酸塩基平衡異常/アニオンギャップ(AG)
酸塩基平衡異常は血液ガス分析により把握することができ、病態の推定において有効性を発揮する場面があります。
本ページにおいては細かな部分は思い切って割愛し、実臨床で活用できる形式にこだわった記載にしようと思います。
目次
血液ガス診断の手順
・血液ガス分析では以下の5つのStepを順番に考えていきます。
・Step1:pHからアシデミアか、アルカレミアかを判断
Step2:変化が代謝性(HCO3-)か、呼吸性か(pCO2)かを判断
Step3:代償性変化は適切か、混合性障害は存在しないかを判断
Step4:アニオンギャップ(AG=Na-(Cl+HCO3))を計算
(※AGの基準値は12と覚えます)
Step5:AG開大している際には補正HCO3-を計算
・ここではStep1~2およびStep4の部分の解説は省略します。
ただし、Step3、Step5についてはそれぞれ以下に補足をします。
「Step3:代償性変化は適切か、混合性障害は存在しないかを判断」について
・体内で一次性変化が生じた際にそれを戻そうとする働きを代償性変化(代償反応)といいます。
・たとえば代謝性アシドーシスという一次性変化が生じている場合、換気量を増やしCO2を減少させることにより、低下してしまったpHを代償性に7.40へ近づけようとします。ただし、7.40を超えることは原則としてありません。
・この代償性変化が計算可能で、その結果が計算の範囲外であれば、別の病態も混在していることを想定します。
・簡潔な計算方法として、代謝性アシドーシスまたは代謝性アルカローシスの場合においては「予測pCO2=15+HCO3」という式で、大まかに呼吸性代償の状態を算出します。
・この計算で「予測pCO2よりも実測pCO2が大きい場合」には呼吸性アシドーシスの合併が、「予測pCO2よりも実測pCO2が小さい場合」には呼吸性アルカローシスの合併が、それぞれ想定されるという風に理解すると良いです。
「Step5:アニオンギャップ開大している際には補正HCO3-を計算」について
・Step4においてAGを計算し、AG開大性の代謝性アシドーシスが存在することが認識できた場合には、他の酸塩基平衡異常を合併していないかどうかを確認するために”補正HCO3-“を計算します。
・なお、計算の式として「補正HCO3=実測HCO3+ΔAG」を利用します。
※仮にAG=20の場合、ΔAG=20-12で、8と計算します。
・詳細は割愛しますが、「補正HCO3<22mEq/Lの場合」にはAG正常の代謝性アシドーシスの合併が、「補正HCO3>26mEq/Lの場合」には代謝性アルカローシスの合併が、それぞれ想定されます。
・各酸塩基平衡異常における主な鑑別疾患を以下にまとめます。ネットで検索すると覚えるための語呂、ネモニクスが存在すると思いますが、ここでは割愛します。
AG開大性代謝性アシドーシスの主な鑑別
<①体内由来の酸の増加>
・ケトアシドーシス(糖尿病、アルコール、飢餓、薬剤性(SGLT2阻害役を含む)など)
・乳酸アシドーシス(敗血症、ビタミンB1欠乏、腸管虚血、薬剤性など)
<②体外由来の酸の増加>
・中毒(メタノール、エチレングリコールなど)
<③腎不全>
AG正常代謝性アシドーシスの主な鑑別
<①消化管が原因(尿AG<0)>
・下痢、回腸導管など
<②腎臓が原因(尿AG>0)>
・腎不全、尿細管性アシドーシスなど
<③その他>
・ケトアシドーシス回復期、Cl負荷(生食、アミノ酸製剤など)など
(※尿AG=尿Na+尿K −尿Cl)
代謝性アルカローシスの主な鑑別
<①尿Cl<25mEq/L(Cl欠乏)の場合>
・嘔吐、胃液吸引、Cl摂取不足など
<②尿Cl>40mEq/Lの場合(ミネラルコルチコイド作用過剰状態)>
・ミネラルコルチコイド過剰病態(原発性アルドステロン症、偽性アルドステロン症、Cushing症候群、腎動脈狭窄など)、K欠乏、Mg欠乏、利尿薬使用など
乳酸(Lactate)で説明不可能なAG開大性代謝性アシドーシスの存在に気づくために
・AG開大性代謝性アシドーシスがみられた際にはAGの開大幅と乳酸値の蓄積量とのバランスがとれているかどうかを確認することもときに有用です。
・一般的に乳酸9mg/dL(1mmol/L)あたりAGが1ほど上昇します。したがって、AGの開大幅から乳酸の上昇分を差し引いても、説明がつかない開大がみられる場合にはケトアシドーシスの存在を疑います。ちなみに、ケトン1,000pmol/Lあたり、AGが1ほど上昇します。