胸部/腹部大動脈瘤 aortic aneurysm

大動脈瘤の基本事項

・腹部大動脈瘤(以下AAA)と胸部大動脈瘤(以下TAA)とはいずれも無症状で、他疾患の精査などに伴って偶発的に発見されることが多いです。

・AAAはCT撮像の結果、最大短径30mm以上であることの確認をもって診断に至ります。

・AAAおよびTAAはそれぞれでフォローアップの仕方について日本循環器学会から推奨がなされています。

腹部大動脈瘤(AAA)のマネジメント

・最大短径30mm以上のAAAについては以下のようにマネジメントを行います。

・以下の①~③のいずれかに該当する場合は侵襲的治療を検討します。

 ①最大短径:男性≧55mm, 女性≧50mm

 ②嚢状瘤

 ③半年で5mm以上の瘤径拡大

・もしもいずれにも該当しない場合は必ずしも侵襲的治療の必要性が高いとはいえず、

 ・禁煙指導

 ・血圧管理(130/80mmHg未満)

 ・定期的なCT撮像によるサーベイランス

 を行います。

・定期的なサーベイランスについては

 ・30~40mmの場合:1~2年ごと

 ・40~50mmの場合:6~12ヶ月ごと

 ・50~55mmの場合:3~6ヶ月ごと の間隔での実施が推奨されています。

胸部大動脈瘤(TAA)のマネジメント

・以下の①~③のいずれかに該当する場合は侵襲的治療を検討します。

 ①最大短径≧55mm

 ②嚢状瘤

 ③半年で5mm以上の瘤径拡大

・もしもいずれにも該当しない場合はAAAと似ていますが、

 ・禁煙指導

 ・血圧管理(130/80mmHg未満)

 ・定期的なCT撮像によるサーベイランス

 を行います。

 なお、Marfan症候群に合併したTAAでは最大短径≧45mmで侵襲的治療を考慮します。

・定期的なサーベイランスについては

 ・45mm未満の場合:1年ごと

 ・45~55mm未満:3~6ヶ月ごと の間隔での実施が推奨されています。

侵襲的治療

・開腹手術とEVER(Endovascular aneurysm repair)との2つに大別可能です。

・なお、EVERは瘤関連死亡を減らすものの、全死亡は減らさないというエビデンスや、術後8年までは生存率がEVERの方がより高いというエビデンスも存在します。

高齢者におけるAAAの治療適応

・原則として年齢”のみ”では治療不適応とはならないと思われます。ただし、いわゆるFrailtyの程度や、入院に伴う廃用の進行リスク、見込まれる余命など、種々の事柄を総合的に勘案し、あくまで個別的に検討する必要性がより高いといえます。意思決定能力が保たれている患者においては当然、本人の意思も重要です。

・高齢者で検討するとしたら、開腹手術よりもEVERの方を検討しやすいです。

・結果として侵襲的治療を前向きに検討することが困難と思われるケースについては降圧治療などによる保存的加療を選択することもあります。

腹部大動脈瘤のスクリーニング

・スクリーニングとは本来的には無症候の方々に対して特定の疾患を疑うなどして検査を行うことを指しますが、AAAのスクリーングについてまとめます。

USPSTF(United States Preventive Services Taskforce)では腹部エコーでのAAAに関して、65~75歳1回のスクリーニングを推奨しています。ただし、全ての患者でスクリーニングを行うべきということはなく、性別と喫煙経験との2軸でその推奨度を変えています。

・推奨度については以下の通りです。

  1. 喫煙経験のある男性:推奨グレードB
  2. 喫煙経験のない男性:推奨グレードC
  3. 喫煙経験のある女性:推奨グレードI
  4. 喫煙経験のない女性:推奨グレードD

・なお、推奨グレードDは検査による利益がないか、あるいは不利益が利益を上回る可能性が想定されるということを指し、つまり実施をしないことを推奨しています。

・USPSTFの推奨はアメリカ人に関した推奨であるため、全てを単純に日本における医療に適用させられるとは限りませんが、参考にはなると思います。

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<参考文献>

・「2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2024年04月02日閲覧)」

・Sweeting MJ, Patel R, Powell JT, Greenhalgh RM; EVAR Trial Investigators. Endovascular Repair of Abdominal Aortic Aneurysm in Patients Physically Ineligible for Open Repair: Very Long-term Follow-up in the EVAR-2 Randomized Controlled Trial. Ann Surg. 2017 Nov;266(5):713-719. doi: 10.1097/SLA.0000000000002392. PMID: 28742684.

・Patel R, Sweeting MJ, Powell JT, Greenhalgh RM; EVAR trial investigators. Endovascular versus open repair of abdominal aortic aneurysm in 15-years' follow-up of the UK endovascular aneurysm repair trial 1 (EVAR trial 1): a randomised controlled trial. Lancet. 2016 Nov 12;388(10058):2366-2374. doi: 10.1016/S0140-6736(16)31135-7. Epub 2016 Oct 12. PMID: 27743617.

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