レプトスピラ Leptospira

最近、レプトスピラ症が鑑別に挙がるケースを経験したため、まとめてみます。

疾患の歴史と原因

・1886年にAdolph Weil(アドルフ・ワイル)がレプトスピラ症を初めて報告しました。

・レプトスピラは好気性スピロヘータのうちの1種で、グラム陽性菌とグラム陰性菌との両者の特徴を有した細菌です。

・レプトスピラはこれまでに約240もの血清型が同定されていますが、病原性を発揮するものはそのうちでも僅かに過ぎません。

疫学

・約70%が熱帯地方、特に東南アジア、アフリカ東部、カリブ海周辺、オセアニアで発生しています。

農業従事者、家畜に接触する機会のある人、げっ歯類に触れる機会のある人などがリスク因子です。

・ほぼ全ての哺乳類がレプトスピラの保菌者となり得て、主に腎臓の近位尿細管の部分で保菌すると考えられています。

・ヒトに対する最も一般的な感染経路は感染したネズミの尿で汚染された水に皮膚や傷が触れることと考えられています。

病態

・重症レプトスピラ症の病態は解明されていない部分も多いですが、血管炎らしい病態も伴っていると考えられているようです。またレプトスピラによる組織への直接障害的な機序と、免疫介在性の機序とにより、臓器障害をきたすものと考えられています。それゆえに、重症例においては黄疸や急性腎障害のほか、心筋障害や肺胞出血などを合併することがあります。

臨床症状

・症状は多彩で、軽症でSelf-limitedな経過を辿るケースもあれば、多臓器不全にいたり致死的な転帰を辿るケースまで様々です。

・レプトスピラ症のなかでも、特に眼球結膜充血、黄疸、急性腎障害を伴うものをワイル症候群(Weil’s syndrome)といいます。

・潜伏期間:2~20日間(通常は7~12日間)

・臨床経過が二相性となるケースもみられ、その場合は”Acute phase(急性期)”と

Immune phase(免疫期)”とに区別されます。ただし多くのケースでこれらのPhase同士は重複するため、明確に区別できないこともあります。

<Acute phase>

 ・3~9日間ほど続きます

 ・発熱、悪寒、筋肉痛、頭痛、結膜充血などがみられることがあります

 ・結膜充血は特徴的で3~4日目にみられやすいです

 ・筋肉痛は腓腹部、腹部(急性腹症に似る場合もあります)、傍脊柱筋にみられることもあることが特徴です。

<Immune phase>

 ・血中にIgMが出現し、尿中に細菌が排出される時期に相当します。

 ・臓器障害はこの時期にみられやすいと考えられています

診断

・臨床診断は主に感染源への曝露(ネズミとの接触歴など)と、矛盾しない臨床症状の有無とにより行われます。

・つまり、ネズミなどとの接触歴(淡水曝露歴、渡航歴などもときに重要)があり、全身症状(頭痛、筋肉痛など)、結膜充血、乏尿、咳嗽、皮疹などがみられるケースでは疑うという姿勢が重要です。

・確定診断は病原体の分離(培養法、顕微鏡法など)、ペア血清を用いた顕微鏡下凝集試験(MAT)などによって行われることが一般的ですが、院内の検査室や民間検査機関での実施は通常、困難です。したがって、前述のように状況を総合的に勘案して臨床診断して経験的治療を開始することも多いと思われます。

生じる臓器病変

 <腎臓病変>

 ・尿量減少、血尿、急性腎障害

 <肝臓病変>

 ・黄疸、肝腫大(圧痛を伴う場合もある)、肝酵素が基準値上限の3倍以上に上昇

 ・血清Bil/ALP/γGTP上昇、PT延長

 <肺病変>

 ・咳嗽、呼吸困難、喀血

 ・酸素飽和度低下、頻呼吸

 ・聴診でのCraklesやWheeze

 ・ARDS

 <心臓病変>

 ・呼吸困難、胸痛、頻脈

 ・血圧低下

 ・心電図異常(ST/T変化、伝導異常)

 ・TTEでの壁運動低下

 <血液病変>

 ・出血症状

 ・血小板減少(<13万)、凝固異常、DIC

 <神経病変>

 ・意識障害

 ・髄膜炎

マネジメント

 ・基本的には抗菌薬治療、支持療法での対応が原則となります。

 <入院を検討するケース>

 ・黄疸、尿量減少、血尿、咳嗽、呼吸困難がある場合

 ・臨床的に重症とみなす場合

 <軽症例(臓器病変がない場合)>

 ・DOXY 100mg 1日2回 7日間

 ・血液検査、尿量などについて48時間毎にサーベイランス

 ・外来治療も検討可能

 <入院症例>

 ・治療:PCG 150万単位 6時間毎 点滴静注 または

     CTRX 1g 1日2回 点滴静注

  ※過敏反応などで使用できない場合はDOXYやマクロライド(AZM or CAM)を検討

 ・重症例(循環動体が不安定、呼吸障害など)はときにICU管理を要します

  また肺胞出血やARDSを合併したケースでは人工呼吸管理も検討します。

 ・ステロイド治療の有用性はエビデンスが不足していて、少なくともルーチンでの使用は推奨されません

 ・血漿交換療法は重症レプトスピラ症に利用される場合があり、有用性を示す研究もありますが、エビデンスの質自体は高いとはいえないようです。

予防

 ・ヒト用のワクチンはありません(イヌ用はあるらしいです)。

 ・予防法としては感染の危険性が生じる状況を避けることが基本です。

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<読後の感想>

・実は今回私が経験したケースでは四肢、体幹部に浸潤を触れる皮疹がみられていました。血管炎も鑑別に挙げてWorkupしていたのですが、今回のReview articleでレプトスピラが血管炎のような病態を伴っていると記載されて、腑に落ちた次第です。

<参考文献>

・Rajapakse S. Leptospirosis: clinical aspects. Clin Med (Lond). 2022 Jan;22(1):14-17. doi: 10.7861/clinmed.2021-0784. PMID: 35078790; PMCID: PMC8813018.

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