高カリウム血症 Hyperkalemia

高カリウム血症は救急外来などで遭遇することがありますが、ときに迅速な対応を要する場合もあるため、まとめておきます。

高カリウム血症に関する対応

・おおまかな流れとしては 

  1. バイタルサインのチェック
  2. 12誘導心電図で波形チェック
  3. 代謝性アシドーシスの有無をチェック
  4. 腎機能障害の有無や、臨床経過(急性 or 慢性)をチェック
  5. 内服薬をチェック
  6. 偽性高カリウム血症の可能性をチェック

という風になると思います。

・上記の①~⑥のチェックをおよそ同時並行で進めながら、必要に応じてカリウム値の補正を行うことになります。

・高カリウム血症を認識したら、採血時の溶血などによる偽性高カリウム血症を否定するためにも血液検査の再検、動脈血液ガス分析の実施を行います。

・なお、動脈血液ガス分析におけるカリウム値は血液検査結果のカリウム値よりも平均0.6mEq/L低くなる傾向にあることも知られています。

・次に上記の①~⑥、それぞれについてポイントをまとめます。

 <①バイタルサインをチェック>

徐脈意識障害などがみられ、不安定な状態にあれば、モニター装着のうえ、経皮ペーシングの準備などもときに必要です。

 <②12誘導心電図で波形チェック>

・代表的な高カリウム血症による心電図波形としてはP波消失、wide QRS、テント状T波などがあります。 

・早期から比較的みられやすい変化としてはテント状T波が該当します。

P波消失がある場合は特に不整脈発生リスクが高いとされているため、より迅速な対応を要する場合があります。

 <③代謝性アシドーシスの有無をチェック>

・腎機能障害による高カリウム血症の頻度が高いですが、緊急透析の可能性などについても評価するために動脈血液ガス分析による代謝性アシドーシスの確認を検討します。

 <④腎機能障害の有無や、臨床経過(急性 or 慢性)をチェック>

 ・高カリウム血症の原因で最多頻度は腎機能障害によるものです。もしも進行性の腎機能障害が確認された場合にはまずは腎後性の除外を行い、腎前性であれば補液も行いながら原疾患に応じた治療を行います。このとき超音波検査による尿閉や下大静脈径の確認などが参考になります。

 <⑤内服薬をチェック>

 ・高カリウム血症の副作用が生じ得る薬剤性の可能性を検討します。

 ・原因となる薬剤は多岐に渡りますが、MRA、RAA系阻害薬、NSAIDsなどが代表的です。

 <⑥偽性高カリウム血症の可能性をチェック>

 ・前述のように、血液検査を再検して溶血による偽性高カリウム血症の可能性を否定します。

高カリウム血症の補正の必要性が高いケース

・明確な決まりはありませんが、12誘導心電図で波形異常がみられるケース血清カリウム≧6.0mEq/Lのケースではカリウム補正の必要性が高いといえます。

・この場合、もしも偽性高カリウム血症の否定ができていない状況であっても、真の高カリウム血症である可能性を想定し、検査結果が揃うのを待たずに補正を開始する場合もあります。

高カリウム血症の対処/補正(総論)

・治療法は複数ありますが、まず優先するべきはグルコン酸カルシウム(カルチコール®️)の投与GI療法との2つです。

・治療法は複数あり、作用機序によって治療の種類を3つに大別できます。

・また治療を行う際には各治療法の効果発現までの所要時間を意識することが大切です。イメージとしては即効性のあるグルコン酸カルシウムとGI療法の開始により30分程度の時間を確保して、効果発現までに比較的時間を要する、カリウム排泄促進系の治療(利尿薬、緊急透析など)を開始するという感じだと思います。

・細胞内シフトを主な機序とする治療(GI療法など)は急場を凌ぐ治療に過ぎないため、カリウムを体外へ排泄させるための治療を行うことが結局は必要です。

作用機序による薬剤の区別と大まかな特徴

<①心筋膜の安定化を図る薬剤>

 <グルコン酸カルシウム>

 ・効果発現:1~3分

 ・持続時間:1時間

 ・特徴:

  ・致死的不整脈を予防するために投与を最優先させます。

  ・添付文書上はジギタリス内服例では併用禁忌となっています。

   ただし十分な根拠はないという見方もあるようです。

  ・処方例)カルチコール 10mL/1Aを2~5分かけて緩徐に静注。

   ・心電図変化が乏しい場合は5分程度の間隔を空けて再投与可能

   ・2回ぐらいまでなら使用可能とされているようです。

<②カリウムを細胞内シフトさせる薬剤>

 <GI療法>

  ・効果発現:15~30分

  ・持続時間:4~6時間

  ・特徴:

   ・低血糖低カリウム血症に至っていないかに注意しながら経過観察します。

    測定間隔に推奨はなさそうですが、ときに慎重な対応を要します。

   ・処方例)

    ・50%ブドウ糖液 40mL+速効型インスリン(ヒューマリン®️) 8単位

    ・(低血糖リスクが高い場合)50%ブドウ糖液 40mL+ヒューマリン®️ 4単位

  ・低血糖リスクが高いケース:

   ・腎機能障害

   ・糖尿病の既往がない

   ・治療前の血糖値<150mg/dL

   ・体重<60kg

   ・女性  などが示唆されています。

 <炭酸水素ナトリウム>

  ・効果発現:15~30分

  ・持続時間:数時間

  ・特徴:

   ・ルーティンでの使用は推奨されておらず、適応はpH<7.2のケースなど限定的。

   ・腎機能低下例では相対的に効果が小さいことも示唆されています。

  ・処方例)メイロン®️ 8.4% 40mLを5分以上かけて静注

 <β2受容体作動薬>

  ・効果発現:15~30分

  ・持続時間:2~4時間

  ・特徴:

   ・ルート確保ができないなどといったケース以外ではGI療法の方がより優先されると思われます。

   ・冠動脈疾患を有するケースでは注意が必要かもしれません。

   ・処方例)メプチン®️10~20mL を生食4mLに溶解し10分程度でネブライザー吸入

<③カリウムを体外へ排泄させる薬剤>

 <利尿薬>

  ・効果発現:1~2時間

  ・持続時間:6時間

  ・特徴:

   ・腎前性腎機能障害を主病態とした高カリウム血症の場合は細胞外液の補充が重要であるため、あくまで病態を想定したうえで利尿薬の適応を考えることが大切です。

   ・処方例) フロセミド 10~20mg 静注 (腎機能や静注後の反応性などを考慮して状況に応じて投与量を検討)

 <陽イオン交換樹脂(ケイキサレート®️/カリメート®️/アーガメイト®️)>

  ・効果発現:1~2時間

  ・持続時間:4~6時間

  ・特徴:

   ・特にケイキサレート®️消化管潰瘍や穿孔などのリスクにも留意します。

  ・処方例) 15~30g/日を1日1~3回に分割

 <血液透析>

  ・効果発現:開始後まもなく

  ・特徴:

   ・CKDなどで尿からのカリウム排泄が期待できなければ検討されることもあります。

   ・代謝性アシドーシス、尿毒症、溢水の併存やその程度次第では選択肢となります。

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<参考文献>

・Acikgoz SB, Genc AB, Sipahi S, Yildirim M, Cinemre B, Tamer A, Solak Y. Agreement of serum potassium measured by blood gas and biochemistry analyzer in patients with moderate to severe hyperkalemia. Am J Emerg Med. 2016 May;34(5):794-7. doi: 10.1016/j.ajem.2016.01.003. Epub 2016 Jan 7. PMID: 26838187.

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・坂本壮. 救急外来ただいま診断中!. 中外医学社; 2015.

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