性について想起します。

低カリウム血症

・前述のように栄養投与によりカリウムの細胞内シフトが生じて、低カリウム血症が生じる場合があります。結果として、呼吸筋を含む筋力低下、不整脈(QT延長など)、房室ブロック、U波、麻痺性イレウスなどをきたすことがあります。

低マグネシウム血症

・低マグネシウム血症では振戦、筋力低下、不整脈などをきたすことがあります。

・なお、低マグネシウム血症の補正も行わなければ、低カリウム血症の補正にも難渋することがあります。

肝障害

・肝酵素上昇は飢餓期栄養投与後のいずれにおいても生じ得ます。

・栄養投与によるインスリン分泌が亢進した結果として急性経過で脂肪肝に至ります。

・なお、目安として基準値上限の10倍程度までの肝酵素上昇であれば、栄養投与の開始を控える必要はないという提案もあります。

その他の代謝異常

・refeeding症候群では高血糖、低血糖のいずれもきたす場合があるため、急性期は血糖測定を行っておくことが無難と思われます。

refeeding症候群のハイリスク患者

・NICEガイドラインでは以下に該当する患者はハイリスク患者とされています。

 <以下の項目のうち1つ以上が該当する場合>

  1. BMI<16kg/m2
  2. 過去3~6ヶ月以内に15%以上の意図的な体重減少があった
  3. 10日以上栄養摂取がない or 少ない
  4. 栄養摂取前のK、P、Mgの濃度が低い

 <以下の項目のうち2つ以上が該当する場合>

  1. BMI<18.5kg/m2
  2. 過去3~6ヶ月以内に10%以上の意図的な体重減少があった
  3. 5日以上栄養摂取がない
  4. アルコール、インスリン、化学療法、制酸剤、利尿薬などの薬物使用歴がある

治療

・以下にエネルギーや電解質補充などについてまとめます。なお、栄養投与開始前に、可能な限り、血清K、P、Mg、ビタミンB1濃度は測定しておくことが望ましいです。

 <エネルギー>

・refeeding症候群のハイリスク患者では10kcal/kgのエネルギーから開始して、4~7日間程度で必要量を満たすように徐々にエネルギーを増やしていくことが推奨されています。最終的には25~30kcal/kg程度を目標に設定することが多いです。

・エネルギーの設定には原則として実測体重を用います。なお、BMI>25kg/m2の場合には実測体重でなく、理想体重を用いて計算します。

 <リンの補充>

・静脈内投与による補正に関する実施閾値は低めに設定するべきとされています。

・文献にもよりますが、目安として0.3~0.6mmol/kg/日 程度の補正を行うことがあります。

 <ビタミンB1の補充>

・refeeding症候群のハイリスク患者においては経口で200~300mg/日、あるいは経静脈的に100mg/日のビタミンB1を投与します。ビタミンB1は水溶性ビタミンであり、過剰投与となる可能性は低く、7~10日程度の投与を行う場合もあります。またその後も内服治療を続けることもあります。

・なお、Wernicke脳症を臨床的に疑う場合は最低でも500mg/日の経静脈的な投与を2~3日程度は行うことがあります。

 <低カリウム血症の補正>

・血清カリウムは1mmol/L低下すると、約200~400mmolの総カリウムが不足すると考えられています。

・文献にもよりますが、目安として2~4mmol/kg/日 程度の補正を行うことがあります。

 <低マグネシウム血症の補正>

・NICEガイドラインではマグネシウムの補正の目安として静脈内投与では0.2mmol/kg/日経口投与では0.4mmol/kg/日を提案しています。

検査データのフォロー

・栄養投与開始から1~2週間頻回な電解質濃度のチェックを行うことが一般的です。

・また心不全徴候などを把握するために体重測定を急性期は連日行うことも検討します。

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<参考文献>

・De Silva A, Nightingale JMD. Refeeding syndrome : physiological background and practical management. Frontline Gastroenterol. 2019 Dec 30;11(5):404-409. doi: 10.1136/flgastro-2018-101065. PMID: 32884632; PMCID: PMC7447285.

・National Collaborating Centre for Acute Care (UK). Nutrition Support for Adults: Oral Nutrition Support, Enteral Tube Feeding and Parenteral Nutrition. London: National Collaborating Centre for Acute Care (UK); 2006 Feb. PMID: 21309138.

・静脈経腸栄養ガイドライン 第3版 照林社

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