感染性心内膜炎 Infective endocarditis

はじめに

・IEは急性心内膜炎亜急性心内膜炎とに大別されます。

<急性心内膜炎>

 ・文字通り急性経過で発熱、敗血症、全身合併症などが生じるような病像を呈します。

 ・こういった症状に加えて、新規の心雑音出現がみられればIEを考えます。

 ・黄色ブドウ球菌が原因となる頻度が比較的高いです。

<亜急性心内膜炎>

 ・急性心内膜炎とは異なり診断が容易でない場合が多いです。

 ・数週間から数ヶ月にわたって易疲労感、呼吸困難、体重減少などを呈する場合もあります。

 ・緑色連鎖球菌、 CNSが原因となる頻度が比較的高いです。

IEの主な症状/所見とその出現頻度

・発熱(86-96%)

・新規の心雑音(48%)

・過去に指摘された心雑音の悪化(20%)

・血尿(26%)

・塞栓性のイベント(17%)

・脾腫(11%)

・爪下線状出血 splinter hemorrhage(8%)

・オスラー結節 osler nodes(3%)

・ジェーンウェイ病変 Janeway lesions(5%)

・ロス斑 roth spots(2%)

・各種合併症:

 ・脳卒中(17-20%)

 ・脳卒中を除く、肺塞栓や脾塞栓などの塞栓症(23-33%)

 ・心不全(14-33%)

 ・心臓内の膿瘍形成(14-20%)

 ・新規の心臓伝導障害(8%)

IEのリスク因子

 ・60歳以上、男性、弁膜症(リウマチ熱、MVPなど)、先天性心疾患(VSD、大動脈二尖弁など)、人工弁、IEの既往、静脈内薬物の使用、維持透析、血管内カテーテル留置、心血管内の人工物留置、皮膚感染症、口腔内衛生環境不良など

診断基準と2023年の改訂に伴う主な変更点

・診断基準として使用される修正Duke基準は2023年に23年ぶりに改訂されました。

・修正Duke基準はIEの診断に関して感度90%、特異度95%とされています。

・改定された修正Duke基準は文献(PMID:37138445)のTable 1を参照してください。

・一部抜粋ですが、実臨床で特に関係しそうな変更点は以下のとおりです。

 <血液培養>

 ・以前は「12時間空けて採取した2セット以上」「3セット以上採取する場合は最初から最後の間隔を1時間以上あける」という記載がありましたが、いずれも削除されています。

 <"典型的な微生物"の定義>

 ・S.lugdunensis, E.faecalis, S.pneumoniae, S.pyogenesを除く全ての連鎖球菌と、Granulicatella spp., Abiotrophia spp., Gemella spp. が”典型的な微生物”に追加されました。

 ・心臓内に人工物が存在する場合において、CNS, Corynebacterium striatum, C.jeikeum, Serratia marcescens, P.aeruginosa, Cutibacterium acnes, NTM, Candida spp.が”典型的な微生物”に追加されました。

 <画像検査>

 ・”大基準”に心臓CTおよびFDG PET/CTが追加されました。

 <小基準>

 ・”素因”の項目に「経カテーテル弁植え込み/形成術」「血管内植え込み型心臓電気デバイス」「IEの既往」が追加されました。

 ・”血管病変”の項目に「脾膿瘍」「脳膿瘍」が追加されました。

 ・”身体所見”の項目に「(心エコーができない場合の)新規逆流性雑音の聴取」が追加されました。以前は”大基準”に含まれていますが、”小基準”に変更された形です。

起因菌

黄色ブドウ球菌はIEにおける主な起因菌です。

CNS人工弁などの人工物に関連する起因菌として知られています。

HACEK(Haemophilus属, Aggregati bacter actinomycetemcomitans属, Cardiobacterium hominis属, Eikenella corrodens属, Kingella属)もIEの起因菌として知られていて、培養に時間がかかることもあるGNRです。

・IEに関連することのある真菌としてはカンジダ、アスペルギルスが知られていますが、血液培養での検出感度が低いため、診断が困難な場合があります。特にアスペルギルスは通常検出がしがたく、診断は弁培養などの組織学的な検査に依るところが大きいです。

画像検査

・経胸壁心エコー検査(以下TTE)は非人工弁関連のIEにおいて感度が約70%であり、人工弁関連のIEでは約50%とさらに感度は低下します。

・検査前確率が低いとはいえないようなケースにおいてはTTEでIEらしい所見がみられなくても、経食道心エコー検査(以下TEE)を必要とするケースもあります。

・TEEはTTEと異なり空間分解能が高いため、感度 95%、特異度 90%と高いことが知られています。

TTEでは評価が十分でないケースや、TTEを実施してもなおIEの可能性が残るケース(例えば修正Duke基準で”possible”な場合や、原因不明の黄色ブドウ球菌菌血症が判明している場合など)ではTEEを検討する必要性が高くなります。

・また心臓内の膿瘍形成についてはTTEの感度が低いことが知られているため、外科的治療を要する可能性が高い膿瘍が疑われる全てのケースにおいてTEEは実施されるべきとされています。

治療

・抗菌薬の選択については起因菌、抗菌薬耐性の有無、人工弁か否かにより異なります。

・当然ですが、MSSAが原因であればCEZが、MRSAが原因であればVCMがそれぞれ推奨されます。

非人工弁関連のIEではアミノグリコシド系抗菌薬による併用治療は死亡率を低下させず、腎毒性を伴うことから推奨されていません。また、RFPも肝毒性と薬物相互作用の観点における懸念から、併用療法が推奨されていません

・ただし人工弁関連のIEで黄色ブドウ球菌が想定される場合においては併用療法、つまりCEZまたはVCMを使用しながら、さらにアミノグリコシド系抗菌薬とRFPとを併用することが推奨されています。

腸球菌性のIEではPCG、ABPC、VCMなどのMICが他の連鎖球菌よりも高いことなども原因し、例えばABPC+GMのように、シナジー効果を狙ったアミノグリコシド系抗菌薬の併用も検討されます。なお、ガイドラインでは腸球菌性のIEでは4~6週間のPCG+GM、あるいはAMPC+GMによる併用治療を推奨しています。しかし、この治療方法は腎毒性のリスクが高く、最近ではCTRX+ABPCによる併用療法を行う場合もあり、こちらの治療方法であれば腎毒性の軽減がより図りやすいと考えられています。なお、腸球菌がペニシリン系抗菌薬に耐性を示す場合はABPCの代わりにVCMを使用可能で、ペニシリン系とVCMとの両者に耐性を示す場合にはLZDまたはDAPTを使用可能とされています。

外科的治療

・外科的治療の適応には心不全を起こすような弁機能不全などの合併症が含まれます。左心系IEの約半数は急性経過のSevereな閉鎖不全症による心不全が原因で、入院中に手術が選択されます。

・そのほか、外科的治療が検討される合併症としては

 ・心臓内膿瘍形成

 ・心伝導障害の出現

 ・疣贅の残存を伴う塞栓性イベントの出現

 ・多剤耐性菌の関与(VRE、MDPRなど) 

 ・持続菌血症 

 ・発熱が5~7日間以上続き、他の遠隔感染巣などが確認される場合

 ・重度の弁逆流所見と10mmを超える可動性の疣贅 などが挙げられます。

・最近の研究では早期の手術介入は必ずしも臨床転帰を改善するとは限らず、外科的介入がなされずに治癒する場合もあることが示されています。

・また以前は真菌性のIEはそれ自体が手術適応と考えられていましたが、カンジダ性のIEでは手術を行わずに抗真菌薬治療のみを行った患者の生存期間が、手術と抗真菌薬治療とを両方行った患者の生存期間と同等ということを示すメタアナリシスも存在します。ただし、アスペルギルス性のIEでは抗真菌薬治療のみでは死亡率が高く、外科的治療が必要と考えられています。

IEの予防

・AHA(米国心臓協会)とESC(欧州心臓病学会)はIEの発症リスクが高い患者に対して歯科治療を行う場合は抗菌薬の予防投与を推奨しています。どうやら予防的抗菌薬投与の割合が少なくなることにより、実際にIEの発生率が高まるということを示すエビデンスには乏しいようですが、やはり人工弁のある患者や、IEを発症した場合に不良な転帰を辿り得ると考えられるようなケースでは抗菌薬の予防投与はメリットがある可能性が示されています。

予後

・IEの院内死亡率は約20%、6ヶ月死亡率は約30%と考えられています。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<読後の感想>

・疫学は米国のものが採用されているため、日本においては多少異なる可能性があり、あえて割愛しました。

・修正Duke基準の改定で変更点は複数ありますが、心エコーの部分についての記載に変更はなく、やはり画像検査の基本は心エコーというふうに理解できました。

・新規の心雑音の聴取や、Osler nodeやJaneway lesionsといった末梢塞栓を示唆する身体所見の感度が高くないことが寂しく感じられますが、"IEを念頭において集中的に身体所見を確認する"場合における感度はこれらのデータよりもさらに高まると信じて診察を行いたいと思いました。

<参考文献>

・Fowler VG, Durack DT, Selton-Suty C, Athan E, Bayer AS, Chamis AL, Dahl A, DiBernardo L, Durante-Mangoni E, Duval X, Fortes CQ, Fosbøl E, Hannan MM, Hasse B, Hoen B, Karchmer AW, Mestres CA, Petti CA, Pizzi MN, Preston SD, Roque A, Vandenesch F, van der Meer JTM, van der Vaart TW, Miro JM. The 2023 Duke-International Society for Cardiovascular Infectious Diseases Criteria for Infective Endocarditis: Updating the Modified Duke Criteria. Clin Infect Dis. 2023 Aug 22;77(4):518-526. doi: 10.1093/cid/ciad271. Erratum in: Clin Infect Dis. 2023 Oct 13;77(8):1222. PMID: 37138445; PMCID: PMC10681650.

・Wang A, Gaca JG, Chu VH. Management Considerations in Infective Endocarditis: A Review. JAMA. 2018 Jul 3;320(1):72-83. doi: 10.1001/jama.2018.7596. PMID: 29971402.

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です