心因性非てんかん発作 psychogenic nonepileptic seizure
心因性非てんかん性発作(PNES)とは
・心因性非てんかん性発作(以下PNES)とは「精神的要因によりてんかん発作様の症状をきたすが、脳波に異常所見がみられないもの」を指します。
疫学
・PNESの有病率は10万人あたり2~33例とされています。
・20~30歳代に好発します。ただし、高齢者を含むあらゆる年齢層での発症例がありますので、年齢だけで区別は困難です。
・患者の75~85%は女性です。
・性的虐待、身体的虐待、解離性障害、身体表現性障害、人格障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病、全般性不安障害などといった精神疾患が発症に関与し得ます。
・また約20~40%で精神発達遅滞を伴うケースという報告もあります。
・いわゆるストレスや環境変化など、何らかの心理的荷重が発作の誘引となることもあります。
・なお、PNESと診断された患者はEpilepsyを併存することもあり、PNES患者の5~10%はEpilepsyを併存することがあります。
病歴と身体所見
・まず前提として単独の病歴あるいは身体所見でPNESを除外(rule out)したり、確定(rule in)させたりすることができるようなものはありません。あくまで患者背景、病歴、身体所見などから総合的に可能性を見積もる姿勢が重要と思われます。
・そのうえで、痙攣していた際の開眼の有無はPNESとEpilepsyとを区別するのに有用と考えられていて、典型的にはPNESでは発作時に閉眼していて、Epilepsyでは開眼しているはずです。
・そのほかPNESを示唆する所見としては
- 症状が変動性である
- 骨盤を前後に動かす
- 頭や体を左右に動かす
- 閉眼している(※他動的な開眼に抵抗を示すことも典型)
- 発作中に泣いている
- 発作時の記憶がある
- Arm drop test陽性
などが知られています。
・なお、発作が2分以上続く場合は真のEpilepsyよりもPNESの方が考えやすいです。
・またEpilepsyでは発作中に舌咬傷(特に舌側面)、尿失禁がみられることが知られています。ただし、頻度は高いとまではいえませんが、PNESでも舌咬傷、尿失禁はみられることがあるため、これらの所見をもって、安易にPNESを除外しないことも大切です。なお、PNESでは咬傷部位として舌側面でなく、舌先端や口唇であることが多いとされています。
診断/検査
・発作時に症状と脳波とを同時に記録して(ビデオ脳波同時記録)、症状が出現した際に脳波に異常所見がみられないことをもって、PNESと診断することが多いです。
・以前は発作後のPRL値が基準値上限の2倍を超える場合には全般発作や複雑部分発作との鑑別に有用と考えられていた時期もあるようですが、最近ではその信頼性は低いことも示唆されています。そもそも迅速に当日中にPRL値を測定できる施設は限られていると思います。
・血清乳酸値の上昇は痙攣(seizure)でみられる検査所見ですが、特に痙攣後2時間以内の乳酸値上昇は失神やPNESとの鑑別に有用とされています。なお、血清CK値も痙攣後に上昇することはありますが、上昇するのは痙攣して3時間後ぐらいからであることが多いため、上昇していないことをもって、痙攣がなかったと断定することは控えるべきです。
治療
・Epilepsyを併発していないと考えられるケースでは抗てんかん薬を使用せず、適切な精神療法の導入を検討します。PNESは精神的な苦痛の身体的表出と考えられています。あくまでPNESの治療は根本的な原因、つまり精神疾患に対するケアに注力することが基本です。
・なお、意見は様々な部分かと思いますが、PNESという診断を明確に伝えることで発作をそれ以降起こさなくなる患者もいるという報告もあります(伝えることの侵襲性もあるかと思うため、慎重になりたい部分と個人的には思います)
主な鑑別診断
・Epilepsyは鑑別疾患ですが、そのほかにConvulsive syncope(痙攣性失神)などとして重要です。
・Convulsive syncopeは何らかの原因により脳血流が減少することにより結果として痙攣が生じる状態を指し、原疾患として心原性疾患(不整脈、虚血性心疾患、弁膜症など)が存在する可能性に思いを馳せる必要があります。心原性疾患のリスクを見積もることも重要ですが、痙攣前に眼前暗黒感や悪心などの前兆がなかったか、失神を来さなかったかなどの病歴聴取が肝心です。疑われるようであれば、心電図検査や心エコー検査などの検査の追加の必要性が高まります。
・そのほか前頭葉てんかんではPNESでみられるような非同期性の四肢運動、下腹部を突き出すような動きを呈することがあり、鑑別に難渋することもあります。前頭葉てんかんでは睡眠中に発作が生じることがあることや、発作時に開眼していることが多いことなどがPNESとの鑑別に役立つことがあります。
・ここで詳細な記載は割愛しますが、もちろん痙攣や意識障害の鑑別疾患として重要なものとして、低血糖、甲状腺機能異常、電解質異常(高Ca血症など)、頭蓋内疾患(脳出血、髄膜炎、ヘルペス脳炎など)などの鑑別も忘れないようにしたいところです。
PNES早期診断の重要性
・PNESはしばしば”てんかん(Epilepsy)”と誤診され、実際にてんかん治療を受けていることもあります。PNESの診断がつくまでに平均7.2年ほどかかっているという報告もあります。
・PNESの早期診断は医療経済的にも重要で、診断後6ヶ月の間に発作に関連する医療費は84%減少したという研究もあります。
・PNESは患者のQOLを低下させますが、その低下の原因は原疾患である精神病理それ自体による影響もあれば、処方されている抗てんかん薬の副作用に関連すると考えられています。PNESにおいて必要性が低い抗てんかん薬の中止を図るという観点においても、PNESの早期診断は有用と考えられます。
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<参考文献>
・Alsaadi TM, Marquez AV. Psychogenic nonepileptic seizures. Am Fam Physician. 2005 Sep 1;72(5):849-56. PMID: 16156345.
・Avbersek A, Sisodiya S. Does the primary literature provide support for clinical signs used to distinguish psychogenic nonepileptic seizures from epileptic seizures? J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2010 Jul;81(7):719-25. doi: 10.1136/jnnp.2009.197996. PMID: 20581136.